SAND CASTLE | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:28AH 1655(CBS/Sony) 1983年

 

 

 まず真っ先に、このアルバム”SAND CASTLE”(以下SC)をお持ちの皆さまにおうかがいします。

 

レベル、低くね?

 

 いやぁ、浜田省吾及びCBSソニーさんにどのような意図があったか確かめようもありませんが、過去に流通したCDはとにかくレベル‐全体の音量が小さくてですね、他のCDから切り替えた際にはプレイヤーの音量をふた目盛りぐらい上げないと聴こえないくらいだったんです。

 

 ボクはこのSCをCDで2回買い直しています。といっても最初の一枚を友人に、彼の経営するバーのBGMとして貸し出したことをケロリと忘れて2枚目を購入したというアホをやらかしたのでした

 

 そのCDを生活苦( ;∀;)から売却して4年目の秋という曲がありましたね(^_^;)ふと訪ねた埼玉の郊外のリサイクルショップで、

ご覧のとおり、ファーストアルバム”生まれたところを遠く離れて”以外の4作がまとめて売られているのを見つけてつい入手してしまいました。

このうちの”君が人生の時…”は以前の投稿でご紹介しています

 

 その時は予算不足で手が出せなかったSCですが、半月後に再度同じお店に行くとまだあり、これも何かの縁だと自分に言い聞かせて購入を決めました。

 

ジャケット裏のデザインはCDにも引き継がれています。

帯もありまして、

”ON THE ROAD '83”の日程が。大阪フェスティバルホールと渋谷公会堂がそれぞれ3デイズ、なんちゅう過密日程や(・_・;)

ブックレットがなかなか秀逸でして、

白を基調に風景画を配しており、CDサイズで観るよりぐっとアートな印象に。田島照久氏のセンスが十分に発揮されています。

 

 

 そうそう、先ほどCDのレベルについて触れましたが、このアナログLPもレベルは抑えめです。しかし、ミキシングが丁寧なこともあってCDよりはかなり鮮烈でシャープな音像に仕上げられています。

 CBSソニーの、特に浜田省吾作品はCDとレコードの音質に大きな差があるアルバムのほうが少ない印象がありますが、今までご紹介した中では”愛の世代の前に”とこのSCが、特にLPの音質が優れているように思います。お手元にSCのアナログLPをお持ちの方はぜひ聴き返してみて下さいませ。

 

 

 

 

 過去作をリメイクしたいという意思を、浜田省吾はアルバム”HOME BOUND”の製作直後から持っていたといいます。

 本人がインタビュー等で

デビューから5枚目までは廃番にしてくれぇ!

 と公言していたように、自身の求めるストレートなロックンロールと乖離した「シティポップス」路線を歩かされていた頃の楽曲には不満を感じずにはいられませんでした。

 

 そんな彼が

自分の中で、いつかバラードばかり集めたアルバムを作りたいっていうのは、あったんです。昔の曲は、サウンドもよくないし、歌もよくない。でも楽曲自体はすごく生き生きしてる。その頃のことを今歌ったら、全く違うでしょ。だから、その頃のままやりたい、陽のあたってなかった曲を生き返らせたい。(以下略)

(陽のあたる場所 浜田省吾ストーリー:角川文庫 より)

 

 という意思のもと制作に入ったのがこのSCでした。実はこの、自身初となるリメイク集は当時製作中のオリジナルアルバムと同時にリリースされる予定でしたが、オリジナルアルバムの製作が難航した結果、先にSCのほうがリリースされました。

 なおオリジナルアルバムの発売は翌1984年、”DOWN BY THE MAINSTREET”(当初は”メインストリート”)というタイトルがつけられました。

 

 

 リメイクにあたり省吾が抜擢したのは佐藤準氏でした。

といっても佐藤氏は省吾の作品の、アルバムでいえば”イルミネーション”から参加しているなじみのセッションミュージシャンでした。ただし、それまでの作品は水谷公生氏がアレンジ(編曲)を担当し佐藤氏はそのディレクションに従うかたちでの参加だったのに対し、SCでは省吾のヴォーカルとギターだけのデモトラックを渡されるという全権移譲にちかい手法でした。

 

 佐藤準氏の活動は非常に幅広いのですが、

1993年のヒット、井上陽水の”Make-up Shadow”の編曲といえば、なんとなくでもお分かりいただけるかもしれませんね。

 

 

 

 

 ロックを含む大衆音楽のフィールドにおいて、浜田省吾ほど過去作のリメイクに熱心なアーティストはあまりいないかもしれません。

 

 リメイクときいて皆さまが思い浮かべるのは、いちど解散して再結成したバンドの新作にボーナストラックで2曲ぐらい添えられている過去のヒット曲ではないでしょうか。すでに秀逸なオリジナルのトラックがあるのに、なんでわざわざ…という冷ややかな批判の目が向けられることはどうしても避けられないはずです。

 

 省吾の場合はデビューから5作目までの、自身がイニシアティヴをとっての創作が実現できなかったことの無念さがその原動力になっているといわれます。実際、後の”初夏の頃”のリリース後には渋谷陽一氏との対談で

 

もう昇天しましたよね。70年代の僕はもう、あの、十分何て言うの。鎮魂されて

(”ブリッジ”1997年2月号より)

 

 と語っていますので、いわば積年の悲願でもあったのでしょう。

 

 

 

 

 ボクはそんな彼の願いとは別に、時代の潮流を若干ながら意識したところもあったのではないかと推察しています。

 かつて70年代にシティポップス、アーバンポップスとよばれた音楽は80年代に入るとさらに多くのロック畑出身のミュージシャンの参入をよび、AOR(adult-oriented rock)というカテゴリを形成するまでになります。

 

 かつては若者やアウトロー、ミスフィッツ(社会不適合者)といった「分かっている」一部の者達のアンセムだったロックも70年代には急速に商業化が進みますが、その中で自身のスピリットをなおも主張し続けるための省吾のアルバムが”DOWN BY THE MAINSTREET”だったはずです。

 一方で、かつての自作曲は音も歌声もイマイチで現在の市場には通用しないが、パッケージの変更としてのリメイクを行えば現在の、AORに代表される「ナウい」ポップスのリスナーにも十分に届くはずだ、という読みや推察が、省吾及び制作陣には若干なりともあったのではないでしょうか。

 

 そして、この過去作リメイクは後の1992年、”悲しみは雪のように”のミリオンヒットに結びつきます。

クローゼットの中にありました(^_^;)シングルCDは買い取ってもらえないんですよね…

 

 この曲ももともとは1981年のアルバム”愛の世代の前に”に収録されており、同年11月にはシングルカットもされていますがその時にはヒットとはなりませんでした。

 それから約10年の後、TVドラマ『愛という名のもとに』の主題歌として提供される際にリメイクしたバージョンが省吾にとって初のシングルのチャート首位という記録的なヒットをもたらすわけですが、そのカップリングの”愛という名のもとに”はSC収録のバージョンが、アウトロ(後奏)を追加したうえで採用されているのです。

 

 

 *

 

 

 それと、これは70年代の省吾の楽曲を聴いて思ったのですが、たしかにこれは、リメイクしたくなるかもしれません(^_^;)

 後い世代ゆえに先にSCを聴いてから70年代「オリジナル」バージョンを聴くことになったのですが、SCではオープニングトラックとなっている”君に会うまでは”は、第2作”LOVE TRAIN”収録のオリジナルより何倍も美しく、切なく響きます。

 

 オリジナルから大きな飛躍を遂げ、そのおかげで聴きごたえと感動が増した曲としては”いつわりの日々”でしょうか。”MIND SCREEN”のオリジナルよりもヴォーカルに比重をおいたアレンジは鮮烈そのもの、そこに名手と名高いセッションギタリスト、今剛氏の激情的ともいえるソロがかぶさる瞬間はおおスゲー(・o・)となること必至。SCのベストトラックは、と訊ねられればボクはこの曲を挙げます。

…あ、でも”君の微笑”も捨てがたいな(;^ω^)

 

 

 

 

 浜田省吾ときいて「青春」と「メッセージ」が真っ先に頭に浮かぶ方には、このアルバム”SAND CASTLE”はかなりセンティメンタル、もっといえば軟弱にきこえるかもしれません。過去作のリメイク、しかもバラード集ともなればなおさらでしょうね。

 

 ですが、彼のディスコグラフィを追うにつれ、やはりこれは世に出るべくして出てきたアルバムであり、それが後のヒットに、省吾のソングライターの才能を世に知らしめることにつながったのですから、オリコンチャート6位(リリース当時)というセールスでは計れないほど大きな意味を持つアルバムだといえます。

 

 

 

 

 なお、2003年にはデジタルリマスターされたCDがリリースされたようですが、それ以前のCDは先述のとおりかなり残念な音質ですので、アナログレコードのプレイヤーをお持ちの方はぜひLPで聴いてみて下さい。印象がガラリと変わりますよ。

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