ちいさな、おはなし。 -85ページ目

旅人と黒い影(その2)

「俺のいやなことを食べる、だって?」

「そう。君のいやなこと。ほら、口をあけてごらん」

「ばかにするな!そんなことができるものか!」

旅人は顔を真っ赤にして、まくしたてるように大声でどなりました。

そのときです。

怒って大声を出した旅人の口から、黒くにごったけむりのようなものが、モクモクと飛び出し始めました。

びっくりした旅人は思わず腰を抜かしてその場にしりもちをつきました。
それでも旅人の口からは、次から次へとけむりが勝手に出て行きます。

そしてそのけむりは、黒い影にどんどんと吸い込まれて行くのでした。


最後のけむりが旅人の口から吐き出されたとき、不思議なことに、旅人の心はすっかり軽くなり、
なんともさわやかな気分になっていました。

「これはどうしたことだ!」

旅人が思わず大声でこう叫ぶと、
今度は、旅人の口から白いけむりが飛び出し始めます。

白いけむりは、やがていくつかの丸いかたまりとなって、旅人と黒い影のまわりを取り囲みました。
そうして、その丸いかたまりは、気持ち良さそうにポッカリ、ポカリと空中に浮かぶのでした。

そのとき。

黒い影が、大きく息を吸うしぐさをしました。
そして。
黒い影は、「ふう~」というゆったりした音とともに、丸いかたまりたちにむかって息を吹きかけました。

すると、なんということでしょうか。

いくつもの丸いかたまりは、次の瞬間、世にもうつくしい、色とりどりの、シャボン玉に姿を変えたのでした。


ちいさな、おはなし。
え:mi-chan


(つづく)