あんたは払うよ、権藤さん。の真意 -67ページ目

あんたは払うよ、権藤さん。の真意

ご来場いただきまして誠にありがとうございます。「その1」などと付してある記事は続き物になっていますので、数字の若い順にご一読いただけると幸いです、としていたのですが、最近、数字入れ忘れてました。ごめんなさい。では、そろそろ開演です。Oh, yeah! Play it loud!

「というわけで、」私はヨシオに言った。


「何にでも順番を付けたがる人ってのはお前の嫁さん以外にもいるんだよ。心配するな。受験のヘーガイってやつかな~」


「でも、お前はイシハラと生活しているわけじゃない。俺は一緒に生活してるんだ」とヨシオは言った。


ドキリ。まあそうだけどさ。


「いいじゃないか。ブログ、期待してるぞ。『100枚の皿と1枚の皿』だっけ?」


「ああ、そうだ。ほかにも『謝るほどのことではないから』って話もある...『アルコールでカロリー摂取』とか...『ママとパパは相性が悪いの!事件』ってのもあったな...『リズムが狂うの』なんてのも...」とヨシオは遠くを見る目をして言った。


「へー、ネタには困らないな。」


「感心してどうするんだ?お前は面白いかもしれないけど、すべて俺の身に起こっていることなんだぞ!?それにブログやる時間なんかないよ。」




ヨシオと私は『トムコリンズ』を出た。


四半世紀経っても、店は何も変わっていない。客の年齢層が上がったことを除いて。マスターが年齢を重ねたのと同じように。そして私も。


<おしまい>





(注)店の名刺を確認したところ『トム・コリンズ』ではなく『トムコリンズ』となっていました。失礼致しました。
















私は、バー『トム・コリンズ』にいた。

仕事に電車で出かけて、帰りが店の開店時間を過ぎた場合は大抵寄ることにしている。駅からは歩いて3分といったところだ。


その日も私はカウンターの一番奥の席に座っていた。空いていれば、私が座るのはいつもそこだ。

2、3杯飲んで、ふと横に顔を向けると、懐かしい顔があった。

中学時代の同級生、イシハラがいた。

「あれ?」

「あれ~?」

驚きと、久しぶりだね~といったお決まりの台詞が済んだ後、イシハラが言った。

「いつ頃からこの店に来てんの?」

「店が出来たときから来てるよ。」

私が大学生の時に出来た店だ。30年にはまだ足りないが、4半世紀は前のことになる。

「えー?それはおかしいなあ、俺も出来た頃から来てるけど、これまで会ったことがないなんて。」とイシハラは私を凝視した。

「そんなこと言ったって、お互い毎日来ているわけじゃないだろ?何がおかしい?」

「おかしいよ。俺は店が出来た時から来てるんだぜ。本当に最初から来てる?」

「ああ。来てるよ。」

「本当?」

「本当だよ。そんなこと嘘ついてどうする!?でも、イシハラの方が最初に来てると言うならそれでいいよ。別にどっちが先にこの店に来たかなんてどうでもいいことじゃん?」

「いや、そういうわけにはいかない。どっちかが先に来てるんだから」とイシハラは引かない。

「だからさ、俺も最初から来てるんだけど、イシハラがイシハラの方が先だって言うなら、お前が先ってことでいい、って言ってるんだよ。」しつこいな。

「駄目だよ。二人で争っても無駄だな」とイシハラは言った。おい、私は争うつもりは全くないぞ。

「マスターに聞いてみよう。」イシハラはマスターに聞いた。「マスター、どっちが先にこの店に来ました?」

マスターはゆっくりと私の名前を言った。

何と表現すればいいのか、イシハラは悲壮な顔をしていた。

何がそんなに残念なのだ?何が悔しい?

別にお前の一生が台無しになるわけではあるまい?

<続く>


「と、まあ、こんな感じでさ...もっと他にも沢山あるんだけど。性格が違うって言えばそれまでだけど、俺にはさっぱり理解できないんだよな~」

ヨシオは自分の配偶者の一連のエピソードを話した後で私に言った。


私は、『トム・コリンズ』というバーでヨシオの話を聞いていた。


「面白い話じゃないか?ブログでも始めれば?鬼嫁日記とかいう題名でどうだい?」と私は言った。

「お前からすれば面白いだろうが、俺はちっとも面白くないぜ。それに、鬼嫁とは言ってないぞ。これは悪口ではない。単に事実を事実として述べているだけだ。同じようなことを知り合いの女性にも言われたけどね。」


ヨシオの配偶者の話は、確かに私にも理解不可能だった。

ビートルズの人気の理由に何故フレディ・マーキュリーが出てくるのか、洗濯物に手を伸ばしただけで何故怒鳴られなければならないのか。


ヨシオは、まだその他にも沢山の話があるという。

「『100枚の皿と1枚の皿』っていう話があるんだけどさ、」

何だ?『金の斧と銀の斧』みたいだな?

「ちょっと待て。題名からして面白そうだが、それはブログに書いてくれ」私はヨシオを遮った。


何にでも順番を付けたがる人。

そうだ。そういう人はいる。私は会ったことがある。思い出した。

それも、この『トム・コリンズ』で、確かに...

<続く>


翌日、妹からヨシオに、映画と食事代について御礼の電話があった。


妹はヨシオが尋ねる前に、妻ヒロコが映画を見る前に熱心に語っていたことを話し出した。


「それがさ~」妹の返答は以下の様なものであった。





・ 家族の中で一番最初に『相棒』を観たのは自分である。


・ だから、家族の中で一番『相棒』を好きなのは自分である。


・ しかしながら家事、育児が忙しくて、テレビを観る時間など取れない。


・ 仕方がないので録画しているが、同様の理由で、それを観る暇もない。


・ 当初より映画は観ようと思っていた。





妹は続けた。


「トモコが不思議がっちゃってさ~」


トモコはこう言ったそうである。


「誰が一番先とか一番好きとか、どうでもいいことじゃない?家族みんなが好きなんだから、それでいいのに。何で順番つける必要あるのかな~?それに、ヨシオにいちゃんだって、ヒロコさんなしで子供連れておじいちゃんの家に来た時に『相棒』観てたから、かなり昔から観てるよね?ひょっとするとヨシオにいちゃんの方がヒロコさんより先に観てるんじゃない?なんでそんなことにこだわるのかなぁ?ヒロコさんて不思議な人~」





なるほど。


上手く言えなかったことが氷解した。


ヒロコは「何でも順番を付けたがる人」なのだ。


<続く>

ヨシオは家族全員で映画『相棒(最初の)』を観に行くことになった。

今日はヨシオの妹とその娘、トモコも一緒である。つまりヨシオからするとトモコは姪だ。トモコはヨシオを「ヨシオにいちゃん」と呼んでいるが、これは単に自分の母親がそう言っているので、それに倣っただけである。


以前から妹と姪はテレビの『相棒』が好きで、当初より映画に行くことは決めていた。映画化が決まり、舞い上がっていたと言っても良い。

ヨシオの家族は、テレビで習慣的には観ていないが、観ると面白いからこの機会に乗じて、という感じだった。


映画館で集合し、ヨシオが券を買っている最中、ヨシオの妻ヒロコが、妹とトモコに熱心に何かを語っている。


「何を話しているんだ...?」


映画はまさに満員であった。

ヨシオは水谷豊の復活(?)に心の中で快哉を叫んだ。


「面白かったけど、やっぱり『相棒』は、あんまり大規模な事件にしない方がいいんじゃない?その方が右京さんの推理が際立つしさ~」

「うん、ああいう事件だと「はいぃ~?」なんて言えないもんね。」

映画が終わり、妹と姪は感想を述べていた。

その後はみんなで食事をして、その日は終わった。

<続く>