ラグビーアナリストという選択
オンオフ関係なくラグビーに夢中になっていたという神亮輔(商4=愛知・千種)アナリスト。部活外でも日本代表の活動に携わるなど、経験の豊富さでは部内で右に出るものはいない。周りからは「神さんにはラグビーしかないよね」と言われるほど熱心に業務に向き合う姿の裏側に、どのような努力があったのだろうか。高校入学時に出会ったラグビーと歩んだ8年間の軌跡と共に辿っていきたい。
アナリスト業務に取り組む神
ラグビーとの出会いは高校入学前。友人の兄が高校でラグビーをする姿を見て、神もその背中を追いかけた。そして高校時代は友達と共にラグビー部に入部し、BKの選手として活躍した。だが、自身の体格は大学では通用しないと考え、大学でも選手を続けるという選択肢は頭になかったという。
神がラグビーを始めた当初、日本代表も強くなっていったのが嬉しく、ラグビー好きに拍車がかかった。日本は国際大会でも、体格が他国に比べて恵まれていないのにも関わらず格上のチームに勝つことも増えていた。そこで大学レベルでも日本代表のように、支える側として、ラクビーのプレーだけでなく組織的なことも学べる環境に身を置くことを望んだ。元々「大学といえば早稲田大学」だと思っていたという神。調べれば調べるほど、入るなら早大しかないと思った。中でも、戦術やプレーを知識の豊富なコーチ陣らと語れるアナリストに惹かれ、アナリストとして入部を決意した。
アナリストは結果に影響を与えることのできる、責任感の重い役職。他大に比べて特に早大は影響力が大きいという。だからこそ、監督・コーチに対する発言全てにデータという根拠を添えた。私情を挟むことはせず、アナリストである以上、必ずアナリスト神亮輔としてのみできることをするように意識してきた。
試合が立て続けにあった時には、大量の仕事が巡ってくる。選手1人を分析するのに1時間半から2時間を要した。「やることはやらなくてはいけない」。必ず何よりも部活を優先した。だがその仕事も、試合で勝利をしないとやりがいに繋がりにくかったのだと本音をこぼした。だからと言ってAチームにだけ力を入れることはなく、「選手個人個人のパフォーマンスを上げて、少しでも上のチームに上がれるように」と全選手の成長を願いながら取り組んだ。ラグビー部には常に、映像からだけでも全ての選手に寄り添い、陰で応援している神の姿があったのだった。
スタッフ陣と談笑する神(写真右端)
神のアナリストとしての経験は、大学とリーグワンにもとどまらず、3年生の時に日本代表の活動にも及んだ。インターンのような立場で参加した神を一スタッフとして扱い、仕事を任せてくれたという。当時の日本代表の監督、ジェイミーと話す機会もあったというこの仕事。この経験は、どのような人にも物怖じせず意見を言える度胸に加え、「将来はラグビーに関係がなくても、大きな影響を与えられる、日の丸を背負える仕事をしたい」という夢を与えてくれた。
大学生代表として日本代表に関わる機会が巡ってきたこの時、その裏側では大田尾竜彦監督(平 16 人卒=佐賀工)からの引き止めを受けていた。「早稲田に必要だから残ってほしい」と言われた。そのように言われたこと、信頼されていることが嬉しかったという。最後には快く送り出してくれた大田尾監督。神はこの経験を早稲田ラグビーへのより良い貢献に変えることを心に誓った。
2023年春、チーム伊藤が始動。その時、正直神には期待の裏に不安があったと語ってくれた。武器がなかなか見つからず、最後までチーム全体として最大限まで成長できなかったのではないかとも振り返る。チームが強くなったと実感したのは、秋の対抗戦5戦目、ターゲットとしている帝京大との一戦だった。3点差まで詰める接戦となったこの試合。「早稲田が望んでいた展開になり、本当に勝てるんじゃないかと思った試合だった。勝ち切りたかったという気持ちもあるが、4年生の1年間でのベストゲームだった。」と語った。一方で反省が多かったのは、実力の差を見せつけられたという選手権での京産大戦。「特にFWがやられてしまい、アナリストとしてなす術なしな試合になってしまった。悔しいという気持ちもあるが、どうしようもなかった。」と肩を落としながら答えた。全てのシーズン総じて、選手たちが立ち返った時に必ず信じることのできるものを作れたのではないか、選手たちがもう少し自信を持って試合に臨める1年にできたのではないかという後悔が神にはある。「応援してくれた人々に優勝する姿を見せられなくて、申し訳ない」という気持ちも何度もこぼしていた。しかし、大学の4年間の中でひとときも無駄な時間はない。神は、「人間として大きく飛躍することができた」と自信を持って答えてくれた。
追い出し試合で赤黒のジャージーを着てプレーする神
神は主役じゃなくても人を支え、貢献する方法を人一倍知っていると自負する。それは、早大の環境があったからこそ得たものだった。早大には、自分の努力、行動力で多くの可能性を見出せる環境があると神は教えてくれた。また、誰もが活躍できるフィールドがあるのだと。だからこそ、躊躇せずに取り組んでみて欲しいという後輩への想いを持っていた。一方で、家族への感謝も忘れない。選手として出ているわけでなくても多くの試合に足を運んでくれたという両親に、「まず社会人になって恩返ししたい」と語る。それぞれ進路が大きく異なるラグビー部員たちにも、将来もお互いに刺激のもらえる関係でありたいと熱く答えてくれた。神の仲間を、家族を大事にする気持ちは、相手に伝わり輪になるに違いない。
(記事 河邨未羽、写真 清水浬央、山田彩愛)