人類史上始めて航空機が戦闘に投入されたのは、第一次世界大戦においてでした。当初は固定武装は搭載されておらず、偵察機として用いられており、敵味方の航空機同士が戦場で遭遇しても、互いに攻撃手段など無いことから、手を振り合って挨拶することもあったようです。
しかし、敵が偵察で得た情報を持ち帰ることを見過ごすわけにはいきません。すぐに、パイロット同士が空中でピストルを撃ちあうという原始的な空中戦が行なわれ始めました。やがて、航空機に機関銃を装備する技術が開発され、敵の航空機を撃墜することを目的とする航空機、すなわち戦闘機が誕生しました。
(※ 左の画像はドイツ空軍のフォッカーDr.1です。WarBirds では、一次大戦機も使用可能なんですよ。)
一次大戦において戦闘機は大量に投入され、大規模な空中戦が展開されました。激戦の中、戦闘機パイロットとなった人の多くは、短い命を散らしていきました。しかし中には連戦を生き抜いて経験と戦果を重ね、通算10機以上も敵機を撃墜するパイロット、すなわちエース (撃墜王) も誕生しました。
そのエースの一人が、ドイツ空軍のオズヴァルト・ベルケ (Oswald Boelcke) であり、生涯の通算撃墜数は40機を記録しています。右の写真が、1916年に撮影されたベルケ。(Wikipedia 英語版より転載)
ベルケはパイロットとしてだけでなく教官としても優秀で、数多くのパイロットを育てました。80機を撃墜した一次大戦のトップエース、通称レッドバロンことマンフレート・フォン・リヒトホーフェン (Manfred von Richthofen) も、ベルケの弟子の一人でした。
このベルケが残した空中戦における鉄則が、ベルケの空戦八箇条 (ベルケの格言) であり、この鉄則は現代の空中戦においても通用する、普遍の鉄則であると考えられています。
ベルケの空戦八箇条
- 攻撃を仕掛ける前に優勢を確保するように心掛けよ。可能であれば太陽を背にせよ。
- いったん攻撃を仕掛けたら、必ず完遂せよ。
- 充分に接近して、敵機を真正面に捉えた場合にのみ射撃せよ。
- 敵機を見失わないように常に心掛けよ。そして、決して敵の策略には惑わされるな。
- どんな攻撃においても、敵の後方から攻撃することが鉄則である。
- 敵が降下攻撃を仕掛けてきたら、これを回避しようとせず、敵に正対するように飛行せよ。
- 敵地上空においては、常に退路を考慮せよ。
- なるべく4機から6機の編隊で攻撃するのが原則だ。ただし、2機で同じ敵機に攻撃を仕掛けることは避けよ。
では、この八箇条をひとつづつ見ていきましょう。なお、以下の説明は Wikipedia 英語版 の説明を参考にしつつ、私の主観による解釈を加えたものですので、その点にはご注意下さい。つまりは、この解釈はひとつの例に過ぎないということです。人によっては解釈は異なるでしょうし、経験を重ねる中で、各自が自分なりの解釈を見つけ、理解を深めていって頂ければ幸いです。
1. 攻撃を仕掛ける前に優勢を確保するように心掛けよ。可能であれば太陽を背にせよ。
優勢には複数の意味があり、速度の優勢、高度の優勢、奇襲の優勢、機体性能の優勢、そして数の優勢の5点です。
速度および高度の優勢は、すなわちエネルギー状態の優勢です。敵より高度が高ければ、あるいは同高度なら速度が速ければ、戦いの主導権を握ることができます。ただし、高度差がある場合でも速度差がある場合は事情が異なることがある点には注意しましょう。すなわち、高度が高くても速度が乗っていない機体に比べれば、高度が低くても高速で飛行中の機体の方がエネルギー状態が良い場合がある、ということです。
(※エネルギーの概念については、当ブログ内「ゲームとしてのフライトシムの魅力 ~エネルギー戦闘~」をまずはご一読下さい。)
奇襲の優勢とは、出来る限り敵が気付く前に敵を発見した後、敵に気付かれないように接近して攻撃を仕掛けるようにすべし、ということです。太陽を背に接近すれば、敵から見ると強烈な逆光となり、敵から発見される可能性は低くなります。(※ ただし、現状の WarBirds においては、残念ながら太陽の逆光効果が再現されていません。申し訳ないです。将来的にはぜひ再現したい要素です。)
WarBirds では太陽の逆光こそありませんが、奇襲は重要な要素です。特に友軍のレーダー圏外を飛行中の場合、索敵は目視が頼りです。敵の死角から忍び寄り、無警戒にまっすぐ飛行中の敵を至近距離から射撃することができれば、容易に一撃で撃墜することができるでしょう。
機体性能の優勢とは、自分の機体および敵の機体の性能を把握し、その優劣を考えて戦うということです。速度に優れるが旋回性能が劣る機体もあれば、旋回性能に優れるが速度が劣る機体もあります。こういった違いを考慮し、自分の機体の利点を活かして戦うことが大切です。
数の優勢については自明です。しかし注意点としては、これは戦闘中に刻々変わる要素であるという点です。すなわち、被弾したり撃墜されたりして数が減ることもあれば、増援の到着により数が増えることもあります。また、味方の方が数が多かったはずなのに、戦闘中にいつのまにか味方とはぐれてしまい、気付けば敵に囲まれている、ということも起こり得ます。
常に周囲の状況を把握することを心掛け、敵味方双方の動向に注意を払いながら戦いを進めましょう。これを適切に行なう能力のことを、状況認識力 (Situation Awareness; SA) と言います。例え操縦技術では劣っていても、高いSA能力を身に付ければ、撃墜される回数も減り、戦果も得られるようになってくるはずです。
2. いったん攻撃を仕掛けたら、必ず完遂せよ。
これは、新人パイロットに対する戒めです。現実の戦争においては、パイロットは常に死の恐怖と戦っています。そして、この恐怖に負けて攻撃を中断し、離脱しようとした新人パイロットは、その結果として敵に背後を取られ、撃墜されたのです。そうするぐらいであれば、目の前の敵機に食らいつき続けたほうがはるかにマシであるとして、ベルケはこの戒めを残しました。
しかし、連戦を戦い抜くには、これは必ずしも良い考えではありません。1機の敵を深追いしてしまうと、他の敵機から狙われる危険性が高くなります。よって、深追いは避けるべきです。ですが、深追いを避けるべき、ということと、仕掛けた攻撃を完遂せよ、ということは、必ずしも矛盾はしないと思います。
「攻撃を仕掛ける」ということを「射撃する」と解釈してみて下さい。射撃に入るべき時は、この流れで追撃すれば理想的な射撃位置を得られると確信できる場合のみです。そして、その確信を得たなら、必中必殺の覚悟を持って射撃せよ、ということではないでしょうか。そして理想的な射撃位置を得られそうに無い場合は、深追いはせずにいったん離脱して仕切りなおすことも大切でしょう。エネルギー優位であれば、離脱しても不利な状況になる可能性は抑えられます。
3. 充分に接近して、敵機を真正面に捉えた場合にのみ射撃せよ。
空中戦において敵機に銃弾を命中させる、というのは至難の業なのです。ましてや、遠距離射撃は弾の無駄であるだけでなく、敵にこちらの存在を知らせて奇襲のチャンスを損なうことにも繋がります。さらには一次大戦当時は本格的な照準器もなく、至近距離まで接近しない限りは命中を期待することはできませんでした。銃弾は 1000m 程度まで威力を持ちますが、実際に命中を期待できる有効射程は 100m 程度、理想的な射撃距離は 50m ぐらいだったようです。
これが第二次世界大戦の時代になると、状況は少し異なります。機銃も照準器もずっと高精度になりましたし、米軍機などは、弾道の低伸性に優れる (=遠距離まで直進する) ブローニングM2 12.7mm を6~8連装で装備し、大量の弾丸を携行していました。これにより、大量の弾をバラ撒いて弾幕を張るという形の射撃が実用となったのです。
しかし、やはり基本はベルケの格言の通りです。すなわち、充分に接近し、よく狙って、短く撃つことです。200m以内に接近して射撃できれば理想的でしょう。
WarBirds においては、敵機の上に文字情報 (アイコンという) として距離が表示されますが、この単位は 100 ヤード です。1ヤード = 約 0.9m ですので、D 2 = 約 180m になります。D は Distance の D、つまり距離という意味です。なぜヤードなのかというと、100ヤード = 300フィート = 約 90m (約 100m) ですので、メートル単位に慣れている日本人にとっても、フィート単位に慣れている米国や英国人にとっても馴染みやすいからです。
4. 敵機を見失わないように常に心掛けよ。そして、決して敵の策略には惑わされるな。
前半については自明です。敵機を見失ってしまうと、敵機を追撃できないだけでなく、逆転されて自らが危機に陥る原因となります。WarBirds においては、コックピットは強制表示ですので、コックピットの枠や壁、床により視界が制限されますし、視点を操作して敵機を追うという部分もプレイヤーによる手動操作です。視点操作に慣れることがまずは重要です。
ですが、それだけの意味ではないようです。実際のところ、空戦中に敵機を見失うというケースは、頻繁に起こることだからです。加えて、目の前の敵機だけが敵というわけではありません。敵は複数いるかもしれませんし、目の前の敵だけを追っていては、別の敵に撃墜されるかもしれません。
つまり、空戦中は常に周囲を見張り、状況を把握することを心掛けよ、ということなのでしょう。
後半については、空中戦において「やられたふり」をするパイロットが少なからず居た、という事実が前提にあったようです。つまりは、不利になった際、わざと錐揉みを開始したり、急降下したりして、やられたように見せかけたわけです。墜落中の敵機を撃つのはスポーツマンシップに反する、という考えもあって、この試みは少なからず成功を収めました。これは単に逃げる機会を得るだけでなく、これにより奇襲の機会を得ることも可能でした。
ベルケは、これによって難を逃れた敵パイロットが多すぎると考えました。国の存亡をかけた戦争は、スポーツなどではありません。よって、ベルケは、たとえ敵機が墜落しかけていても、墜落もしくは戦闘不能に陥ったことを確認するまでは、敵機の様子に注意を払い続け、必要に応じて改めて攻撃を掛けるように教えました。
WarBirds においても、撃墜したと思っていた敵機がまだ飛んでいて、反撃してくるということはよく起こります。手傷を負った敵に対しても、油断しないようにすべきです。
5. どんな攻撃においても、敵の後方から攻撃することが鉄則である。
自明ですね。敵機の真後ろから攻撃できれば、射撃照準は比較的容易です。ですが、特にゲームにおいては、真後ろから射撃できる機会というのは限られます。角度がある状態でも命中させられるように要練習です。
加えて、これは後方に攻撃できない戦闘機に対する鉄則である点にも注意が必要です。防御用の旋回銃座を備える爆撃機に後方から攻撃を仕掛けることは極めて危険です。特に、WarBirds においては旋回銃座のAIは優秀に作ってありますので、なおさらです。
6. 敵が降下攻撃を仕掛けてきたら、これを回避しようとせず、敵に正対するように飛行せよ。
一次大戦においては、敵味方の機体性能差は大きくはありませんでした。よって、敵が降下攻撃を仕掛けて来た際に、これを避けようとすると、敵に容易に背後に食いつかれてしまい、撃墜されてしまうという結果になりました。それよりは、例え上昇旋回により速度を失っても、敵機に正対するようにしたほうが、ずっと危険は少ないとベルケは教えました。うまく行けば、降下攻撃に失敗して機体を引き起こす敵に対して高度優位を得、反撃することもできました。
二次大戦においては少し状況は異なります。降下しての一撃離脱戦法を得意とする高速戦闘機は、旋回性能の面では劣りますし、降下して一撃を仕掛けたら、速度が乗っているうちに上昇離脱するのが鉄則です。よって、降下攻撃を仕掛けられても、うまく回避すれば、背後に食いつかれるということは少ないのです。
ですが、回避を繰り返しているだけでは、いずれは避けきれずに撃墜されてしまうでしょう。ですので、回避するにしても、エネルギー損失に気をつけながら回避し、唯我のエネルギー差を少しづつ減らせるように動くことが大切です。つまりは、回避する場合でも、逃げるために回避するのではなく、反撃のチャンスを得るために動け、ということです。この意味においては、やはりベルケの格言は普遍でしょう。
ただ、敵のほうが高高度・高エネルギーの状態から逆転に持っていくのはもちろん、熟練を要します。しかし、勝つための戦術とは、必ずしもエネルギー差を逆転することではありません。他の敵味方の位置関係を把握し、回避しながら、味方が多い空域に敵を誘導していくというのも定石であり、これもまた、勝利を目指しての回避の形でしょう。
7. 敵地上空においては、常に退路を考慮せよ。
言われなくてもわかるような当たり前のことです。しかし、戦闘中の混乱から自分の位置を見失い、帰還できなかったパイロットは大勢いました。よってベルケは、この当たり前のことをあえて戒めとして残しました。
そしてこれは、たとえ敵地上空ではなくても、戦闘中であれば常に意識すべきことです。敵味方の動きに注意を払い、自分が不利になった際には味方が集まる方向へ退避できるようにしましょう。
8. なるべく4機から6機の編隊で攻撃するのが原則だ。ただし、2機で同じ敵機に攻撃を仕掛けることは避けよ。
第一次世界大戦が始まって1年ぐらいの間は、まだ敵も味方も飛行機の数は少なく、空中戦は1対1の戦いが主体でした。しかし戦争が続くにつれて飛行機の数は増えていき、ベルケは1対1の戦いの時代が終わったことを悟りました。ですがそういう時代が来てもなお、依然として単機で戦いに挑もうとする騎士気取りのパイロットが少なからず居て、そういったパイロットはすぐに複数の敵に囲まれ、やられてしまっていたのです。ベルケは、弟子たちにチームワークの重要性を粘り強く説きました。
ベルケが教えたチームワークとは、攻撃担当は1機のみとし、残りの隊員は攻撃中の味方を守る役に回る、ということでした。複数機で同時に同じ敵機を追い回しても、先行する味方が邪魔になって後行の機はうまく射撃できませんから利点などありませんし、他の敵機から攻撃される危険性も大きくなります。
一次大戦も後期となると、数十機同士による大規模な空中戦が展開されるようになり、チームワークの重要性はますます大きくなっていました。
そしてこれはもちろん、WarBirds においても何より大切なことです。
WarBirds を始めて間もなくの頃は、一緒に飛行してくれる知り合いは居ないかも知れません。ですが、誰でも良いので、遠慮せず、味方に勝手に付いて行ってみて下さい。見知らぬ人同士であっても、互いの存在を意識し合えば、自然と連携は生まれてきます。