S8  84-4  恐怖を払え | レクイエムのブログ

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──兄の精神は完全に壊れていた。驕ることなく勤勉で、優しかった兄はもういなかった。そんな兄を見るのが辛くてたまらなかった。


──隊長である兄に加え、副隊長までもが失踪した皇城隊は解散するとSWORD内では言われていた。私もそうなるはずだと思っていた。だって、兄に代わる人材など、いるはずがない。


祖父『皇城隊の隊長は蘭世、お前がなりなさい。』


蘭世「え……」


──存命だった祖父の決断に私は耳を疑った。これからSWORDに入隊する私を隊長に?そんなこと、いくら皇城家のカリキュラムを熟した私でもできるはずがない。いや、周りがそんなことを了承するか?


蘭世「お祖父様、いくら何でもそれは……!」


祖父『できないのか?一番巌也の側にいたのはお前だろう?ならアイツから学んだことは多いはずだ。まさか、ただ側にいたわけではあるまい?』


蘭世「……ッ!」


祖父『周りの連中のことが心配なのだろうな。目を見れば分かる。 なら、皇城家の人間ならば黙らせろ。圧倒的な才覚と結果を以て、周囲の有象無象など納得させろ。 できないなら、今すぐ皇城の名を捨てろ。』


蘭世「……はい。」


──私には最初から否定する権利は無かった。ただ、現場経験のない私が隊長になることで指揮系統が崩壊することを危惧してか、入隊から1年で隊長に就任することとなった。


──兄の遺した皇城隊も、そして兄が守ってきたものを守らなくてはならない。その覚悟を旨に、私は伸ばした髪を切った。兄が褒めてくれた髪を切っていく。だけど最後の一束に、ハサミを通すことができなかった。


蘭世「ぐ……うぅ……!」


──最後に泣いたのはその時だった。私は、皇城隊を率いる者として強くなくてはならない。決して折れず、いなくなることのない隊にしなくてはならない。


──誰も自己犠牲で失わせてなるものか。


──私の隊も、私が守るべきものも、SWORDも全部、私が守るんだ。



──────────


蘭世「〔ハイエンドナイツ〕、突撃。」


皇城の声を号令にハイエンドナイツが軍旗を振る。すると空中に並ぶ無数の盾が一気に動き出し、吾妻めがけ降り注ぐ。


千狛瑠「えげつない攻撃ねぇ!」


降り注ぐ盾の雨を吾妻は走り抜けながら回避していく。それを追尾する盾をフィアーテラーズが弾いていく。皇城はその様子をただ黙って見ている。


千狛瑠「これだけの盾の弾幕を飛ばしていながら視線は私から切らない……よく警戒してるのが分かるわ。」


蘭世「貴様は撃たれるとき、狙撃手の顔を見るのか?」


千狛瑠「?」


皇城の放った疑問の真意に吾妻の理解が追いつくよりも先に、吾妻が何かに衝突する。吾妻の駆け抜けていた先に巨大な盾が仕掛けられていたのだ。それが壁となり、吾妻の動きを遮る。


千狛瑠「ぐぅぅ!」


蘭世「自ら全力で壁にぶつかるのは堪えるだろ?ただ芸も無く、盾を飛ばしてるだけだと思うなよ?」


勢いよくぶつかったことで吾妻はバランスを崩して蹌踉めく。その隙を皇城は見逃さない。次の瞬間には吾妻の真上に巨大な盾を出現させていたのだ。


千狛瑠「!」


蘭世「潰れろ。」


盾が吾妻を押し潰すべく迫る。吾妻は咄嗟にフィアーテラーズで盾を押し上げようとするも、盾が落ちる力の方が僅かに強い。 


千狛瑠「遠隔操作なのにこの力……!いいわね皇城蘭世!ここで潰れてシミになるのかしら!?」


蘭世「いや、貴様の汚れた血肉などSWORDのシミにはさせない。 潰して跡形もなく清掃してやる。」


千狛瑠「潰せるものなら……ねぇ!」


吾妻が皇城の方へ銃口を向ける。それに気づいたときには既に弾は撃たれていたものの、皇城は咄嗟に盾を生み出し、弾を弾いた。


蘭世「悪足掻きを……そのまま潰して……」


千狛瑠「……え?誰を潰すって?」


蘭世「……ッ!?」


突如として吾妻がその態度を一変させた。先ほどまで強敵である皇城との闘いに興奮してた様子を見せていたが、今はまるで凍るような殺気を視線に乗せて飛ばしている。その様子に皇城は思わず背筋に悪寒を奔らせる。


蘭世「クッ……!往生際が……」


千狛瑠「なら早く飛び込んできなさいよ。さっきの突きと私のナイフ、どっちが速いかしら?」


蘭世「……ッ!」


吾妻に促され、皇城はレイピアを構える。しかし1歩が踏み出せない。吾妻が本当にナイフで挑んでくるのか、想定していない搦め手を使ってくるのか、警戒心だけがどんどん高まっていき、吾妻に踏み込めない。


蘭世(何だ……!?何故私は踏み込めない……! いや、何で私は……兄の仇であるアイツを……〔離れたところから圧殺しよう〕としてるんだ……!?)


自身の取った行動に皇城が疑問に思ったとき、気づいてしまった。自分は既に、吾妻の術中に落ちていたことを。


千狛瑠「……ほら、やっぱり兄貴と一緒ね。」


皇城の様子を見た吾妻が悪意に満ちた笑みを浮かべたその時、フィアーテラーズが盾を弾き飛ばしたのだ。フィアーテラーズのパワーが上がっている。それは即ち、皇城が恐怖を抱いた証拠だった。


蘭世「何故だ……!私は……ガスを……!?」


千狛瑠「薄めたガスをゆっくり吸わせてたのよ。色が見えなくなるほどに薄くしてあげたわ。 効果が出るのには時間がかかったけど……それでもお前の思考を乱すには充分。」


蘭世「クッ……!」


ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる吾妻を前に、皇城の呼吸は荒く、心臓の鼓動が早くなっていく。


千狛瑠「さて……第2ラウンドを始めましょう?」