一人旅で温泉に行った時に、やる事がなくて宿の周りを勝手気ままに散歩していた。
テクテクと温泉街の外れまで歩いていると古いトンネルが見えて中に進んで行った。
まだ昼間なのにトンネルの中は薄暗くひんやりと涼しかった。
そのままトンネルを抜けようとしたら出口の横にバイクが停まっているのが見えて、その傍らにはフルフェイスを被ったライダーが立っていた。
ところが、そいつはマネキンみたいにピクリとも動かなくて、何をしているのだろうと怪訝に感じながら横を通るときに軽く会釈をした。
すると向こうも頭を下げてきたのだが、頭からフルフェイスが地面に落ちて「ガコーン」と大きな音がトンネルに鳴り響いた。
――頭のない男が目の前に立っていた。
一瞬頭の中が真っ白になったが、作り物ではないのかと考えがよぎった。
だが突然、頭のない男は両手を前に伸ばすと足の関節を曲げずに左右に揺れながら自分に向かってきた。
息を飲み込むような悲鳴をあげて宿に引き返そうとトンネルの中に駆け戻ったとき、暗い足下で何かに蹴飛ばして「ゲフゥ!」と変な声が聞こえてきた。
あのときサンダルを履いていたから、わかったのだが……あれは人の頭の感触だった。