恐怖の商談 < 中 > | ナベちゃんの徒然草

ナベちゃんの徒然草

還暦を過ぎ、新たな人生を模索中・・・。

「おぅ、それで保険に入れば、オリンピック行けるんだって?」

 

ソファーに座るなりそう聞かれ、「あっ、はい。 それでこの保険は・・・」 と上ずった声で説明しようとする私を遮るように、 A社長は言葉を続けます。

 

「余分な説明は要らねぇよ。 

オレはオリンピックに行ければそれでいいんだ。 

女房と二人で申し込むから、契約書作ってくれョ。」

 

聞けば、社長も奥様も在日2世。 

オリンピックを見がてら、どうしても祖国の土を踏みたいのだとか。

 

「そうでしたか・・・分かりました。 では早速書類を作りましょう。」

 

そう答えた私はカバンから申込用紙を出して、必要事項をA社長から聞きながら記入していきます。

 

本当は契約者本人に署名してもらうべきなのですが・・・A社長の話を聞いている最中、あわただしく若い〝社員〟が 「組長!」 と言って部屋に入ってくるなり、

 

「客人の前では社長って言えっ、バカヤロウ!!」

 

「すみません、社長。 ちょっと○○組のヤツらが電話でグチャグチャ言ってるんですが、どうしやしょう?」

 

「だから客人の前でそういう話をするなってんだ。 すっこんでろ!」

 

「へ、へい。 すみません。」

 

目の前でそんな会話を聞かされたら、とてもじゃないですけど 「自分で書いてください。」 なんて言えるわけもなし。 

            

    計約

 

(契約書にハンコをもらって、一刻も早く事務所を出なきゃ!)

 

内心焦れば焦るほどペンを持つ手に力が入り、震えて字がうまく書けない私。

 

「おいおい、どうした。 何ビビッてんだ?」 

 

なんて見透かされないか、気が気ではありませんでした。 

 

この時、初めて喚問で国会に呼び出された証人の気持ちが分かった私・・・。

 

ぎこちない字で申込書を書き上げ、A社長から捺印をもらって手続きは完了。

 

「それでは失礼します。」

 

と内心ホッとしながらドアに向かって歩き出したその時・・・私の後ろから、突然A社長の声が。

 

「ちょっと待ちな。 ひとつ聞き忘れてたことがあった。」

 

「えっ? な、な、何でしょうか?」

 

「女房の両親は〝北〟の出身なんだけど・・・それでもソウルに行けるょナ?」


・・・え゛っ? うー

               ・・・・・To be continued

 

 

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