専門医制度の総論は決まるも各論の課題多々
2013年5月1日 聞き手・まとめ:橋本佳子(m3.com編集長)
――卒前教育まで話を広げると、この辺りも見直す必要が出てくるのでしょうか。
卒前の臨床実習の目的は、基本的な診療能力を身に付けることであり、医学部の5年と6年の2年間、あまり濃淡を付けずに全科を回り、臨床実習をすれば良い。そして初期研修で実践的なことを学び、将来目指す専門も一部取り入れていくのが良いと思っています。
しかし、以前から言われてきたことですが、国家試験対策のために臨床実習が疎かになり、医学部の最後の1年はほとんどやらない大学もあります。そうなると臨床の能力は落ちる。国家試験を見直すことも必要です。臨床実習前に、CBTやOSCEをやっているので、国家試験では、臨床実習をきちんとやらないと解けないような問題を出すと思います。また、体調が悪かった人や、つい考え間違いをして落ちてしまった人などにチャンスを与えるために、CBTのように問題をプールして、2月と3月に2回試験しても良いと思います。1回失敗したために、1年間待つのは無駄だと思います。
――その辺りは、医療界と厚労省が話し合い決めればいいことかと。
そうです。ただ、ややこしいのは、CBTやOSCEの担当は文部科学省で、国家試験の担当は厚労省。ただ、両方とも、実際に問題を作っているのは、大学の先生ですから検討の余地はあるでしょう。さらに、各大学で卒業試験を行い、国家試験をやる現状も見直しの余地がある。
――イギリスには医師国家試験がなく、各大学の卒業試験があるだけです。
そうです。卒業試験がなくなると、各大学の独自性が失われる一面もあるかもしれませんが、国家試験とAdvanced OSCEくらいをやって、卒業試験に変えれば良いという発想もあります。ただでさえ、大学の先生は忙しいのですから、ある程度、負担が軽減される方法を考えた方が良いでしょう。
――医師養成全般を考えると、改革すべきことはたくさんあり、並行して多くを改革していかなければいけない。
そうです。これまでは、やや変えなさすぎだったのではと思います。
――CBTとOSCEはここ10年で定着しましたが、専門医制度については変えてこなかった。
はい。ただ、初期研修はだいぶ変わりました。大学から市中病院に研修場所が大きく変わり、大学が相当ダメージを受けた。しかし、悪いことではなかったと思います。大学偏重だと、専門家の集団のところだけで初期研修を受けることになり、総合的な診療能力を身につけるのには余り良くないと思います。
――最後に改めて専門医制度のことをお聞きしますが、今後、第三者機関を作り、2017年度から新制度に変えていくために、一番の難しさ、ハードルは何だとお考えですか。それともほぼコンセンサスが得られ、スムーズに物事が進むとお考えでしょうか。
基本領域については、日本専門医制評価・認定機構で、さまざまな調査もしています。やはり難しいのは総合診療医の養成プログラムを作ること。また各専門医を養成する研修施設の認定をどのように行うかという問題もあります。今の日本専門医制評価・認定機構は養成プログラムの認定だけを行い、施設認定まではやっていないと思います。サイトビジット、つまり実際に研修施設を訪問して審査するのは容易ではありません。
(日本医療機能評価機構の)病院機能評価事業の際は施設を訪問しています。一方、研修施設の認定は、施設認定基準を作り、どのくらいの医師がいて、どんな症例を診ているかなどのデータを見れば、書類審査でもある程度、分かると思いますので、この辺りをどんな方法で進めるかが検討課題です。
そのほか、第三者機関の在り方や、既に専門医を取得している先生方の移行措置なども検討課題です。例えば、既に開業しているけれども、専門医を持っていない医師をどう扱うか。あるいは(サブスペシャリティの専門医は取得していても)、内科認定医を更新していない医師も結構いるようです。専門医や認定医を取得・更新している医師は良いのですが、そうでない医師への対応が難しい課題です。
――厚労省の検討会の議論の終盤になって、「医師会」というキーワードが全面に出てくるようになったように思います。
それはやはり入れざるを得ないでしょう。日本医師会は医師を代表する集団ですし、歴史もあります。
――専門医の認定・更新に当たって、日医の生涯教育制度を活用するよう求めています。
福井先生(編集部注:聖路加国際病院院長の福井次矢氏)が、かなり詳しい生涯教育制度を作っています(日本医師会生涯教育カリキュラム2009)。ただし、この制度では、自己申告制で単位が取得できます。詳しい実情は分かりませんが、運用の在り方を検証することが必要でしょう。
――お話をお聞きしていると、今後の検討課題は多く、総論および基本的方向性は多くが支持していても、各論で意見が分かれてくる場面も多いと思います。その中で、第三者機関の在り方がカギになってくると思います。誰がイニシアチブを取っていくことになると見ておられますか。
個人的には、日本専門医制評価・認定機構の方々が中心になられたら良いと思っているのですが。
――ところで、先生ご自身は専門医を更新されているのでしょうか。
私は内科と血液内科が専門ですが、継続していないかもしれません(笑)。もう20年以上も、患者さんを診ていませんから。
――専門医は、第一線の臨床現場で仕事をされる先生方が取得、更新していくもの。
そうです。ただ、外科系の先生などは、手術をしなくても、コンサルテーション的な役割を担うことがありまます。こうした先生方に対する評価があっても良いかもしれません。