小説「旅人の歌ー 信使篇」その12 - 襲撃 | 物語書いてる?

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 坂道を登り切ったところで、目の前が急に開けた。遠くの山が雲を帽子のように被っている。麓には集落が見えた。金色に輝く棚田には、さぞかし稲穂がたわわに実っていることだろう。踊り子は大気を胸いっぱいに吸い込んだ。振り返って、陶姫と少年に声をかけた。

「腹減ったね。ここで飯にしよう」

 陶姫は黙って腰を下ろし、背中の包みから握り飯を取り出した。踊り子と少年に手渡す。それを見た少年の腹が鳴った。

「ありがとう」踊り子は握り飯を頬張った。

「こうして見ると、なんだかウリナラと似ているように見えるね」

「うん…そうだな」少年も田園の風景を見ながら言った。鴉が鳴きながら飛んでいく。

「あの…さ」踊り子は陶姫に顔を向けた。

「ご飯、食べて元気出そうよ」

 陶姫はこっくりと頷いた。

「今回は違ったけど…この国のどこかに必ずいるよ」

 陶姫は顔を上げた。

「そうだね。必ずいると信じないと、いけないね」そう言って握り飯を頬張った。

「ちょっと、味が薄いね」

「オ?味にうるさくなって来た。立ち直りも早いね」

 陶姫は笑顔を見せた。その時坂の下から一人の女が登って来た。女はチラリと三人を見た。

「おや、おいしそうだねえ」

 踊り子は言葉の意味を頭の中で繰り返し、その女に声をかけた。

「一つ、余ってる。食べる?」

 その女は踊り子に近づいた。

「おや、そうかい。悪いねえ」

 

 その時、少年の鼻が動いた。何かが少年の体を動かし、少年は踊り子と陶姫の間に立った。

「お前、対馬で会っているよな」その韓語は女に伝わった。

 女は右手で小刀を構えた。少年は咄嗟に踊り子を庇って右手に木の枝を握った。女が低い声で笑った。

「坊や、その枝で、どうしようっていうんだい?」その声は男の声だった。男は高く飛び上がった。その体に手裏剣が飛んだ。男は小刀で払って、地面にもんどりうって転んだ。その男の前に、黒覆面の男が現れた。全身黒い服に身を包んでいた。

「お、お前は」踊り子は叫んで、無意識に唇に手を当てた。

 女の着物を着た男は林の中に走り込んだ。その後を黒覆面が追う。二人は視界から見えなくなった。

「俺たち、急いで戻った方がいいな」少年は二人に言った。