彼女はつい先程までヨロヨロでまともに歩けない状態だったのに、沖縄についた途端背筋をピンと伸ばし踏み場の悪い砂浜でも良い姿勢を保ち歩いている。

「なぁアヤミ。左腕の傷は大丈夫なのか?」

「……」

聞こえてないのか?

「おいアヤミ!!!傷は大丈夫なのか!?」

「……」

シカトだな。
大声で尋ねたんだ。
聞こえていない訳がない。
何だってんだよ。

無言でアヤミの後をつけること10分。

彼女は人気のない海岸沿いの小さな山に入り、こちらを振り向きようやく口を開いた。

「この山はあたしが初めてエルスの地に降り立った場所なの。」

背の低い熱帯地域に生息するような木々をくぐり抜け、たどり着いた場所は海を見渡せる懸崖だった。

隠れ絶景スポットと言っても過言じゃない。
ちょうど夕日が珊瑚の海に沈む頃合だ。

「本当…エルスって美しい星だわ…」

それを聞いてなんだか誇らしげになる自分は愛国心ならず、愛星心が豊かなのかな。

「……」

夕焼けに染まる海を眺める彼女の瞳にうっすらと涙の膜が張る。

「…アヤミ?」

「……。」

俺の小さな呼びかけはどうやら波風によって流されてしまったようだ。

そして

「…なんでエルスは同じ民同士で争いをするの?」

は…?

アヤミの思いもよらぬ問いかけに俺の思考は一瞬、停止した。

…民同士の争い?
戦争のことか?

「昔、この島が戦場になってしまって…沢山の人が死んでしまったの…」

知ってるさ。
日本人ならば忘れちゃいけない歴史だよ。

「なんで!?なんでそんなことが起きるの!?」

遂にアヤミの目から大粒の涙が溢れ出した。

「エルスだけだよ…そんなことするのは…」

彼女はうずくまるように座り込み、声を上げて泣き始めた。