さっき今まで取ってきたアンケート集計を見ていたんだ。

その数なんと300枚。半年でこんなにいったんだ。
驚きだよ。



“MCでのエロトークは軽く引きました”

あ~あの時かぁ。
懐かしいなぁ。

“上田さん僕の先輩に似てて面白いです”

先輩って誰だよ。

“暴れすぎ。他の人に迷惑です。”

路上ライブの時だな。
あん時はどうかしてたよ。

“堀畑さんと見つめ合って歌っちゃって、デキてるの?”

勿論。

“堀畑さん、小池徹平に似てて超イケメンですね☆”

どこが?




果たして僕らは成長しているのだろうか?
お客さんは着々と増えてきてるけど、いったい僕はどういう大人になりたいのだろう。

疲労困憊。
考えすぎちゃったよ。

寝よう。

歴史ってのは大抵、破壊、侵略、殺戮と過つ出来事の中に入り浸っている。

沖縄戦もその中の一つだ。

小学校の歴史の授業で初めて沖縄戦の大惨事を聞いた時、俺は教科書で顔を隠し声を殺して泣いた。

人が人を撃ち殺し、焼き殺し、子供までもが犠牲になり、恐くて、恐くて泣いた。

「アヤミ…」

俺は彼女の隣に座り、頭を撫でてやった。

「異星である地球の歴史に涙するなんて…お前は優しいんだな。」

「ううん…違うの。」

「?」

俺は撫でる手をとめた。

「秘密事項なんだけどね…アキトさんには話すわ。」

彼女はグスンと鼻をすすった。






暗闇の山中にBGMとして流れる波の音。
満天な星空が綺麗だ。
…皮肉なほど綺麗だ。

アヤミは

“じきに宇宙規模の大戦争が起きる”

と言った。

何故?

“エルスの影響”

はぁ?

「地球人に影響されて戦争を始めるってか?馬鹿じゃないのか?」

「あたしもそう思うわ…。みんな、戦争をすれば精鋭なエルスの民のごとく、限りない知恵が身に付くと思ってるのよ…。」

馬鹿だ。
実に馬鹿だ。
そんな脳足りんなヤツらがよくここまでやってこれたもんだ。

「でもおかしくないか?」

精子データの話はどこに行った?

「流出した精子データと俺のDNAを採集して自分らの遺伝子に組み込むことが最終目的なんじゃないのか?」

「勿論そうよ。でもそれだけじゃエルスに近付けない…。」

「はぁ…」

俺は深々と憤りの混じるため息をついた。

「…で遺伝子を組み替えた上に、もはや地球の文化となってる戦争の真似事をして、憧れのエルス様に近付こうってか?」

「真似事ではないわ。星と星があげる全面戦争よ…。」

「なら“じきに戦争が起きる”って言葉は間違っているな。」

「え?」

え?じゃねぇよ。
それじゃあまるで俺らが敗北宣言してるようなもんじゃないか。

「俺が奴らに捕まんなきゃ戦争は始まんないんだろ?」

絶対逃げきってやるさ。

彼女はつい先程までヨロヨロでまともに歩けない状態だったのに、沖縄についた途端背筋をピンと伸ばし踏み場の悪い砂浜でも良い姿勢を保ち歩いている。

「なぁアヤミ。左腕の傷は大丈夫なのか?」

「……」

聞こえてないのか?

「おいアヤミ!!!傷は大丈夫なのか!?」

「……」

シカトだな。
大声で尋ねたんだ。
聞こえていない訳がない。
何だってんだよ。

無言でアヤミの後をつけること10分。

彼女は人気のない海岸沿いの小さな山に入り、こちらを振り向きようやく口を開いた。

「この山はあたしが初めてエルスの地に降り立った場所なの。」

背の低い熱帯地域に生息するような木々をくぐり抜け、たどり着いた場所は海を見渡せる懸崖だった。

隠れ絶景スポットと言っても過言じゃない。
ちょうど夕日が珊瑚の海に沈む頃合だ。

「本当…エルスって美しい星だわ…」

それを聞いてなんだか誇らしげになる自分は愛国心ならず、愛星心が豊かなのかな。

「……」

夕焼けに染まる海を眺める彼女の瞳にうっすらと涙の膜が張る。

「…アヤミ?」

「……。」

俺の小さな呼びかけはどうやら波風によって流されてしまったようだ。

そして

「…なんでエルスは同じ民同士で争いをするの?」

は…?

アヤミの思いもよらぬ問いかけに俺の思考は一瞬、停止した。

…民同士の争い?
戦争のことか?

「昔、この島が戦場になってしまって…沢山の人が死んでしまったの…」

知ってるさ。
日本人ならば忘れちゃいけない歴史だよ。

「なんで!?なんでそんなことが起きるの!?」

遂にアヤミの目から大粒の涙が溢れ出した。

「エルスだけだよ…そんなことするのは…」

彼女はうずくまるように座り込み、声を上げて泣き始めた。