恐怖の商談 < 下 > | ナベちゃんの徒然草

ナベちゃんの徒然草

還暦を過ぎ、新たな人生を模索中・・・。

「〝北〟の人間でも、ソウルに行けるのか?」

 

全く予期しない質問をぶつけられた私は、一瞬頭が真っ白。

 

(えぇ~、そんなこと知らないょ~。) 

 

そこで私はA社長に、 「それは保険会社には分かりかねますので、旅行会社に確認させていただけますか?」 と電話を拝借。

 

当時は携帯なんて存在していませんでしたからネ。

 

旅行会社の担当者に質問内容を問いただすと、

 

「いやァ、どうですかねェ・・・多分行けるとは思いますけど。」

 

(何だょ、旅行会社のくせにはっきり分からないのか!)

一瞬ムッとしましたが、一刻も早く事務所を出たい私は受話器を手にしたまま、思わずこう叫んでしまいました。

 

「そうですか。 大丈夫なんですネ。 どうもありがとうございます!」

 

(あ~あ、言っちゃった。)

 

電話を切るなり、社長の顔を見て、精いっぱいニッコリ。 社長さんは

 

「そうか、良かった。 ソウルに行くのが楽しみだ。」

 

と上機嫌。 やっと解放された私は事務所の外に・・・そしてドアを閉めた後は駅まで猛ダッシュ!

 

       

帰社するや否や、私は紹介してくれた方に電話で猛抗議。

「何で相手の素性を教えてくれなかったんですか!」

 

すると彼はカラカラと笑いながら、

 

「いやァ、ごめんごめん。 

だって本当の事を言ったら、ナベちゃん行かなかったろ?

それにキミなら知らずに行っても、何とかするだろうと思ったんだョ。」

 

おいおいっ、それって褒め言葉か?うー

 

兎にも角にも、この件は一件落着。 

 

私もいつしかこの恐怖体験を忘れていたのですが・・・1年以上経ったある日、オフィスの電話を取った女子社員が私にこう告げたのです。

 

「渡辺さん、Aさんって方から電話ョ。」

 

その名前を耳にした瞬間、私は心臓が口から飛び出すかと思いました。

 

5回ほど深呼吸をして電話口に出ると、A社長はいきなり、

 

「おぅ、アンタか。 

去年契約した保険だけどさァ。 あれ分割払いになってるけど、

少し安くて済む一括払いもできたっていうじゃねェの。 

何でちゃんと説明しなかったんだョ!」

 

(だって、説明は要らないっていったの、アンタでしょうが!)

 

な~んて思っても口に出せるワケはなく、「す、すみませ~ん。」 直立不動で受話器を手にしたまま、机に頭をぶつける程おじぎをする私。

 

(嗚呼、事務所に来いって言われたらどうしょう・・・。)

 

ほんの数秒間のはずでしたが、私には1分以上にも感じられた沈黙の後、

 

「・・・まぁ、いいか。 どうせ大した金額の差じゃねぇし。 じゃあナ。」

 

そういってA社長は電話を切ってくれました。

 

(だったら電話なんかかけてこないでょ。 でも、よ、良かったァ~!)

 

幸い(?)、私はその翌月に転勤辞令を受けて東京を離れることに。

 

その後何回も転勤で東京と地方を行ったり来たりしましたけど、東京を離れるのが嬉しかったのは、この時だけでしたネ。

 

 【 教 訓 】

     郵便受けや入口に

        社名が入っていない事務所には、

               迂闊に入っちゃいけません!

 

えっ? そんなことよりA社長夫妻は無事ソウルに行けたのかって?

 

その後ご本人からの〝お呼出し〟がなかったですから、オリンピック観戦には行けたのでしょう。

 

・・・多分。あせあせ シ~ラナイッ

 

 

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