その31:ナトリウムについて ①考え方と高ナトリウム血症 | 国家試験後の臨床 書籍化しました! (旧)研修医が学んでおくべき100のこと

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全ての医療者にとって、医学を理解する手助けになれば幸いです。

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▼先に結論

・血清ナトリウムは単純に数値ではなく、体内の水分バランスを念頭に評価する

・体内の水分を生理食塩水と自由水に分け、どちらが多いか少ないかを考える

・高ナトリウム血症の基本治療は自由水の補充

 

医療を行なっている場合、ナトリウムについては日常的に評価を行う必要があります。最初に言うと、ナトリウムの評価は極めて難しいものです。僕自身、電解質の専門家ではありませんから、高度な内容の理解は十分ではありません。しかしながら「低ナトリウム血症」のアセスメント、そしてマネジメントに関してはもっと初学的な内容も理解されていないように感じます。低Na血症を見たら、脊髄反射的に生理食塩水を負荷したりしていませんか?

 

今回の記事では、ナトリウムがなぜ難しいのか、そしてどのように考えていけば良いかを記してします。

 

 

1. ナトリウムあるところに水がある

生理食塩水の濃度は0.9%、つまり1Lに9gの塩化ナトリウムを含みます。単純に言えば、細胞外液が1L増えるということは、塩化ナトリウムが9g増えることを意味します。逆に言えば、9gの塩化ナトリウムが体内に増えれば、1Lの水が必要になるともいえます。例えばパック寿司なんかについてくる醤油の小袋は醤油5gくらいが入っていますが、それだけで3gくらいの塩化ナトリウムを含みます。生理食塩水に換算すれば330mlになりますから、醤油の小袋を1袋使うと(細胞外液的には)350mlの缶くらいの水分を摂取する必要があります。

 

他の電解質以上に、水分との関係が密接にあります。血液検査でのナトリウム値の異常は、ナトリウム総量の単純な増減を意味しません。血液中の水分量からみた、相対的なナトリウム量の増減を意味します。つまりナトリウムが正常量でも自由水が増えたら低ナトリウム血症になりますし、自由水が減ったら高ナトリウム血症になります。

 

ナトリウム推移を考えるとき、体内に本来あるべき生理食塩水と自由水について、いずれが増減しているんだろうと想像することが必要です。体液バランスは、これが混ざり合って成立しているのです。これは難しいのですが、具体的に考えてみましょう。

 

例えば心不全の患者などで「著明な浮腫がある低ナトリウム血症」の患者を想像してみます。その場合、体内の水分量が過剰になっていることは明らかです。生理食塩水の増加もあるのかもしれませんが、それを上回って自由水が増加している状況だと理解できます。この患者の水分量を補正するのであれば、理想的には生理食塩水より自由水の排出を増やしたい、と思うはずです。

 

下の図のように考えるとわかりやすいかもしれません。低ナトリウム血症であっても体内の塩分量が実は多かったり、高ナトリウム血症であっても少なかったりということが起こります。頭の中でこんな風に思い描いてみると、患者の点滴をどのように組んでいこうかというプランが立ちます。

 

※あくまで水分バランスであり、生理食塩水と自由水は同量ではありません

 

従って全身浮腫を伴う低ナトリウム血症の患者にはフロセミドなどのナトリウム利尿を行う薬剤より、自由水を排出するトルバプタン(サムスカ)のほうが適しているかもしれません(そんな単純なものではないですが、あくまで例として)。体内の水分量調整にはナトリウムが、ナトリウム調整には水分が切り離せない、ということがお分かりいただけるかと思います。

 

 

2. FENa

少しだけFENaにも触れておきます。腎不全の所在を鑑別するためによく用いられますが、ナトリウム動態の評価にも用います。

 

FENa=(尿中Na/血症Na)/(尿Cr/血症Cr)×100

 

この式は次回に用いることにしますが、ここでもナトリウムを絶対値的に評価すべきではなく、水分動態と合わせて考えましょうというメッセージが潜んでいます。時間がないときは尿中ナトリウム 20mEq/Lを一つ基準として、それより大きいか小さいかを目安にすることもありますが、以上の理由から計算を行うべきです。

 

利尿薬投与時では尿中ナトリウムが状況を反映しないので、その場合はFEUNで代用します。上記式のNaをUNに変えて用いてください。フロセミドを投与している時はだいたい自由水と生理食塩水が1:1で排泄される、ということは覚えておくと非常に役立ちます。

 

 

3. 高ナトリウム血症

回転寿司なんかに行った後って、結構喉が渇きませんか。僕は特に醤油をつけすぎるところがあるので、ずっと水分を欲します。これが日常生活に潜む高ナトリウム血症です。塩分が体内に入ると、それを緩和するほどの自由水が必要になります。ラーメンのスープには多量の水分を含んでいますが、寿司では醤油として塩分を摂取するので自由水が不足します。

 

先程の話からいえば、体内の水分量と比較して塩分量が相対的に増加している状態です。ゆくゆくは腎性のナトリウムの排出が起こるにせよ、短期的には自由水を摂取して体内のナトリウム/水分量を調整する必要があります。水分を取っていると、喉の渇きは次第に収まってきます。

 

ここでわかるのは、高ナトリウム血症は本人の飲水行動によって補正される、ということです。ですから、高ナトリウム血症が起こるのは「飲水行動が取れない患者」にほぼ限定されます。一般臨床的に言えば、ほとんどが寝たきりの高齢者です。高齢者以外の高ナトリウム血症に遭遇することは稀ですが、それらを見たときは例外的なものとして成書を開いてください。比較的多いのが、尿崩症に伴うものでしょうか。

 

「水分量が正常・ナトリウムが増加」というのが寿司を食べた後であれば、「水分量の不足・ナトリウムは正常」という状況は不感蒸泄などによる水分の喪失がほとんどです。平たく言えば「普通に喉が渇いた」みたいな状況でしょう。いずれにせよ飲水でそのバランスは調整されますが、ナトリウム増加パターンでは飲水の結果として体内の総水分量は増えます。顔がむくんだりしますね。

 

これに倣えば、高ナトリウム血症の治療は簡単です。点滴で自由水(つまり5%ブドウ糖液)を投与すれば、多くの場合で解決します。以前も書きましたが、高度脱水には糖による浸透圧利尿などが関与していることも多いので、糖負荷には注意してください。

その1:輸液の考え方

 

しかしもっと別な問題として、飲水行動が取れない高齢者は高度老衰状況にあると考えられます。数値の補正は簡単ですが、根本的な解決は非常に難しいものがあります。元いた施設に戻れば、元気になって水分を取ってくれるようになったりすることもあります。それを期待するのも間違いではありませんが、点滴が行える病院に移動するか、胃瘻や経鼻胃管で水分を投与するのはどうか、または寿命として看取る方向にするか、ということを家族と相談しておく必要があります。病態としては難しくないのですが、社会的には多くの側面を含んでしまうのが高ナトリウム血症です

 

 

ナトリウムと水分の関係を理解したところで、次回は低ナトリウム血症という難題に足を踏み入れていきましょう。