七海もやはり桜木と似たような方法で手元に大剣を出現させ、それを何と片手で振り上げていた。

「ただ死ぬ為に生まれたような奴等が! 直ちに死ねぇー!! 紅炎斬!!!」

 轟音を背にしてひたすら下を目指す最上は、二人の出現のお陰で地下三階に辿り着いた。

 だが、やはりそこにも敵と見られる数名の男女が蠢いている。一人の少女が、片膝を着き、地面に両手を付けて何かを叫ぶと、最上の目前5メートル程のところから、大量の水が津波のように競り上がった。

「なっ!?」

最上が驚いて反射的に上の階への斜面へ向かい走ろうとしたその時、その波は突如凍りつき、次の瞬間砕け散った。

 最上が身構えて敵の方を睨み付ける。

 だがそれは敵も同じだった。

「雷勢放陣!!」

 その女性の声が終わるや否や、突然凄まじい轟音と共に、縦横に荒れ狂う紫色の稲妻の嵐。その中央に両手を左右に翳した堂々たる少女の姿があった。

「義兄上様!」

 術が終わると、藤堂が走り寄って来た。

「大量の水は凍らせればご覧の通りです。まだ戦闘の勘が戻っていないようですから私がフォローします! さあ、急ぎましょう!」

 最上と藤堂は地下四階へ向かった。

「…ヘ、ヘイラム……」フォウリエンの怯えが手に通るように分かる。

「もはや生かしては返さぬ……」

フロアを軋ませるような強烈な威圧感を纏った桜木の言葉。彼女は左手をそのまま自然な位置で下に向けて翳すと、手元に現した青白い光の中に、一本の黒い剣を出現させた。それは、彼女が人間に与えられた魔法の道具、魔神用の武器であった。

 最上が再び走り出す。地下二階への斜面に差し掛かろうという時、再び発光体が視界に入って一瞬足を止めた。

光弾を両手に纏い、それを構えて動かないフォウリエンに向かって、桜木は剣を構え奥義に入りながら、凶悪な表情でゾッとするような声を発するのだった。

「…愚か者めが……地獄の蓋を開きおってぇ…喰らうがいい!!」

 最上は構わず走った。

 地下二階に降りると、またしても行く手に五人の人影が見えた。どうやら厳城大附属の生徒とは違う様だが、高校生の少年少女達に違いなかった。

 最上が身構えるより早く、目前に吹き上がった爆炎が消えると同時にまたもや人影が現れた。

「最上! 急げ!」

七海の声。同時に二箇所に火の手が上がった。絶叫を上げて倒れた二人の火達磨(ひだるま)達は転げ回る力も失って直ぐに動かなくなる。その焼け跡は、最上が初めて畠山にあった時の事を、思い出させた。

「死ぬなよ!?」最上はそう叫んで先へ走る。

「あ? あたし!?」七海は次の瞬間、大声で怒鳴り返した。「死ぬわけねえだろう! あたしが!! 早く思い出せよ!!!」

 七海は残る三人に視線を定める。

「紅獄のエルフレムだ。テメエ等、相手が悪かったな」

“何故葉月がこんな目に!”

 最上は必死だった。思えば水鏡から、与えられるだけ与えられ、自分は水鏡に何も与えていない。これまでいったい何を与えたと言うのだろう。

水鏡葉月。人としての最後の一日をくれた少女。デパート屋上で不安を溶かしてくれた。魔神であった事を知った自分の心中を察して泣いてくれた。全てお見通しとばかりに、あらゆる理解を得て、自分はいったい水鏡の何なのだ。この程度の命なら、自分は要らない。怒りに駆り立てられ、いつの間にか降り始めた雨の中、辺りの視線を引き裂きながら、最上は傘も持たずに走った。

駐車場はいつも通り黒い口を開けて最上を待っていた。地下にただならぬ気配がある事は、今の最上にはすぐ分かった。

今の最上に暗闇は地上と一緒である。見通しが悪い程度に過ぎなかった。

地下一階を地下二階への入口に向かって全力で走り出すと、左手の奥から突如発生した発光体が立て続けに四、五発飛んで来た。

バックステップで二、三かわすと一度転がってから今度は飛び退き、残りをかわした最上は、怒りを凝縮してその体内に流し始めた。その魔力を全身に感じながら最上は顔を上げる。相手は分かっていた。

「フォウリエンだな! 葉月を連れ戻す! 邪魔をするな!」最上は足を止めて、左手で振り払うように言い放った。

「クックックッ…テイラスがいたく気に入ってねぇ…下で可愛がって貰ってるよ。見ない方がいいんじゃないのかい?」

我を忘れかけた最上は、その瞬間、目前に地面より現れた黒い人影の背中を見た。

「ここは私にお任せを! 御急ぎ下さりませ!!」

 凄まじい気の力は、その圧力だけでフォウリエンの鼓動を停止させかねなかったに違いない。