獲物を追い掛けられないのにどうやって!? 線虫が反撃するケースも
飢えの苦しみから逃れるため、手も足もない菌に何ができるのだろう?
驚くべきことに、捕食者に変身する真菌がいる
アルスロボトリス・オリゴスポラ(Arthrobotrys oligospora)だ
A. オリゴスポラはほとんどの場合、枯れ葉などを分解して日々をしのいでいる
しかし、栄養不足に陥ると肉食性になり、無防備な線虫を捕食するのだ
とはいえ、ほかの捕食者と異なり、獲物を追い掛けることはできない
11月21日付けで学術誌「PLOS BIOLOGY」に発表された研究は、A.オリゴスポラが進化させた巧妙な狩りの方法の一端を詳しく解き明かした
においで線虫をおびき寄せる
A.オリゴスポラは近くにいる線虫を感知すると、フェロモンを使って菌糸体に誘い込む
菌糸体は真菌を構成する菌糸のネットワークだ
論文の最終著者である台湾、中央研究院分子生物学研究所研究員のイェン・ピン・シュエ氏によれば、A. オリゴスポラは「においを擬態して、線虫やその近縁種の嗅覚ニューロンに働き掛け、獲物をおびき寄せる方法を進化させたようです」
つまり、餌が使うフェロモンを分泌し、誘惑するのだ
線虫は「アスカロシド」というフェロモンを使って、行動と発達を制御している
A. オリゴスポラのような真菌は、アスカロシドのシグナルの分子パターンを「傍受」し、検知できるとされている
線虫をとらえるわなはエネルギーを大量に消費すると考えられており、A, オリゴスポラは獲物が近くにいるときだけわなをつくる
アスカロシドを傍受できるおかげだ
無害な分解者から捕食者に変身する真菌はA. オリゴスポラだけではない
ヒラタケが生成する物質も、獲物の線虫を接触から数分でまひさせる威力を持つ
「このようなことを可能にするメカニズムを分子レベルで解明したいと考えています。もっと具体的に言えば、A.オリゴスポラが線虫を感知し、捕獲することを可能にしている遺伝子やタンパク質は何かということです」とシュエ氏は述べている
「第1段階では、タンパク質の合成が増加します。わなをつくるのに大量のタンパク質とDNAが必要なためです。第2段階では、タンパク質が発現します。タンパク質が細胞の外に分泌されるということです。わなは非常に粘り気があり、接着剤の役割を果たします。最後の段階では、酵素が線虫の消化を助けます」
逆襲する線虫、ミクロの世界の「軍拡競争」
しかし、この高度な擬態と捕食をもってしても、原始的な線虫から反撃を受けることがある
シュエ氏は真菌の高度な技術に合わせた線虫の進化を「進化の軍拡競争」と表現している
これらの線虫が進化し、新たな捕食者である真菌に適応できるかどうかも興味深い問題だ
捕食者と獲物の共進化の行方は?
その答えはまだわかっていない
シュエ氏は線虫の行動の変化、運が良ければ、逃亡につながるメカニズム、そして、分子レベルでの変化も解明したいと考えている
(この記事は、NATIONAL GEOGRAPHICの記事で作りました)
ミクロの世界にはミクロの世界の驚くべき世界があるんですね
地球上には肉眼では捉えにくい・捉えられない「ミクロの世界」があり、「ミクロの生物」もいます
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