ちいさな、おはなし。 -83ページ目

旅人と黒い影(その3)

色とりどりのシャボン玉たち。

そこには、旅人がこれまでみてきた、いくつかの夢の風景が映し出されていました。

まちかどで、子どもたちを集めて紙芝居をする自分のすがた。

泣いている人に、美しい笛の音色を聴かせてなぐさめる自分のすがた。

心が動かなくなってしまった人を、あたり一面の菜の花畑に連れて行って、いっしょになって「きれいだね」と叫んでいる自分のすがた。

旅人は、自分の夢をこうしてながめるのは初めてでしたから、
それはもうおどろいて、「ああ、そういえばこういうことを考えていたなあ」とつぶやきました。


黒い影は、これらのシャボン玉を見て、ふしぎそうにたずねました。

「きみの夢というのは、こういうことなのかい?」

「こういうこと?ああ、すっかり忘れてしまっていたけれど、俺はこういうことを考えていたんだよ。なにかおかしいかい?」

黒い影は、しばらく黙りこくって考えていました。
そして、こう言いました。

「いや、なにもおかしいことはない。でもね。」

「なんだい?」

「おいしいものをはらいっぱい食べたり、大きな家に住んだり、そういうことはいいのかい?」

今度は、旅人が黙りこくって考えました。
そして、こう言いました。

「そういうこともすてきだね。わるくない。けれど、俺はいいや。だってね。。。」

「だって。。。なに?」

「そういうものって、いつかは消えてしまうじゃないか。」

(つづく)