ちいさな、おはなし。 -64ページ目

雨ふり通り

傘をさして待ちわびる僕と、見知らぬメガネ男のもとに、
ようやくバスがやって来た。

しかしよくよく見るとそれは「回送」。
僕とメガネは、大きくため息をついた。

向こうから、今度はタクシーがやって来る。かなりスピードを出している。

「バシャバシャッ」

という大きな音とともに、その跳ねっ返りが、僕とメガネを同時に襲う。

僕とメガネは、思わず同時に後ずさりをする。

あまりにもベタなシーンが現実に起きたので、僕は思わず苦笑した。
こっそり横を見やると、メガネも苦笑している。

やれやれ・・・けれどこの滑稽な一幕が、僕たちを和ませたことは確かだ。

15分ほどが経ち、ようやくお目当てのバスが来たとき、
僕とメガネは、とうとう顔を見合わせて、互いの安堵感を確かめ合った。
つとめて控えめに、けれどニッコリと。


3つ目の停留所で、メガネは僕より一足早く降りていった。
どうしたわけか真っ赤な色をした傘を、大事そうに抱えながら。

僕は、そんなつかの間の友人の背中を、ただ見送った。

家に帰る。僕たちは家に帰る。
その日どんなことがあったにせよ、家に帰るのだ。