PROMISED LAND〜約束の地 | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:28AH1490(CBS/Sony) 1982年

 

 

 ふた月ほど前のことです。

 都内の部署の応援に駆り出された日の夕方、帰りの電車を待つ駅のホームで何気なく開いたYouTubeにこの動画が。

 

 

 夕方7時前の新宿駅、ごった返すホームの上で”凱旋門”を聴きながら立ち尽くす42歳の中年。

泣かへんぞ…

泣かへんぞぉ(゚´ω`゚)

 

 

 

 そしてつい最近、そろそろこのアメブロのテーマをいちど整理しておかんと…と思い立ち、それまで「アナログレコード」「歌詞」に分類していた投稿を「RUSH」「MILES DAVIS」「THE POLICE&STING」などと仕分けることにしたのですが、「浜田省吾」のテーマに過去の投稿を移行させているときにふと、アルバム”PROMISED LAND~約束の地”(以下PL)を取り上げていないことに気づいたのです。

 

 いやぁ、これはうかつでした。アルバム自体は2年以上前に大阪市内の、たしか日本橋の中古レコード/CD店で見つけていました。

 

ジャケット裏。

よく知られているようにゲイトフォールドを開くと

ご覧のとおり、金属製の不気味な物体が全容を表します。

「危険物(易燃製)」の表示から核弾頭をイメージしているとの説が。

ゲイトフォールド内部はうってかわって子供の遊ぶ姿が。ジャケット表とは海辺の情景という共通項があります。

小さくまとめられたスタッフクレジットには田島照久、町支寛二といった過去作からの常連が名を連ねています。

ライナーノーツには

歌詞が。

帯もあります。

”僕と彼女と週末に”の歌詞の一節が。

1982年のツアーの日程。このペースでひたすらコンサートに明け暮れていたのですから、凄まじいバイタリティに驚かされます。

 

 

 

 PLを語るときに真っ先に名が挙がるのがクロージングナンバーにして9分以上の大作”僕と彼女と週末に”ですが、長くなりそうなのでこの曲については別の投稿にてじっくりご紹介したいと思います。

追記:投稿しました こちらからどうぞ 2019/11/17

 

 PLのリリース前の省吾について、当時からのファンの方はご記憶かとお察しはしますが、ディスコグラフィ的な解説をかねて以下に;

 1981年に香川県三豊郡仁尾町(現:三豊市)に開業した太陽熱エネルギー発電所、いまでいうところのメガソーラーを視察した省吾はプロモーターのすすめもあって、この発電所での野外コンサートの開催を思いつきます。

 1979年の、スリーマイル原子力発電所の事故がきっかけとなった”NO NUKES”コンサートに触発された省吾は単に「反核」をテーマにするよりも、新時代に向けての前向きな説得力のあるイベントを志向したのですが、地理的な制約に加え、当時所属していた事務所ホリプロの賛同が得られなかったことでコンサートは実現できませんでした。

 

 また、テレビを中心としたメディアの露出ではなくコンサートツアーの収益に活動の軸足を置きたい省吾と、あくまでレコードのプロモーションとしてのコンサート活動にしか理解を示さない事務所との乖離は徐々に大きくなっていき、1983年には自身の個人事務所ロード&スカイの発足へとつながります。

 

このアルバムのライナーノーツに配された

送電線と鉄柱のカットは、もしかしたらこの件を暗喩しているのかもしれませんね。あくまで邪推ですが(^_^;)

 

 先の発電所のイベントが流案となったことで空いた時間は作曲に費やされ、1982年のツアーの、9月の岡山のステージでは未発表だった”僕と彼女と週末に”が演奏されました。また同じく未発表だった”マイ・ホーム・タウン”はオープニングに置かれていました。

 いわばコンサートのステージで「練られる」かたちで完成度をあげた楽曲は同年の11月にリリース、”THE GATE OF THE PROMISED LAND”という英題が添えられました。

 

 

 *

 

 

 PLをじっくり、CDのように曲をスキップしたりすることなくLPで聴いてみると分かるのですが、単純な楽曲の羅列に終わらない、レコーディングアートとしての完成度をとても強く意識した作品なのです。

 

 オープニングナンバーの重厚なインストゥルメンタル”OCEAN BEAUTY”のメロディラインがラストの”僕と彼女と週末に”で再度顔を出すことはよく知られていますが、その”OCEAN BEAUTY”が波の音で始まること、”僕と彼女と週末に”の中のナレーションで語られる情景が浜辺であることが、ジャケットの表と内側に配された海の情景と呼応しています。

 歌詞においても”マイ ホーム タウン”でナイフを手にした男に女が狙われる描写が、次にくる”パーキング・メーターに気をつけろ!”の語り手=主人公を想起させたりします。

 

 しかも、前作”愛の世代の前に”に収録の”独立記念日”の語り手もまたナイフを手に震えていることを思い出せば、”パーキング・メーターに気をつけろ!”の主人公もまた社会になじめずドロップアウトし、やがて犯罪に手を染める側に居ること、そして”マイ ホーム タウン”の語り手は順当に学校を卒業するだけの社会への順応性を持ち、凶行に走ってしまう者達を半ば憐みの目で冷徹に眺めている側に居ることがそれとなく示されていることが想像できないでしょうか。

 

 また英題の”THE GATE OF THE PROMISED LAND”にも意味が隠されていまして、もともとは

everybody standing by the gate of the promised land

”皆が約束の地の門の下に立つ”

というフレーズが用意されていました。

 

 人はみな「約束の地」を探し求めながら、実際はその地の門の下に立ったまま、出ていこうとしているのか入っていこうとしているのかが分からずにいる‐という含みをもたせています。そして、実際の「約束の地」は自分の立っている地であり住んでいる街であることから、アルバムの、冒頭のインストゥルメンタル(器楽曲)の次には”マイ ホーム タウン”が置かれているのだそうです。

 

 

 また、以前に”MIND SCREEN”の投稿の際に引用しましたが、ディレクターの須藤晃氏が


手の内をあかすようですけど、ディレクターとしてはニュー・ファミリーの崩壊というイメージがあったんです。手をつないで結婚した友たち夫婦が、現実の壁に突きあたって立ち尽くしている。そんな時代だった。
 

 

(『陽のあたる場所 浜田省吾ストーリー』角川文庫 より)

 

 と語っていた、若くして結婚した夫婦がすれちがいから別々の道を選ぶというストーリーが、このPLでは”DJお願い!””バックシート・ラブ””さよならスウィート・ホーム”の3曲で描かれています。

 

 また、曲の中に差しはさんだピースが楽曲の枠を超えて深みや重さを表現していることも特徴のひとつとして挙げられます。

 もっとも分かりやすいのはやはり”僕と彼女と週末に”の後半に入るナレーションなのですが、もうひとつ、”凱旋門”のなかに差しはさまれた

 

♪戦い疲れた兵士が今/帰って来たよ 帰って来たよ

 

という一節でしょうか。

 かつて別れた相手への尽きせぬ想いを吐露した歌詞の中に突如としてこの言葉が出てくること、それが勝者への最高の顕彰を意味する”凱旋門”という題名と呼応することで、相手への思慕がどれだけ大きいものであるかを表現しています。

 

 

 

 

 オリコンチャートで最高4位を記録するヒットとなったPLですが、反核のテーマに対する賛否両論を目の当たりにし、あまりにも大きな問題を抱え込んでしまったことへの自省が省吾のなかで起きたといいます。

 それが次の新作のレコーディングを遅らせることになり、当初は新作と同時にリリースする予定だったバラードのリメイク集”SAND CASTLE”を先にリリースします。

 

 また1984年には自身初となるスタジアムライヴを横浜球場で開催、PLや”SAND CASTLE”の収録曲、そして”僕と彼女と週末に”も演奏され、巨大な地球のセットとともに大きな話題となりました。

 しかし、スタジアムにおける観客との一体感の薄いコンサートに疑問を感じたこともあり、これにPLのテーマの大きさへの反省も加わって新作アルバムの制作は予想以上に難航、結果としてストリートの若者を等身大で描いたアルバムとしての”DOWN BY THE MAINSTREET”(『メインストリート』)が生まれます。

 

  

 ともすれば社会派な、肩に力の入ったアルバムとしての側面しか取り上げられないPLですが、最後に書きあがったという”愛しい人へ”で肯定的なラヴソングが作れたことで得た自信が”SAND CASTLE”の制作へとつながったといいます。”ロマンス ブルー””凱旋門”といった美しいメロディの楽曲も収録されており、ソングライターとしての浜田省吾の鋭敏な感性が十二分に発揮されたアルバムであり、そのことがもう少し評価されてもいいとボクは思っています。

 

 *

 

 

 最後になりましたがもうひとつ。

 1990年のアルバム”誰がために鐘は鳴る”に収録の”詩人の鐘”に

 

約束の地に 打ち上げられた罪を知る者に

 

という一節があります。

 ボクもつい最近までこの箇所の意味が分かりませんでしたが、このPLのジャケットを手にしてしばらく眺めているうちにやっと分かり…というか、もしかしたらこれか!という発見がありました。

 

…え、

 

だから何のことやねん(#´∀`)

 

ですって?

 それはもう、お手元のLPのジャケットとにらめっこしていただければと思います。いちおう、先ほども載せていた画像を、もう少し大きめの画像で載せておきます。

 

鉛筆