労働者が給与をスマートフォンの決済アプリで受け取れる「デジタル払い」が1日に解禁され、国が参入を希望する業者の受け付けを始めている
夏頃には本格始動する見込みで、若者らに普及するスマホ決済の利便性向上が期待される
一方、損害補償や安全面に対する懸念もあり、利用には慎重な意見もある
■利用額急増、10兆円超
給与は労働基準法上、現金での支給を原則とし、銀行口座に支払えることを施行規則で認めている
政府は給与のデジタル払い導入を2020年7月の成長戦略に明記
厚生労働省は昨年11月の施行規則改正で、スマホの決済アプリを運営する資金移動業者の口座も対象に加えた
一般社団法人「キャッシュレス推進協議会」によると、決済アプリの利用額は18年の1650億円から22年は10兆7968」億円に急増している
飲食チェーン店でアルバイトする大阪府吹田市の男子大学生(20)は「普段は現金をほとんど持ち歩かず、生活費の大半をスマホ決済で済ませている。デジタル払いが導入されればぜひ利用したい」と歓迎する
労働者は給与が直接アプリに振り込まれるため、従来のように現金自動預け払い機(ATM)で給与を引き出してアプリにチャージする手間が省ける
給与を支払う企業側にも振込手数料の削減や日払いへの対応でメリットが見込まれる
■「利用したい」19%
だが、労働者側には慎重な声が多い
人材サービス大手のエン・ジャパン(東京)が1月に公表した調査結果(1万2171人が回答)によると、デジタル払いを利用したい人は19%だった
世代別で最も多い20歳代でも26%で、「スマホ決済が使える店舗が限られる」「預金金利がつかない」などの反対意見があった
資金移動業者が破綻した場合、預けた給与が補償されるかどうかも不安視される
資金移動業者は84社(3月時点)あり、資金力の乏しい新興企業もある
4月1日から参入を希望する業者の申請が始まり、早速、最大手の「Pay Pay(ペイペイ)」が参入を表明した
厚労省は数か月かけて審査する
アプリ口座残高の上限は100万円としており、破綻時や不正利用された場合の損失を全額補償する仕組みを確認する
財務状況を報告できる体制などもチェックし労働者がサービスを受けられるようになるのは今夏頃とみられる
安全面でのリスクも指摘される
IDやパスワードを盗まれ、第三者に不正利用される被害が後を絶たないためだ
セブン&アイ・ホールディングスが19年7月にサービスを始めた「セブンペイ」は本人確認の方法が脆弱で商品が不正購入される被害が頻発し、わずか3か月で廃止に追い込まれた
各社も対応に追われている
KDIの「auペイ」では昨年11月にログイン時の認証方法を変更
「ペイペイ」は人工知能(AI)を活用し、不自然な決済がないか24時間監視する対策を取っている
横行しているのは「フィッシング詐欺」の手口だ
資金移動業者などになりすました偽のメールやSMS(ショートメッセージサービス)がスマホに送りつけられ、アクセスすると暗証番号などが盗み取られ、決済アプリを不正利用されてしまう
犯罪グループが無差別に送信しているとみられ、IT関連企業などで作るフィッシング対策協議会(東京)によると、22年の報告件数は約96万9000件で、21年(約52万6000件)から大幅に増えている
立命館大・上原哲太郎教授(情報セキュリティー)は「スマホ決済では被害が出て企業が対策を取っても、犯罪者が新しい手口を生み出す『いたちごっこ』となっている」と指摘
「例えば、一部の金融機関で導入されているが、本人確認時の必要な情報に口座残高の下4桁を加えれば、他人によるなりすましを防ぐのに有効だろう。犯罪者が手を出さなくなるまで、絶え間ない改善が不可欠だ」としている
(この記事は、読売新聞オンラインの記事で作りました)
デジタル給与が解禁
便利さもあるが、セキュリティ面の改善も必要だ
利用者が安心でき、増えなければ・・・
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デジタル給与のメリットとデメリットとは