70歳代で亡くなられたお父様には、2人の息子さんがいらっしゃいました。
奥様の体調が優れなかったこともあり、喪主は金融機関にお勤めの真面目そうなご長男が務められることに。
迎えた通夜当日の午後4時過ぎ、式場内の準備真っ最中だった私に顔を赤らめた見たことのない男性が近づいてきて・・・。
「葬儀屋さんさぁ、この辺にお酒売ってるところないかなぁ?」
「は、はぁ?」
通夜の開式前に酒屋さんの場所なんて聞かれたことがなかった私は、一瞬呆気にとられましたが、
「少し離れてますけど、コンビニならありますょ。」
と、場所をお教えしました。
「おぅ、ありがとナ!」
といって式場を出て行く男性を見守りながら、そばにいらした喪主様にどなたかお聞きすると、苦笑まじりに
「あれ、私の弟ですワ。」
というお答え。 何でも建設関係の会社にお勤めで、大変お酒好きの方なのだそうな。
(だけど、今からそんな飲んじゃって・・・大丈夫かなぁ?)
と、何となく不安な私・・・。
さて仏式葬では、『末期の水』を差し上げる儀式があります。
一般的にはご遺体をご自宅にご安置した際にご遺族・ご親族に執り行っていただくものですが、今回は遠方にお住まいのご親族が多かったため通夜開式前に式場で執り行うようご提案しました。
午後4時30分を過ぎてご親族の皆様が式場に集まってこられましたが、弟さんの姿が見えません。
「弟さんが戻ってこられるまでお待ちしましょうか?」
と喪主様にお聞きしましたが「いえ、待たないでいいです」。
周りのご親戚からも、「ったく、相変わらずしょ~がねぇヤツだなぁ。」 とヒソヒソ声が・・・。
「それでは始めさせていただきます。」
喪主様から順次故人様のお口に、脱脂綿を巻きつけた割り箸を使って故人様の口にお水を差し上げていただきました。
あと2,3名で終了・・・というところで、突然式場の扉がガラガラッと開き、弟さんが駆け込んでこられました。
「いや~、悪い悪いっ!
コレ買いに行ったら、帰りに道迷っちゃってサ~。」
という弟さんの手には、ワンカップ大関が・・・。
「あいつ、こんな時に酒なんか買いに行きやがって・・・」
と訝るご親族に目もくれず、弟さんは一直線にお父様の棺に突き進み、呆然と立ち尽くしていたご親族の手から綿棒を取り上げると、
「オヤジ~、大好きな日本酒買ってきたゾ~!
飲みたかったろ! 今オレが飲ませてやるからナ~!」
と、蓋を開けると脱脂綿に日本酒をタップリ含ませて、
「どうだオヤジ~! 美味ぇだろ~!?」
と泣きながらお父様の口に持っていかれました。
その姿を黙って見ていたご親族から、誰とはなく「なぁ、もう1回みんなでお酒あげようよ。」という声が・・・。
その瞬間、私は式場内の空気がピシッと一気に引き締まった、というかご親族の気持ちが一つにまとまったように感じたのです。
さっきまで白い眼で弟さんを見ていたご親族の方々は、もう誰も文句を言うことはなく、再度喪主様から順番に粛々と日本酒を差し上げたのです。
その日の通夜は大変に気持ちのこもった、酔い モトイ 良い雰囲気のお式となりました。
式終了後は弟さんの勤務先の社長さんや同僚が、まるでご遺族のように棺に寄り添い、合掌する姿も・・・。
翌日午前9時過ぎに式場に来られた弟さんの顔色は、前夜の酒が抜けなかったのか真っ赤。 ご出棺の際には、最後まで
「オヤジィ~!」
と叫びながら柩にすがりつかれ、会葬者の涙を誘っていました。
良いご葬儀になるかどうかは、参列者のお気持ち次第・・・そんなことを、弟さんの姿を拝見しつつ再認識したものです。
きっと故人様も、天国で
「おうっ、ワンカップ旨かったぜ!」
と喜んでおられたことでしょう。😊

















