ちいさな、おはなし。 -77ページ目

旅人と黒い影(その4)

黒い影はふたたび黙りこくって考えました。
しばらく考えて、黒い影はこういいました。

「なるほど。たしかにそうかもしれない。それではもう一度見せてあげよう。君の夢を。」

そう言って黒い影はもう一度、その口から色とりどりのシャボン玉を吐き出しました。

旅人はそれをうっとりと眺めていました。

まちかどで、子どもたちを集めて紙芝居をする自分のすがた。

泣いている人に、美しい笛の音色を聴かせてなぐさめる自分のすがた。

心が動かなくなってしまった人を、あたり一面の菜の花畑に連れて行って、いっしょになって「きれいだね」と叫んでいる自分のすがた。。。


しばらくして旅人は、「よし!」と大きな声を出しました。

「こうしてはいられない。もう一度、旅を続けよう。まちからまちへ。世界中の人たちと、楽しいことや美しいことを分かち合うために。」

黒い影は満足そうにほほえみ、そしてこう言いました。

「なにより、なにより!  では、行くがよい。心やさしき旅人よ。」

旅人は不思議そうにたずねました。
「君はいったい誰なんだい?どこから来た?どこへ行く?」

黒い影は、旅人の耳元でそっとささやいてから、ふっと消えて見えなくなってしまいました。

あたりは、たそがれどきです。

旅人はふたたび歩き始めながら、黒い影が言い残していったこんな言葉をくりかえしつぶやくのでした。

ぼくは君だ。
これからも君といっしょに旅をするんだよ。

もう一度ぼくに会うことはできる。その方法はある。そのためにはね。

そのためにはね。。。


(おわり)