twitter 記事の更新、たまに医学知識をつぶやきます
▼先に結論
・Mモードを用いることで救急外来でも簡単にEF測定が可能
・EFが低下しないタイプの心不全、HFpEFに注意
・HFpEFを疑う場合はE/AやE/e'を評価する
エコーの話なんて何するの?って感じかと思います。実際の手技はプローブを持って患者に当て、実際の動きを目に焼き付けて初めて生きた能力になっていくものです。ではなぜこのブログの題材として取り上げたかですが、心エコーは腹部エコー以上に、その原理の理解が必要になると考えたからです。
例えば、心エコーでなぜ左心駆出率が評価できるのか?なぜ弁膜症の評価ができるのか?その辺りの考え方をまとめてみようと思います。原理を理解する必要はないだろうと思う方もいると思いますが、圧倒的に役に立ちますので今回記事にまとめています。
主な目的は心機能の評価で、心不全の原因も評価できます。もちろんそこには肥大型心筋症であるとか、アミロイドーシスであるとか、または心サルコイドーシスであるとか様々な特異所見が評価できます。各論的になりすぎると量が膨らむので、このブログでの目標として、心エコーの考え方を学ぶことに重点を置こうと思います。
特殊なものとしては、感染性心内膜炎の疣贅を検索するためにも用います。
1. 心臓の動きを評価する
心エコーの目的は、まずこれでしょう。asynergy(アシナジー)という言葉をよく耳にすると思いますが、これを日本語に訳すとすれば心室壁運動障害になります。運動が落ちている場合をhypokinesis(壁運動低下)、ほとんど動いていない場合はakinesis(壁運動消失)と言います。
この項目はどうしても用語が増えますが、実際に横文字が飛び交う場面なので我慢しましょう。それぞれの部位を示す言葉があるので記載していきます。
前壁:anterior、前壁中隔:anteroseptal、側壁:laterl、下壁:inferior、後壁:posterior
これは単純な部位での区切りではなく、冠動脈灌流によるものであると以前心電図の項でお話ししました。壁運動の低下に関しては、心筋梗塞の診断の一助になるので心電図と併せて評価する。
図で示すとこんな風になります。
※色が汚くなりました
様々な角度から評価するのが重要ですが、基本となる短軸像と長軸像を示ししておきます。短軸像を右真横から見たら長軸像の様な見え方になります。長軸像では見ている角度の問題から、動きが落ちていてもどの部位が梗塞しているかの推定は難しいです。前壁〜中隔は左前下行枝、側壁〜後壁は回旋枝、下壁は右冠動脈によって栄養されます。中隔枝は左前下行枝から分枝が出ていますが、その上流の狭窄で血流障害を来します。心尖部は動きが落ちやすいので、特に意識して観察します。少し逸れた話をすると、肺塞栓などで右室圧が高くなると心室中隔が圧排され、短軸像で左室がDの様な形になっているものをD-Shapeといいます。
2. EFの測定方法
心機能を評価する上で、最もよく使われるものは左室駆出率(EF:Ejection Fraction)かと思います。以下の式で求められます。
EF(%)=(左室拡張期容積-左室収縮期容積)/左室拡張期容積 ×100
しかしエコーでどのようにEFが測定できるのでしょうか。いろいろな方法があるのですが、ここでは救急外来の心エコーでも簡単に測定できるTeich法を紹介します。僕も働き始めた頃はめちゃくちゃピンときてなかったのですが、簡単に説明させて頂きます。まずは下の式を見てください。
V=7.0×D^3/(2.4+D)
これがTeichholzの式になります。論文などでEF(Teich)と記載されている場合がありますが、この式から求められていると分かります。この式自体は解釈する必要も覚える必要も無いですが、要するに半径さえ分かれば近似的に容積が求められるということです。収縮期と拡張期の二つの半径が分かっていれば、近似的にEFの値が分かるわけです。
それぞれのタイミングで測定しても良いのですが、Mモードを用いることで一気に測定できます。胸壁にプローブを当てると、そこから出る超音波に従って扇形に図形が広がります。これにより心臓という立体を平面で捉えられますが、ここまでが通常の心エコーです。さらにその平面に一本の線を引くと、平面はさらに線として捉えることができます。その線を時間的に捉えたものがMモードとなります。
※図解しました
MモードではEF(というか左室壁運動)以外にも様々な場面で用います。代表的なものを簡単に列挙しておきます。括弧内には測定すべきものを書きました。
①大動脈弁Mモード (左房径、大動脈径)
②僧帽弁Mモード (僧帽弁の動き、E/A比、DORなど)
③左室Mモード (心室中隔厚、心室後壁厚、左室拡張末期径、左室収縮末期径、EF)
いずれにしても、左室長軸像から一本の線を選ぶビューが上手く描出できることが前提となります。測定すべきものの説明ですが、①はそのままで、拡大などを評価します。②はM弁の動きを評価するものですが、これはややこしいので簡単なことだけ後述します。やはり気になるのは③ですね。救急外来でEFが測定できたら役に立つと思います。
説明に入る前に、以下の略語を書いておきます。
IVST:心室中隔厚、PWT:心室後壁厚、LVDd:左室拡張末期径、LVDs:左室収縮末期径、EDV:拡張期左室容積、ESV:収縮期左室容積
dはdiastolic、sはsystolicの頭文字で、それぞれ拡張期、収縮期を指します。収縮期血圧をSBPと表記するのと同じです。同様の理屈で、IVSTdは拡張末期心室中隔厚を指します。
これらがきちんと測定できるビューが描出できれば、ボタンを押してMモードを開始します。ある程度流れたらフリーズを押して画像を止めます。心エコーには左室評価のモードが必ずあるので、サクサクと打ち込めば収縮期、拡張期それぞれにおけるIVST、PWT、LVIDが計測されます。
※測定している内腔は直径です
teichの式は半径が分かれば心室内容積が近似できるというものでした。つまりLVIDdとLVIDsが分かれば、EDVとESVがわかるということになります。EDVとESVが分かれば、EFがわかります。
Mモードで評価することにより、収縮期/拡張期の半径がはっきりと見て分かるので正確な評価が可能です。ちなみにこの二つの半径の評価は短軸像Mモードでもビューを選べば値が出せるので、こちらの方が簡便にEFの値を求められる場合もあります。局所的な運動低下があれば、EFを過大評価、過小評価してしまう点に注意します。
初めて心エコーの報告書を見ると、見たことない数値がいっぱい書いてあって戸惑います。全ての項目を解釈する必要は必ずしもありません。前述した通りEFを求める過程でdIVST、sIVST、dPWT、sPWT、EDV、ESVが測定されますから、(こんな言い方をすると怒られそうですが)副産物のようなものです。
IVSTはサルコイドーシスや肺性心において菲薄化するのが特異的所見として重要であるほか、肥大型心筋症では肥厚します。しかしその収縮期と拡張期の評価に関しては、非専門医にはよくわかりません。PWTも然りです。初学者としては割り切って副産物、と考えておいた方が混乱しなくて済むかと思います。
ここで考えてみると、拡張期と収縮期の容積の差がSV、つまり一回拍出量になりますはずです。それに心拍数をかければ、心拍出量(CO:Cardiac Output)になります。さらにそれを体表面積で割れば、心係数(CI:Cardiac Index)まで測定できてしまいます。Forrester分類で用いられるものです。
通常はスワンガンツカテーテルで評価されるのが前提であり、その解釈には注意が必要です。心エコーで得られたCIを熱希釈など、他の方法で調べられたものと同様に扱っていいのか、という話ですが、どうやら駄目そうです。EFは比を求めているのである程度の信頼性がありますが、容量の絶対的評価には向かないということです。
左室内径短縮率(FS:Fractional Shortening)というのもEFの計算式に似ています。
FS(%)=(左室拡張末期径-左室収縮末期径)/左室収縮末期直径 ×100
28%以上が正常です。概念としてはEFが容積の変化量、FSが壁運動の程度を見ているものであると理解できますが、Teich法で用いたEFでは内腔の長さから容積を近似しているので式としては非常に似ています。EFとほぼ相関しますが、前述の通りEFには他にも測定方法があるので、あくまでTeich法に関してである点を誤解しないでください。上記のようにMモードでEFを測定すると自動的にFSも算出される点はお分かり頂けるかと思います。
3. 左室拡張不全 HFpEFとは
HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)という言葉を知っていますか。間抜けな感じですが、ヘフペフと読みます。これは左室拡張障害に起因するとされ、心不全の3割以上にもなると言われています。逆にEF低下したものをHFrEFということもありますが、こちらの方はあまり用いられないように思います(heart failure with reduced ejection fraction;HFrEF)。
高血圧を由来として、高齢の女性に多いとされます。名前の通り、EFは正常として評価されますから、心エコーでEFばかりを気にしていると見落とされかねません。心エコーにおいて数値上EFが保持されていても、心不全としての予後はHFrEFと同程度とされます。ということで、こちらもきちんと評価する必要がありますが、心エコーの特性上、大きさが変わっていないものを評価するのは難しいように思います。
左室の拡張不全ということは、大きさに変化はなくても左室は大きくなろうとしているはずです。ということは左室圧が上昇しますから、左房圧や肺静脈圧が上昇するはずです。次回の記事で深く触れますが、実は心エコーは圧を評価するのに優れています。
僧帽弁口血流速波形(TMF:TransMitral Flow)というものがあります。僧帽弁にパルスドプラのサンプルボリューム(計測点のようなもの)を置いて波形を評価しするのですが、実際の手技に関しては習熟者向きなので、ここでは検査レポートの評価に関してのみ触れます。通常TMFは拡張期に2回の圧上昇を感知します。それが拡張早期波(E)、心房収縮期波(A)です。レポートに書いてあるE/A比というのがこれになります。
すでにごちゃごちゃしている様な気がしますが、想像してみると難しくありません。僧帽弁が開いた時に左室に血流が流れ込むのがE波、その後に心房が収縮してひと押しするのがA波です。そうやって左心房から左心室に血液が受け渡されます。基本的には流入直後に最も勢いがあるはずなので、E>Aの関係になります。つまりE/A>1というのが正常所見です。
そもそもなぜ、僧帽弁は開くのでしょうか。なんとなく「心室圧>心房圧」は常に成立しているように思ってしまいますが、そうではありません。心臓拡張期における左心房→左心室というflowが生じている時は、左房圧≧左室圧という関係が成立していることになります。心臓が拡張する時に、左室の圧が急激に下がるのでこの様な現象が起こります。以前に人工呼吸器の項で強調したのが「気体は圧格差に従って流れる」ということでしたが、もちろん血流も同じです。弁は自らの意思で動いているわけではなく、その両側の圧によって開くか閉じるか決まっています。
さて、左室の拡張不全がある場合は左室内の圧低下がややマイルドになってしまい、左房との圧格差の緩和が急激に進まないためE波が小さくなります。ゆっくり開くのでE波の減衰時間(DCT:DeCeleration Time)が延長するのも重要所見です。結果としてE波を補おうとしたA波が大きくなりますから、E/Aの低下が拡張機能障害を示すわけです。高齢者では一般に下がってくるので、E/A<0.8くらいを一つに基準に考えます。ここまでは難しくないと思います。
ただし拡張障害が進行すると左房圧が高くなり、再びE/Aが増加します。E/A>1となれば偽正常化といい、さらに悪化してE/A≧2のようになれば、拘束型波形を呈する重症所見になります。ということはE/Aが正常でもHFpEFの除外はできないことで、具体的には0.8<E/A<2の時や、Eが特に大きい時に判断に困ります。E波が大きくなると当然DCTも短縮しますから、評価には別の指標が必要になります。
これがE/e'です。これは先ほど用いたサンプルボリュームを少しずらして、僧帽弁輪におきます。こちらの拡張早期波を、同様にe'とします。僧帽弁を通る流速なので、そこを通る血流が多いほどe'は大きくなります(例えばMRなどでも)。しかし拡張異常が進展すると、その大きさはまずまず拡張能を反映します。拡張異常が大きいほど左房→左室圧のflowが遅くなり、e'が小さくなることが分かるかと思います。
Eに話を戻すと、拡張が進むにつれて大きい→小さい→大きいと変化していくことを示しました。e'は比例して小さくなっていくので、E/e'の分母は拡張不全の進行に伴って小さくなります。最終的にはそんな単純な話では無いのですが、0.8<E/A<2の場合はE/e'が大きいと拡張不全の存在が示唆されるということです。EFが正常であったとしてもE/Aに目を向け、解釈に悩めばEやE/e'などを併せた総合的な判断を行ってください。
今回の記事は1.と2.は自分でエコーを当てるという目線から書いています。心エコー、苦手意識ある人は多いと思いますが、結構面白そうではないですか?心機能の話はこれでお終いとして、次回は弁膜症を中心に考えてみたいと思います。