【連載】『令和5年度卒業記念特集』第52回 金井美穂/女子ラクロス | 早スポオフィシャルブログ

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 境地

 

 昨年の関東学生リーグ(リーグ戦)最終戦。早大ラクロス部女子は勝利を飾り、試合後に観客へあいさつを行った。メンバーを代表して感謝の言葉を述べるG金井美穂主将(教4=東京・神田女学園)は時折涙を堪えながらも、その表情には笑顔があふれていた。試合後に主将としての1年間を振り返ってもらうと「仲間に助けられた主将だった」と謙虚な言葉が返ってきた。小学生の時から主将を経験してきた金井。しかしラクロス部での主将は今までとは大きく異なる経験だったという。『金井組』の1年間を中心に、金井が歩んできた主将人生を振り返る。

 

昨年のリーグ最終戦後に勝利を喜ぶ金井(97番)

 

 兄と姉の影響で小学生の時に野球を始めると、中学校からはソフトボールの道へ。3年時には主将を任された。しかしチームの成績は悔しい結果に終わり、主将の責任を感じた。その悔しさを胸に高校のソフトボール部でも主将を務めると、見事にチームをインターハイへと導く。中学時代の顧問を、大舞台へ連れていくという約束を果たすことができ、そこでソフトボールは「やり切った」と感じたという。

 

 早大では以前から興味のあったラクロス部に入部。これまで捕手を務めていた金井は、ラクロスでもボールを止めるクロスさばきを評価されゴーリーに転身した。一学年上の主将が正ゴーリーを務めており、なかなかトップチームでの出場機会には恵まれなかったが、ひたむきに努力を重ねた。そして最高学年になった昨年、チームの正ゴーリーを務めると、最後までその座を譲ることなくゴールを守り抜いた。特に印象に残るのはリーグ戦の最終節・法大戦だ。勝てば残留、負ければ入れ替え戦が懸かった試合は最終Q(クオーター)の途中で同点に追いつかれてしまう。手に汗握る展開の中で、金井は何度もスーパーセーブを見せチームに勝利をもたらした。「ボールが見える」と振り返るくらいに、確かにあの時の金井は神がかってたかもしれない。しかし決してそれは神霊の仕業などではなく、4年間金井が重ねてきた努力の賜物だった。

『金井組』初陣となった六大学交流戦でゴーリーを務める金井

 

 この1年間で金井が経験したのはそれだけではなかった。ゴーリーの他に金井は2023年の主将を担っていた。小学生から通算して4度目の主将だ。そして14年にも及ぶスポーツ生活の集大成の1年間で金井は、今までの価値観が大きく変わったという。ソフトボールをやっていた時は、「泥くさく、きつい中やることが正義」だと思ってやっていた。高校までの主将はチームを率いて、そして結果の責任を負うという立場で、どこか苦しく、辛い中精一杯頑張る姿勢こそが主将の姿であると信じていた。しかし、この1年間の金井は「心から楽しんでやっていた」。高校時代の同期から掛けられた何気ない言葉で高校までの自分と、ラクロス部での自分の違いに気づかされたという。ラクロス部はソフトボールの世界と比べて、価値観がそれぞれで考えもさまざまだと感じた。周りの人と真剣に向かい合っていかなければ、その人の奥に秘めたものまでは見えてこない。決して異なる価値観を否定してはいけない、でもただ素直に受け入れるだけでもお互いに進歩しない。自分の意見を言い、相手の意見も聞いてそして折衷案を見つけていく。主将としてラクロス部の同期と接する中で、学び大切にしていたことだ。リーダーや幹部、各々がつくりたいチームが上手く噛み合ってハマっていけるように主将として奔走(ほんそう)した。

リーグ戦・法大戦で得点を決めたAT拝原花歩(政経4=東京・早実)(右)と抱き合う金井

 

 ラクロスは多くの人が大学から始めるスポーツである。その分、ラクロスに至るまでの道も人それぞれだ。集団競技だった人、個人競技だった人。十人十色の人生を歩んできた選手たちの中で主将をやることは、戸惑いや悩みも伴ったかもしれない。しかし、主将人生の最後にそのようなチームを経験したことは、金井に大きな変化をもたらした。 

 

 「いろいろな価値観の人に出会って、自分の視野が広がり、受け入れられるギャップの範囲も広がった」

 

 チームの顔として『金井組』の舵(かじ)をとった金井は競技生活に別れを告げ、また新しい道を歩んでいく。

 

(記事 廣野一眞 写真 廣野一眞、近藤翔太)

 

 

 昨年は弊会のインタビューや対談に快く応じてくださり誠にありがとうございました。この場をお借りして、選手をはじめラクロス部女子の皆さまに厚く御礼申し上げます。

2023年女子ラクロス担当 廣野一眞