ちいさな、おはなし。 -86ページ目

旅人と黒い影

男が涙を流しちゃいけないなんて、誰が決めたんだろう。

旅人はそんなことを考えながら、長い長い一本道を、とぼとぼと歩いていました。

冷たい風が、旅人の頬を突き刺すように通り過ぎていきます。
けれども旅人は、そんな風にすら気づくこともなく、すっかり凍えて縮んでしまった心をどうすることもできずに、ただただ歩き続けるのでした。

しばらく歩いたとき、旅人は心に決めました。

そうだ、泣いてみよう。男だけど泣いてみよう、と。

けれども、哀しき旅人がどんなにか涙を流そうとしても、どうしたことか、旅人の目には何の変化も起こりませんでした。

「とうとう、涙にまで見はなされてしまったか。」

旅人がそうつぶやいた次の瞬間、旅人の目の前を、黒い影が横切ってゆきました。

「なんだろう、気のせいか」

そうつぶやきながら旅人がもうしばらく歩くと、旅人の目の前を、あの黒い影が再び横切ってゆきました。

「なんだろう、気のせいか」

旅人が再びそうつぶやいたそのとき、
旅人の目の前に黒い影が立ちはだかりました。

「いったいぜんたい、さっきからお前は俺に何の用だ。」

旅人が勇気をもってそう訪ねると、黒い影は、こう答えました。

「君のいやなことを、食べてあげよう。
そして君の夢に、色をつけてあげよう。」

(つづく)