「ごめ~んヤス、大丈夫?」 と呟くと、



「・・・・」とブルーな表情。プールから上がり、私の背後へ回ると



口に含んだプールの水を私の頭の上にビチャッと吐き出した。



「下に水着着てんだよ!」とヤスは勝ち誇って言った・・・。



そうこれが私と同学年のヤス。少し小柄で痩せていて、


チビキャラが定着しているが



極端に小さいわけではない。泳ぎは初心者だが。




そうこうしてるうちにメンバーが揃い始めた。



プールサイドでストレッチしているのが貴司とテツで、


実力は2人とも全国クラスである。



すでにプールに入って



ポカリを飲みながら仰向けで浮いているのが頭脳優秀な陽介、



コースを仕切るロープに寄りかかってお喋りしているのが綾と有希だ。



コーチ室を覗くと淳が今日の練習メニューを見つめていた。


クールなやつで頭も良く、顔も私のタイプだが、



モテ過ぎて色んな噂が飛び交っている・・・そんな人。



顧問の先生はというと、シーズン前の4月の陸上トレーニング中に転んで、



色んな骨を折ってしまったらしい。



今は退院して自宅療養中である。



全国大会が刻々と迫ってきたが、緊張感のない練習が続いていた。

水着に着替えて、シャワーへ向かった。



カチコチでなかなか開かない蛇口を力いっぱいひねると



4ラインあるシャワーの全ての穴から



すごい水圧で水が出て、床のコンクリートを打ちつけた。



思わず笑っちゃった。



床から跳ね返る水しぶきが



遠くのタイルを点々と濡らして行き、



プールサイドの掃除当番のヤスに気づかれた。



とりあえずボケてみようと思い、強烈なシャワーの下に入り、



両手でサイドの髪の毛を洗う仕草をしてみた。



スタスタと近づいてきたヤスはニコニコ笑いながら、



「水たんないでしょ?」



と言い、掃除用の太いホースを私に向けて水を発射してきた。



そんなかわいいヤスのホースを取り上げて、追い掛け回すと



仕舞いにはヤスの足がもつれてプールに落ちてしまった。



コロッケに間違ってお醤油をかけてしまった時と同じように



あぁやっちゃった、と思った瞬間であった。



さあどうする。

深く潜り、暑くて焦げそうだった体や髪の毛を



太陽がとどかない底の方の冷たい水で


冷やしているかのようだった。



火照った頭皮のあらゆる部分でプールの水温を感じた頃、



水から顔を出して私に微笑みかけた。



それにしても、格好付け。



男顔負けな飛び込み方である。



彼女は泳いで戻り、プールサイドの排水溝に置いていた



キャップとゴーグルを付けた。



小ぶりなミラーゴーグルが本当に良く似合う。



私も着替えて準備をしなくては。



もー、本当に毎日暑い。



朝起きた時点で汗かいてるし、時間ないし。



更衣室も暑いし、嫌になる。



でもまぁなんか毎日楽しい、かも。

ひっかけた指でタイルを蹴った。


体は斜め前方へ浮き、


ワンテンポ遅れるようにして、両腕を後ろへ振った。


肘は折れ曲がり、背中のラインを越えた。


足の裏は真夏の空へ向き、無意識に膝も曲げてていた。


体が最高点に達した所で首を下へ曲げ、


2本の上腕で両耳の裏を挟んだ。


曲げていた足を真っ直ぐ後ろへ突き出すと、


勢いにまかせて頭から一気に突っ込んだ。


今日の水はひんやりしていて気持ちが良さそうだ。