ちいさな、おはなし。 -89ページ目

駆けてゆく少女

ちょっと休憩ということで、グラウンド横の水飲み場に行くと、5歳になる純が立っていた。
帽子を取った僕の姿を見て、

「あれ?? かみ、 きった?」

と聞く。

おまえはタモリか(笑)。


それはそうと、抱き上げる。
抱き上げると彼女は言った。

「あたち、できたのよ」

「何が?」

彼女は僕にくしゃくしゃの紙を差し出した。

「じ・ゆ・ん」

よれよれの字が書いてあった。

そうか。。。そうか!そうか!!

「よかったね、よかったね純!!」

ありったけの力をこめて抱きしめると、彼女はうれしそうに叫びながら母親のほうへ駆けていった。

「パパをほめてくれた~!パパをほめてくれた~!」


僕は苦笑いしながらチームの練習に戻った。
この際「を」でも「が」でもどうでもよい。十分に喜ばしい出来事なのだから。

と、グラウンドの遠くのほうから、純は駆け出したまま、僕に向かって叫んでいる。

「あたち、さきに、かえってるからね~!」

歩いて数分の自宅に先に帰るという。

しかし、なぜだろう。途方もなくさみしい。
数時間後にはまた会えるのに。確実にまた会えるのに。