穴を通して見えた景色は、ヤシの木、白い砂浜、そして珊瑚に囲まれるライトブルーな海。

恐らく、あくまで推測だが…

「沖縄か?」

「そうよ。」

なんてこったい。
飛行機で片道約二時間のフライトを一瞬で、しかもタダで来ちまったってのかい?
この“瞬間移動部屋”が普及してしまったら航空会社は大打撃を喰らうだろうな。

まぁ絶対と言っていいほどあり得ないが。

ななみの背丈約150cmの高さに空いた穴を足から潜り、フカフカした砂浜に飛び降りた。

…見切り発車だった。
突然、空中に空いた穴に物珍しそうに群がる地元民か観光客か知らないが、俺がその穴から出てくる瞬間をバッチリ目撃されてしまったのだ。

およそ10個の視線が痛いぜ。
まるで珍獣を見るかのようだ。

「いやぁ…コレは~そのぉ~…ハハッ気にしないで下さい。」

飛びきりの愛想笑いで応えるが、…時既に遅し、だ。

「はやく行くわよ。」

トンッと軽やかに沖縄の地に足を踏み入れたアヤミは、資料質へと続く出入り口に手をかざすと、なんと…見る見るうちに塞がっていくではないか。

その光景を目にした村人Aがこう言った。

「う…宇宙人だ…!」

ハイ正解。
君に口止めという景品を贈呈したいが…口に戸は立てられないんだよな。

そそくさとその場から立ち去るアヤミの後ろ姿を見て、そう思った。

明日オーディションライブで朝早いってのに、参っちゃったよ。

DVDに録画したビートルズ特集に魅入っちゃって寝れやしないよ。

上田一家は専らビートルズびいきでね、兄に至ってはデッカいレコード盤まで持ってるほどなんだ。

ビートルズの他にも有名どころは幼かった僕の耳の中に詰め込まれ、頭の中に叩き込まれたんだ。

…今思うとドローウィンの音楽は僕の家族と大きく関わっているかもしれないな。

堀畑クン一家は音楽にあまり興味がなくて、僕とバンドを組むまで堀畑クンはビートルズもサイモン&ガーファンクルも知らなかったんだ。

あん時は驚いたよ。
急いでCDを貸したよ。

そして堀畑クンの感想は

「外人すげぇな」

当たり前だバカチンが。

そこからだよ。
堀畑クンはサビがはえるようなAメロBメロを作り始めたんだ。

歌詞は相変わらずトンチンカンな暗号みたいだけど、それが彼らしさなんだ。
絶対誰にも真似できないし、よくあるありきたりな歌詞よりだいぶ素敵だ。

そんな堀畑クンの歌詞を馬鹿にするやつにはこう問い詰めたい。

“りんごを違う言い方で呼んでみろ”

どうせ
“禁断の果実”
とかベタな答えが返ってくるに違いない。

堀畑クンはなぁ

“りんごを違う言い方で呼んでみろ”

と問うとなぁ

“お赤飯”

とか

“カブトムシの交尾”

とか

“振替休日”

とか

普通そんなこと思い付かないだろう?
って答えをバシバシ投げつけるんだ。

堀畑クンを馬鹿にしていいのは僕だけなんだ。

ごめんよ。
どうやら本格的に風邪をひいてしまったようだ。

この状態でライブしても恐らく満足のいくパフォーマンスができないと思うから今日は中止にします。

毎週楽しみにしてくれてる方々、ごめんなさい。

寒くなってきて、みんなも風邪には注意してね。