あんたは払うよ、権藤さん。の真意 -62ページ目

あんたは払うよ、権藤さん。の真意

ご来場いただきまして誠にありがとうございます。「その1」などと付してある記事は続き物になっていますので、数字の若い順にご一読いただけると幸いです、としていたのですが、最近、数字入れ忘れてました。ごめんなさい。では、そろそろ開演です。Oh, yeah! Play it loud!

少年は続けた。

「勉強しろ、勉強しろ、ばっかりでさ...ロックン・ロールじゃないよね!?」

うん、まあ...しかし、君のお父さんの教育方針について、私がとやかく言うことはできないな...


「権藤さんも、勉強しろ、って言うの?」

いや、言わない。

勉強する理由を聞かれたことはあった。それには私なりの回答をした。

しかし、勉強しろ、と言ったことはない、と思う。


「何故言わないの?」

それは、私が、自分の父親から「勉強しろ!」って言われるのが嫌だったからだ。

君と同じだよ。気の毒だが、私が代わってあげることはできない。

勉強しろ、と言われれば言われるほどやらなかったね。

小学生の時は塾は行かなかったけど、中学生の時はしょっちゅう親に内緒で塾休んで、自転車で遠くまで行ったりしてたな。

今思えばひどい息子だよ。全部カネかかってるんだぜ...

でもさ、子供の時はそんなことわからないんだ。

当たり前だろ?親になったことがないんだから。

だから、君もそんなことわからなくて当然だし、わかる必要もないと思うよ。

『親の気持がわからないのか!?』とかってあるだろ?

わかるわけないよ。親になったことないんだもん。


「じゃあ、権藤さんは、自分の子供の気持はわかる?」

わからない、だろうな...

「なんで?子供だったことあるでしょ?」

それはもちろん。だけど、私は、私の子供になったことはないからね...


<続く>

「そっか、自分で決めて聴いたから、そうやって思い出になるんだね...」と少年はつぶやいた。

ん?君、いいこと言うじゃないか。

私は少年のつぶやきに乗じることにして、言った。

「そう、そう。そうだよ~。人から教えられたままに聴いた、なんて、思い出にはならないだろう?それに、それが思い出、なんてつまらないじゃないか」

「...だね!僕、自分でCD選んで聴いてみるよ!」

それがいい。

ストーンズから選ぶのと比べれば簡単なことだよ。枚数が違うもん。数えたことないけどさ...

キンクスも辛いな...あ、フーも同じか...まあ、そんなことどうでもいいが...


少年との会話は楽しいものだったが、やはり私には釈然としないものが残っていた。

この少年はビートルズのことを質問するために、楽器屋を覗いて私を探していたのか?


「勉強しろ、勉強しろってうるさいんだよな、お父さん...」

少年は唐突に言った。


<続く>

「それはそうだけど...僕、今、ビートルズを聴いてみようと思ってて、最初に何を聴けばいいのかわからないから...」と少年は言った。


うむ。君の気持ちはわかる。

しかしだね。そういうことが聞きたいなら、悪いがほかを当たってくれ。

「どうして?」

言っただろ?

ロックン・ロールだぜ、KID!

人に教えてもらってから聴くんじゃ、学校の授業みたいになっちまうだろ!?


自分の小遣いと相談して、好きなCDを買ってみればいい。

もっとも、今はレンタルもできるし、ダウンロードっていうのだってできるんだろ?

私は別に物分りの良い中高年になるつもりはないが、「買わなきゃダメだっ!」なんて言わないよ。

時代が違うんだ。今の『仮面ライダー○○』を見ればわかるよ。

それに、自分が理解できないものを批評したって仕方ないんだ(※)...


「ふーん。じゃあ、権藤さん自身のことを聴くのはいいんでしょ?」

もちろん、それは一向にかまわない。

「権藤さんが最初に買ったビートルズは『ウィズ・ザ・ビートルズ』でしょ?」

その通り。

「何でそれにしたの?」

持っている友達がいなかったから、だね。誰も持っていないレコードは借りられないんだから、買わなければ聞けない。

「それ聴いた時、どう思った?」

ありゃ?ヒット曲が少ないじゃん、って思った。まあ、買う前からわかってたんだけど...

「その次は何を買ったの?」

その次は、いわゆる『赤盤』。ヒット曲多いやつを買おうと思って...はは。

「『ウィズ・ザ・ビートルズ』聞いたときは失敗したと思った?

うーん。失敗とまでは思わないな~

わかって買ったんだけど、本当に「ありゃ?」って感じだった。

しかし、ひょっとすると、私が一番聴いたビートルズのアルバムは『ウィズ・ザ・ビートルズ』かもしれない...

いきなりイントロなしの『イット・ウォント・ビー・ロング』はびっくりだったし、最後の『マネー』は、当時スリー・コードのロックン・ロール(の仕組み)を知らない私にとっては苦手な曲だったのに、その仕組みが分かってからは大好きになったし...全く、今でも好きだぜ...


<続く>

※ボブ・ディラン『時代は変る』から引用

「ほかにも理由があるの?」と少年が言った。

ある。

「レビューらしきものは、本、雑誌、インターネットを見ればいくらでも載っているからだよ。例えばだね、ビートルズの1枚目、2枚目のアルバムを引っ張りだしてきて、私が、『このグルーブこそは、この時期のビートルズでしか出せないものである!』なぁーんて書いて何の意味がある?そんなこと私でなくても世界中の人が書いてる、と思うだろ?」

「うん...言ってることはよくわかんないけど、そうなんだろうね」

簡単に言えば、ほかの誰でも言ってることをわざわざ私が言う必要はない、ってことだ。


「でも、それは、権藤さんの考え方でしょ?」

そうだよ。私の考えで何か問題あるかい?

おい、ロックン・ロールなんだぜ、KID!

学校の授業じゃないし、私は先生でも生徒でもないんだ。


「それにね、俺はこう思っているのさ...」と、私は言ってから、次の言葉を今の状況に合うように引用した。


自分自身を表現しようとするね。

自分がどう感じたか、どんなひどい仕打ちを受けたのか。

自分の人生に何が起きたのか。

自分で語れるのはこれだけよ。

このほかを歌う時は、他人が感じたことを歌う破目になるのさ。(※)


少々強引だが、上手くいったぞ。

いつか使ってやろうと思っていた言葉だ。

「ふ~ん」

ふふ...少年は彼なりの表現で感心しているではないか。


<続く>

※出典

『うたのことばが聴こえてくる』岡本おさみ 八曜社より

岡本氏によると、『ブルースの詩』サミュエル・チヤーターズ著・佐藤重美訳、の中でヘンリー・タウンゼントが語ったことば、であります。

徐々に私はこの少年と話すのが楽しくなってきた。

「君は何年生?」

「6年生です」

私には娘はいるが息子はいない。

息子がいたらこんな感じで話せるのだろうか...?

現実はそうは行かないんだろうな...

「うぜーなー」とか言われちゃってさ。

少年と私は、すく近くにある、英語にするとセントラル・パークとなる名称の公園まで歩いた。

私は自販機でコーラと緑茶を買い、ベンチに座った。


「それだけのことで、塾の帰りに楽器屋を覗いていたの?」

「覗くだけだもん。そんな面倒じゃないですよ」

そうかな?それで知らない大人に声をかけてどうするつもりなんだ。


「権藤さんに聞きたいことがあって...」

ふーん。

では遠慮なく聞いてくれ。


「...うん...権藤さんは、ロックのCDのこととか記事にしてるでしょ?」

うむ。

画像はできるだけレコード・ジャケットを載せてるけどね。レコードのジャケットには「帯」というものが付いていて、君のような若者にとっては珍しいんじゃないか、と思っているのだ。

「でも、そのCD、アルバムの内容については何も書いてないですよね?レビューって言うの?何故ですか?」

何だ、そんなことかよ。

「お母さんが会いたがってます...」とか言われたらどうしよう、なーんて思っていたのに...

「まず、第一に、私は読書感想文が苦手だからだよ。面白い、面白くない、好き、嫌い、しか言えない」

「じゃあ、権藤さんは、グルメ・レポーターはできないね?」少年は愉快そうに言った。

「そうだね。旨い、まずいだけになっちゃうだろうな」


<続く>