ちいさな、おはなし。 -88ページ目

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僕は野球という競技そのものよりも、ボールを投げるのが好きだ。
なぜならボールが、他の何も介さずに、自分の指先から飛んで行くからだ。

◇◇
昨日のチームでの練習。夕方になり、締めくくりの「勝負」が始まった。
センターとレフトの間、つまり左中間の奥深くに立って、構える。
監督がノックを打ち、僕(何の変哲もない元高校球児)と、
もう一人の30代のカリアゲ頭のコーチ(バリバリの元高校球児)が捕る。
それを見届けて子どもたちが三塁ベースをスタートする。いわゆるタッチアップだ。
僕たちの送球、つまりバックホームが勝つか、子どもたちが勝つか。

子どもたちが「一人5回セーフになるまで」、かつ全員がそれをクリアするまで、
延々と続く勝負。。。

僕もカリアゲも手を抜かない。
カリアゲがきれいで真っすぐなバックホームをすれば、
ムキになった僕は、力任せで雑だがとにかく思い切りバックホームをする。
最初はカリアゲとのレベル差に悔しい思いをしたが、
そのうち同じようなボールを投げられるようになり、
しまいにはときどき彼に勝つようになった。

子どもたちを飽きさせないようにという意味もあり、
4回に1回くらいはノーバウンドの球を投げる。
失敗すればただ滞空時間の長いだけの無意味な返球だが、
上手に指先が球にかかれば低い弾道のままボールは飛んで行く。
そうしてギリギリのところでキャッチャーミットに届き、アウトの取れる返球になるのだ。

そんなふうにして続けた真剣勝負、うかつにも僕は子どもたちのことを途中で見失った。
カリアゲに勝ちたくて、カリアゲと勝負していたからである。
内心では尊敬していたこの男に、ちょっとでもいいから一泡吹かせてみたいと思ったのだ。

しかし僕とカリアゲが思いっきりバックホームをすれば、高い確率で子どもたちはアウトになる。
子どもたちからブーイングがとぶ。大人げないじゃないかと(笑)。
それにだ。
足の遅い我が息子は、何度やってもアウトになるので1回も成功できないままずっと残されていた。
とはいえ。
この一連の動作はかなり重労働なので、20分もすれば足腰はふらふらになり、めまいがしそうになる。当然、いい返球ができなかったり、打球そのものをそらしたりすることも増えてくるので、ホームに生還できる子どもたちも増えてきた。

しかし皮肉にも、我が息子のときだけはありえないほどの好返球を投げてしまう自分なのだった。なにせランナーにそのとき誰がいるかなんて遠くて見えないし、見えたとしても手を抜くわけにはいかない。

◇◇◇
こうして延々1時間、ようやく全員がクリア。
練習終了の挨拶をし、しまいには子どもも大人も大爆笑。
さんざん悔しい思いをしたはずの息子は、こちらを見てニコニコしていた。
少しは意気に感じてくれたかよ、と思いきや、ヤツはこう言った。

「おとうが思い切り投げるからこっちは大変だったんだよ。罰として今日は焼き肉に連れて行きなさい」


。。。悪いが、無理。給料日前だもん。

◇◇◇◇
カリアゲには、結果的には肩では勝った。
しかし体力では負けた。

その証拠に。

今日はありとあらゆる部位が筋肉痛で、咳をするのもつらいほどだ。