ちいさな、おはなし。 -78ページ目

雨に濡れても

会社のある新富町は、銀座のはずれにある、無機質で殺風景で寂しい街だ。


ただでさえ寂しい街に雨が降りしきる。
そうなると、むしろ風流に思えてくるから不思議だ。


そんなことを考えていたら、雨の向こうから、茶色いあの子が足音もなくいきなりやってきた。


傘はさしてない。

正確にいうと茶色と白。絶妙な色合いのコスチュームだ。
目は黒目がち。ちょっと三角目かも。

あの可愛らしさは、言葉では表現しきれない。

心の中で「か・・・かわいい」とつぶやきながらすれ違うと、

そのときに初めて気づいた。

この子、自由だ。束縛されてない。

こんなコンクリートだらけの街で、日々どうやって暮らしてるんだろう。

そうこうするうちに、僕の横を通り抜けたあの子はこちらに背を向けて、
ちょっと行ったところで座り込んだ。

あの犬種の真骨頂は座った後ろ姿である。

くるりんっとした尻尾と、凛とした背中。

これぞ、柴犬の柴犬たるゆえん。

首輪を付けていないあの子は、しかし次の瞬間、雨の向こうに消えちゃった。


あちらは隅田川の方角だ。

また明日会えるだろうか?

会いたいな。