「ただいま戻りました!」

威勢のいい挨拶と共に入室した、またしてもスーツを着た黒縁メガネの男がやってきた。

地球人と宇宙人のハーフ生産計画に唖然とする俺に、メガネ男はペコリと挨拶をした。

「どうだった?」

武田は男に謎の問いかけをした。

「はい。確かにアキト様のアパートに爆弾が仕掛けてありました。」

え?コイツが爆弾処理班なのか?
随分と軽装な格好だな。

「…一体何の爆弾だったの?」

アヤミちゃんは不安を隠しきれない表情で聞いた。

「はい…実は………」

メガネ男は言葉を詰まらせた。

そして

「…ブース爆弾でした…」

それを聞いた2人はハッと息を飲んだのがわかった。

「…け…検出された火薬の量は?」

彼女は額に汗を滲ませ問った。

「エルス単位で…5グラムです…。」

「ご…5グラムも!?」

彼女の大きな瞳は更に見開き、手を口にあてがい絶句した。

「クソ!エリオネットの奴らは何を考えてるんだ!!!」

武田はドンッと机を叩き、頭を抱えた。

…。
あの~
緊迫した空気に水を差すようなことを今から言いますが…

「ブース爆弾って何スか?」

あと検出量5グラムって超微量じゃん。
打ち上げ花火にすらならないんじゃない?

「ブース爆弾とは…」

恐る恐る口を開いたのはアヤミちゃんだった。

「先進惑星では使用禁止になってる……超兵器爆弾なの…。」

ちょ…超兵器?

「0.1グラムのブース火薬さえあれば、惑星1つをも消し飛ばす…最も危険な爆弾だ…。」

マジかよ…

「もしあの時、あなたが鍵穴を回していたら…エルスどころか太陽系までもが消滅していたところだったわ…。」

「…。」

この話が真実かどうか知る術はないが、俺はマジで背筋が凍った。
疑問その1

「まず、精子データってなんスか?」

この騒ぎの根本は俺の精子らしい。
俺がデリヘルなんか呼ばなかったらこんな事にはならなかったはず。

俺はアヤミちゃんから差し出された水をコクリと飲み、フワフワなソファーに腰をかけ、回答を待った。

「…その前に我々がエルスに居る理由はご存知ですか?」

武田さんは回答じゃなく、質問をぶつけてきた。
ここで補足、
エルス=地球、又は地球人な。たぶん。

住居理由か…確か昨日、アヤミちゃんがなんか言ってたなぁ。
でもあの時全く聞いてなかったし…

「忘れました。」

と俺は素直に答えた。

俺と向き合うようにソファーに座った武田さんは

「地球人の生体を調査するためです。」

と彼女が差し出す水を受け取り答えた。

あっ思い出したぞ。

「確か…資源の少ないこの地球で、ここまで文明を発達させた人間に興味があるんでしたっけ?」

そんなことを彼女は言っていた気がする。

「その通りです。」

目の前のテーブルに紙コップを置き、武田さんは続けた。

「我々は全惑星人の中で、エルスの民が一番優れた知能を持っていると考えております。」

いやいや。

「それはないでしょ?」

これは謙遜なんかじゃないぞ?

「もし、あたし達の惑星くらい資源がエルスにもあったら…きっともの凄い文明になっていたと思うわ。」

彼女は難しい顔で持論を唱えた。
そこで俺は

「少ない資源だからこそ精一杯知恵を絞ったんだ。その結果がこうなったんじゃないのか?」

即興で考えた自分なりの意見で反論した。

地球人は俺を含め怠け者が多いからな。
もし地球にたくさん資源があったらきっと宝の持ち腐れだと俺は思う。

「でもここまで文明を発達させたのは事実ですよ。」

武田さんは結果論を言ってしまった。
それを言っちゃ討論終了だよ。

俺は小さくため息を吐き

「で、そんな賢い地球人のDNAを研究しようと、デリヘルで精子を採集していた訳ですね?」

答えに限りなく近い質問をした。
金も稼げてまさに一石二鳥だ。

「やはり鋭いですね。さすがエルスの民です。」

いや、ここまで話を聞けば地球人じゃなくても容易く推測できると思うけど。

「でも採集の理由は研究だけのためではありません。」

男は少しゆるんだネクタイを締め直し

「我々がエルスにいる一番の理由…それは、コリンとエルスの混血種を造りたいからです。」
「…。」

中は至って普通だ。
ホント、普通のオフィスって感じ。

「イメージとちょっと違うな…」

「デリバリーだもん。どこもこんな感じよ。」

そうなんだ…。

1つ雑学を得たなと店内を見渡していると

「アキト様、お待ちしてました。」

後ろから聞き覚えのある男性の声がした。

「私、武田と申します。」

ビジネススーツをバッチリと着こなした男が俺に挨拶をする。

「あ、初めまして。僕アキトと申し」

「この度は大変申し訳ございませんでした。」

自己紹介の途中、武田さんは俺に深々と頭を下げた。

あっ
この人の声、電話の時に聞いたんだ。

どうりで聞き覚えがあるわけだと謎を解明したところで、俺は

「別にいいですよ。」

頭を上げてくださいと懇願した。

「…いえ、あなたの精子データを流出させてしまったのは間違いなく我々。その責任は必ずとります。」

一向に頭を上げる気配のない武田さんは謝罪し続ける。

う~ん
ここまで謝られるとさすがに気が引けるなぁ。
ていうか俺全然怒ってないんだけど。

「…あの、ちょっと色々と質問してもいいですか?」

謝罪するなら一応謝罪理由を知っておきたいからな。

俺は現時点で疑問に思っていることを全てぶちまけようかと思う。