電車は俺を地元駅から13区間先の見知らぬ土地へと運んだ。

駅に降り立った瞬間、森林の香りがした。
つまり田舎町って訳だ。
見渡す限り緑、緑、緑…
目の保養になるな。

「あたし達のお店この辺りにあるから。」

改札を抜け、駅の外へ出た。

夏の陽射しが暑い。
帽子持ってこればよかった…。

「あ、でも部屋に入ってたら爆発してたんだよな…?」

「え?何か言った?」

「いや、独り言。」

地元ではまだ羽化していない蝉が、ここでは盛大に雑音ハーモニーを奏でている。

畦道をしばらく歩き、彼女は立ち止まり

「ここよ。」

と指差すその先にあったのは、…なんていうか、“いかにも”って言葉が似つかわしい建物だった。

“エンジェルランド☆イキイキヘブン”
と夜になると恐らく光り輝くであろう看板を掲げるピンク一色の建物。
田舎町にナンセンスな彩色だ。

「入って。」

彼女は自動で開く、スモークされたドアをスタスタとくぐり抜けた。

とても入りづらいが…

「おじゃましま~す…」

控え目に来店した俺に、エアコンの冷たい空気が出迎えてくれた。

来てくれた方、ホントにありがとう。

こんなこと言ってしまったらダメかもしれないけど、ホント自分のパフォーマンスの未熟さに嫌気がさすよ。

毎回ライブをすると当然改善すべき点が見つかって、それを次のライブに生かそうと練習して本番に望むけどまだまだ理想には全然届かなくて。

それでも僕らのことをずっと応援してくれてるお客さんがいて、ホントに嬉しいよ。

これからドローウィンはもっともっと良くなるから、否、絶対良くするから見ていてね。

てっきり俺は、UFOかアジト的な地下シェルターに連れ込まれると思ったが、そんなことはない。
今俺がいる場所は鉄のレール上を鉄の車輪で走る、電車の中だ。



「…エリオネットってのも、宇宙人なのか?」

俺は先程の話を続けた。

「そうです。エリオネットという資源にとても恵まれた惑星に住む人達です。」

資源にとても恵まれた、か。
某国が聞いたら飛びつきそうだな。

「そいつらの爆弾をほったらかしにしても大丈夫なのか?」

「いえ。爆弾処理班を手配させましたから。」

なら安心だ。
あんなボロアパートでも大事な我が家だからな。

「…で、アヤミちゃん達はなんていう惑星から来たの?」

「はい。コリン星です。」

「……………。」

ふざけてんのか?

「安心してください。テレビに出てるあの方はれっきとした地球人です。」

いや、
そうじゃなくて…。

「知ってました?あの方、不思議ちゃんキャラで我々視聴者を偽ってるのですよ!どうしてエルスの人達は嘘ばかりつくのですか?」

俺が質問されちゃったよ。
まぁいいや。

「君たちは嘘をつかないのか?」

質問を質問で返してやろう。

「はい。あたし達コリンは絶対嘘は言いません。アキトさん、あなたも昨日あたし達に嘘をつきましたよね?」

え?
ついたっけ?

「自覚がないのですか!?ホント、エルスって恐いわ…。」

彼女は軽蔑の眼差しで俺を見る。

「アキトさん、あなたまだ18歳でしょ?」

あっ!
思い出した!

「俺、昨日電話注文で23歳だって偽ったわ。」

「ホンっト最低です。」

だって君らのお店、20歳からだもの…

「でもな」

俺は彼女の薄いブルー色の瞳を見て言った。

「人間、時には嘘をつかなきゃいけない場面だってあるんだよ。」

18年しか生きていない世間知らずの若造の言うことだが、これは確かなことだ。

それを聞いた彼女は

「デリヘル呼ぶことが嘘をつかなきゃいけない場面だと言うの?」

いいえ
スミマセンでした