七海の右に座ったのは、いわゆるロリ系の少女。小柄で妹みたいだが賢そうだった。隣にいる七海の顔を何度か覗き見ては、目が合うと愛想笑いをしている。

向かいの赤茶髪は妖艶な大人を気取った感じで活発な印象を持たせる。御柳の左手に位置した彼女は、御柳の顔を見るなりワインレッドに光る前髪のウェーブを揺らしてこちらを見渡した。何か話し掛けそうな感じだ。

そして最上から向かって赤茶髪の右には、前髪を揃え、綺麗な黒髪をストレートに背中まで伸ばした、いかにも好奇心旺盛な美少女が座った。

「あら、御柳君達」

赤茶髪の少女が声をかけた。確か霧小路蘭(きりのこうじらん)。女子バスケットボール部に入部したと聞いている。見かけ通り活発なようだ。身長は最上と同じ位あり、女子の中では若干、高い方に入るかも知れない。

「ウィース」

四人が揃って挨拶した。

「最上君? だっけ? 結局部活どうした? やっぱサッカー部に?」

霧小路は最上に笑顔で話し掛けた。最近思うに、日本人は出会ったばかりの人間に声を掛けると、声を掛けられた方はまるで非常識とばかりに相手を見てから、何が嫌なのかさも不愉快そうに応答する人が散見される様に思う。そういう事をしておきながら、やれ『いい出会いが無い』だとか言って、心を尖らせ、傷ついた時だけ『裏切られた』とか『捨てられた』とか犠牲者振って生きているのだ。

当然声を掛け辛くもなるだろう。だから不協和音を奏でる人間関係によって、社会が構築されていくのだ。

ここへ来て一週間、岩見といい御柳といい、七海も霧小路もその点、好感が持てると最上は思うのだった。

「そんな気は無さそうだよ?」

最上の代わりに七海が答えた。

そこへ『サッカー部』という言葉に引かれたのか、朝見かけたサッカー部女子マネージャーが現れた。脱色した髪に恐らく甘え上手な感じのその娘は、男の眼には魅力的に映る容姿をしていたが、軽薄な印象を受ける。

「岩見君、御柳君、副部長が探してるよ」

「あ、ホント?」御柳が反応する。

「何かこのままだと、新入生歓迎試合の助っ人が一人必要だから、勧誘して来いって話だったけど」

岩見が念を押した時、前方の川を渡る橋の上で、御柳達の笑い声に振り返る二人の人影が見えた。

「よう一年!」見ると、声をかけたのはどうやら先輩らしい。岩見達が大声で挨拶しているところを見ると、どうやらサッカー部の先輩なのだろう。御柳が囁いた。

「あれ、うちの副部長と一年のマネージャーだ。組は知らない。もう、一年の彼女作ってんのか、はえーな。いいか最上、ああいう身勝手なドリブラーのチームで、ゴールなんて守りたくねえんだよ俺は。守る価値もねえ。待ってるぜ」御柳は副部長の所へ走っていった。

「ゲームメーカーは副部長だ。足元にボールが来ると、いいとこ見せたがるんだな。チームスポーツの風上には置けん。足技が上手いんで皆、文句言えないんだ。だが、お前の苦しめてきた司令塔選手どもに比肩するわけじゃない。いいか、ドリブラーだぞ? あれはお前の獲物だ」岩見も走っていった。

 どうやら副部長という奴は最上のサッカー戦術思想に最も反する人間のようだ。中学時代の予選落ちの記憶が蘇ってくる。あの時、良き理解者がいれば…。そう思うと、急に新入生歓迎試合の事が気になってきた。御柳は完璧だが、フィールドには岩見だけか…。

「苦しそうだね」

心に暗い闇を抱えた最上を見透かしたように哀れみを湛えた七海の表情は意外だった。

二人はそのまま森を抜け、閑静な住宅地を鳳凰高校正門へ向かった。

昼休みになると、それぞれが昼食の場所を求めて動き出す。売店もあるのだが、最上は、岩見達と専ら学食だった。食堂は長机が並べられた広大な部屋で、いつも二大メニューに長蛇の列ができる。学食のポークピラフと和風きのこパスタはいつも大人気だった。

三人は食堂の席に付くと五分で食事を終える。その後は大抵サッカー談議だった。

「食うの、はえーなー」

 見ると七海が盆を手に最上の右隣、御柳の正面に立っていた。

「待っててやるよ。ゆっくり食っていけ」最上が椅子を引いてやると彼女はそこへ座った。

 七海が口をつける前に、女子生徒三人が御柳の隣に二人、七海の隣に一人座った。見ると同じクラスの三人組である。確か入学記念撮影の時、キャッキャとはしゃいでいたはずだ。

「あたしの事は鞘邑でいいから」

「了解!」

岩見と御柳が敬礼の仕草で応答した。

「入部か…いまいち乗れないんだよなぁ…」

最上は戦術思想が合わず、やがて各自が自己中心的に活動して散っていった、中学校のサッカー部を思い出していた。彼の改まった様子に、三人が注視する。

「死神ボランチが何言ってんだよ。まさかポジション取りに自信が無いわけじゃあねーだろう」御柳だった。

「俺達も随分期待されているようだからな。お前も当然レギュラーだろう。って、そんなみっともない理由で渋ってるわけじゃないのは、分かってるんだがな」岩見が最上の右へ回った。

「オフェンス希望者は特に多いが、ディフェンスは、望みのポジション取れなかった先輩達に未経験者を埋め合わせた様な、はっきりいって笊だ。お前等みたいな本物の守護職なら、アマチュアの中にプロがいるようなもんだろう」真剣な顔で最上を覗き込むように説明する御柳。彼のこんな顔を見るのは珍しいが、やはりサッカーに関しては真剣なのだろう。

「おい、ホントに新入生歓迎試合の前に入部しろよ?」

新歓試合。岩見達の話だと新入生チームと既存レギュラーチームで試合があるらしい。新入生が足りない場合は、勧誘も含めて一年生の部外者を誘ってもいい事になっているそうだ。レギュラーチームはユニフォームがあるが、新入生は体育や運動部が練習で使用するジャージ着用の上ビブス(背番号のついたランニングタイプのシャツ)の使用が認められている為、スパイクとレガース(すね当て)があれば、例え帰宅部でも問題なかった。

「最上、敵前逃亡は銃殺刑だぞ」御柳が裏拳で軽く最上を叩いた。御柳の眼が細まる。ここ一週間、御柳のこんな目を見る時は悪ふざけが始まる兆候だと分かっていた。

「フン、何だそれは?」

「いや、鞘邑の呪殺刑にしよう。いや、強制サッカー部員化の呪いの刑だ。なあ、鞘邑」岩見まで七海を指差しながら笑っている。

「最上はあたしのオカルトサークルに入れるよ」七海が話に入ってきた。

「駄目駄目駄目そいつは駄目だ。じゃあ、こうしよう。オカルトサークルに入れるからサッカー部にも入らせる…刑」ゲラゲラ笑う御柳。

「それならいいよ」七海もそう言って笑った。

「待ってるぞ」