SF小説「宇宙惑星物語」 -31ページ目

~絶望から希望へ~

~絶望から希望へ~


ジル達を乗せたジェットタクシーは250kmで、低空飛行を続けていた。木々の突端が時々ジェットタクシーの腹底を擦る音がパキパキと音を立てる。赤外線カメラを頼りに、危険な駆け引きの運転はまだ続行中である。


SF小説「宇宙惑星物語」


「おい!見直したぞ、運転手。これも預かっとけ!」


ジルがさっき運転手に見せびらかして意地悪に仕舞いこんだプラチナ棒を惜しまず運転手の脇に、ジャラジャラと撒いた。


「ところが、問題がまたありまして・・・」


「なんだよ!」


ジルが赤い目で運転手を睨み付ける。


「やはり、バッテリーの充電が追いつかなくて・・・もう、止まるよ。」


「ええ?!」


一同が一斉に声を上げた。


「でも、ジル。たとえこのままグランドゲートまで無事にたどり着いたとしてもそこからどうするんだ?グランドゲートはさっきのゴルドンの騒動で封鎖されているだろうし、多分、フィールドゲートだって同じだろう?星の外に出られっこないよ。」


シュムタが溜息をついて溢す。


「私の一族の宇宙船はグランドゲートに停泊しているわ。私たちは、惑星レイの管轄内ならフリーパスで出国できる権利がありますから、とにかくその船に乗り込めばどうかしら?」


「お母さん、無駄だよ。僕たちの船なんか、封鎖されているに決まっているじゃないか?僕たちは指名手配なんだよ?ああ・・叔父さんや、僕の従姉妹たちは無事だろうか?」


メーギルと第三夫人の会話に絶望を感じ始めた若者一同に、さらに追い打ちをかけるよう、非常灯が騒ぎ出す!


ビーッビー!


「燃料切れだ!もう、着陸するしかないよ!」


運転手は諦めて、どこかわからぬ森の中に、一旦着陸を試みる。


「どうする?!こんなところで、野宿か?!捕まるのを待つだけだ!」


ジルがトーマスに叫ぶ。トーマスが黙ってコンビエンスを耳に取り付け、森の中に下りていくジェットタクシーの景色を沈んだ表情で眺める。


「ありがとう、もう、十分だよ。みんなに会えただけで、幸せだ。こうしてスーザとも再会できたし。」


メーギルがスーザを振り向き、その美しい形の頬を両手で包み込んだ。


「スーザ、はるばる、ありがとう。もう、僕はここで捕まって処刑されるのかもしれないが、僕は本当に君と結婚するつもりでいた。だから、もし奇跡が起こって、助かることがあったら、式を挙げよう。もう、何も心配することは無いよ。僕の皇位は剥奪されて、平民どころか、罪人の身だ。それでもいい?」


バッチーン!


スーザがメーギルの頬を思い切りひっぱたたいた。


「情けないことを言わないでちょうだい!」


仁王のように立ち上がるスーザに、メーギルと、若者達が驚いて言葉を失っている。


「あなたのためにここに来た仲間のためにも、私のためにも、なんとか、生き延びましょう!あなたは惑星レイの王子様でしょう?わたしが結婚したいと思った男性は、平民でも、罪人でもなく、ポマノフ王朝の王位継承権を持った、王子様なの!あんな、野盗のような連中に、お父上の大事にしてきた国を奪われて、覚えのない罪を着せられて、あなた平気なの?!見損なったわ!」


スーザが呆気にとられている若者たちの前で、せっせと荷物をまとめ始める。


「スーザ、どうするつもりなのか?」


ジュイフが尋ねる。


「森を、歩くのよ!何としても!そして、どこかの民家で宇宙船を貸してもらうのよ!」


「こんな田舎に宇宙船を持っている家は無いさ。」


シュムタは絶望しているようだ。


「事情を話し、なんとか協力してもらうように努めましょう!いいのよ!この森の中で山犬の餌食になってみすぼらしく死んでいくのを望むなら、どうぞご勝手に!私は生きて帰るわ、絶対に!」


スーザの決意を見ていたメーギル夫人が、静かにスーザの荷物の手伝いを始める。そっと、スーザの手に夫人が手を載せ、二人は微笑み合う。


とうとう、ジェットタクシーは静かに森の中に着陸した。真っ暗闇の中、赤外線ビジョンが映し出すものは、小さな森の生き物に過ぎない。ホーホーッと、夜の鳥たちが寂しい音楽会を始めるとそれにつられて、山犬のような生き物の遠吠えがこだまする。そして、全員が永遠と続く真っ暗な森の闇に目を向ける。言葉は出てこない。不安と絶望の中、真っ暗闇の森の中で、何を慰めあうというのか?

ジェットタクシーのドアが寂しく開き、一同は黙って星輝く空に向かう真っ黒な針葉樹群を見上げた。ここが、奥深い、人里離れた寂しい森の中であることを、土の香りと共に確かめながら。


「死ににいくようなもんだな?」


ジルがトーマスに笑う。


「さあ、仕方ない、山を下りよう。スーザの言うように、民家がある可能性もある。」


「地図にそんなもんはなかったでずぜ」


運転手が、絶望している皆に追い打ちをかける。


「足元は大丈夫ですか?」


スーザが夫人の手を取って、ゆっくりと歩き出す。


「いくらここを突破出来ても、その次はどうするんだよ?!」


シュムタがトーマスに溢したその時だった!


「シ!静かに!誰か、・・・俺たちに交信している!俺たちのコードを使って!」


トーマスが秘密電波を傍受したようだ。


「ゴルドンじゃないのか?!」


「いや、違う。これは・・・ああ・・」


「なんだ?!」


「セルフィードだ!」


「ええ!?」


トーマスが若者たちに静かにするよう指で合図すると、コンビエンスで交信を始める。音声は皆に聞こえるよう、オンフックする。


「セルフィード!お前一体どこに居るんだ?ゲルに先生といたんじゃないのか?」


「先生に、帰省がてら、ライブラリに資料を調べに行くよう言われたんだけど、やっぱりほら、君たちの事が気になっちゃってさ、ライブラリの近くだから、ちょっと様子を見に来たんだよ。みんなは元気かい?」


「元気も何も!死にそうなんだよ!ここに迎えに来い!」


「え?君たちはクインデタリアンに向かっているんじゃないの?違うのかい?」


ジルが苛々して自分のコンビエンスを付けると、トーマスの交信に加わった。


「おい!お前どうやってグラウンドゲートを潜り抜けた?!今グランドゲートは封鎖されて入国は不可能のはずだ!」


「何を言ってるの?僕は、由緒正しい、惑星ウィットの名門貴族であり、そして、ライブラリの正規会員である、ジェネロイヤルアカデミー准教授だよ?惑星レイの管轄内ならフリーパスで出入りできるんだ。知らないのかい?」


「よし!やった!!」


一同が大声を張り上げた。


「なに?なんだい、一体・・・?」


「いいから、セルフィード、俺たちの場所がわかるな?コンビエンスからキャッチできるだろう?」


「ああ、わかるよ、なんでみんなそんな森の中にいるのかい?歩いてクインデタリアンにいくの?ずいぶん遠回りだね。僕は船で向かうよ。」


「よし、今からどれくらいでここに来れる?」


「もう、上にいるよ。」


「何だって?!」


若者達が星空を見上げると、そこには、セルフィードの宇宙船、GW-322が静かに停泊している。信じられない光景だった。セルフィードは人口惑星ゲルを出発した後、静かにジル達の後をついてきたようである。

 一同はその円形の優雅な船体を、改めてゆっくりと仰ぎ見た。人口惑星ゲルに居た時は、目新しい、ジルの大統領専用機や、トーマスの最新機にばかり目が行っていたが、こうやって少し前のGW-322をじっくり見てみれば、なかなかの船である。20年前、戦争も終わり、人々が宇宙船に求めたのは、優雅さと安らぎのデザインだった。戦いからは程遠いその調和のデザインは、見る者の心を和ませる。そして、今、遭難した若者たちを優しく出迎える、子宮のような存在にも見える。


宇宙船からオートラダーが降り、夫人とスーザから順番に引き上げられる。


「諦めては駄目と言ったでしょう?!」


勝ち誇った笑顔で、星の光瞬く夜に、美しい少女がかぐや姫のように天に舞い上がっていく。


「おい、メーギル、なかなかの、女だな!」


ジルがメーギルを冷やかしたがメーギルはさっきのショックからまだ立ち直っていないようだ。若者達は一人ずつ全員無事にセルフィードの宇宙船に乗り込み、シャッターの前で待ち受けているセルフィードと固く握手を交わす。


「おい!見直した!今回の旅は、普段役に立たない人間が大活躍だな!」


ジルが称賛とは程遠い賛辞をセルフィードに送り、背中をどんと叩いた。


「じゃあ、セルフィード、逃げるぞ!」


トーマスがセルフィードを急かす。


「逃げる?何?何のために?」


「俺たち、追われてるんだ。罪人なんだ。逃げないとこの船、撃ち落されるぜ!」


「え!どういうこと!」


「もう来たみたいだ!」


トーマスが、いち早くコクピットに駆けつけてビジョンを操作している。見たこともない立派な船室で、例のジェットタクシーの運転手は目をきょろきょろさせている。


「お前は、大気圏突入の準備を進めろ!セルフィード、この船に武器は搭載してないな?」


「え!どうしてそんなこというの?!これは旅客機だよ!武器なんか載せてないよ?ねえ、どういうことなんだい?」


「上から3機ほど来た!旋回するぞ!シートベルトを付けておけ!」


トーマスがビジョンに近づく三機の宇宙船に垂直に立ち向かう。全員が全身に降りかかる反重力に押しつぶされそうになるが、ジルがそれでも、シートベルトを外して、首座のトーマスに近づく!


「トーマス!体当たりはやめろ!折角助かったんだ!慎重な方法を選べ!」


「大丈夫だ、いい考えがある!この船は武器は無いがいいものを載せてるんだ。」


トーマスが三機を照準に捕えると突然、非常用パネルの中から一つのボタンを選んでそれを思い切り叩く!


「そうか!妨害音波か!」


妨害音波とは旅行中に、宙族や、危険な船に出会った場合、計り知れない特殊音波を出して相手の船の操作を暫く不能にしてしまう武器である。20年ほど前に作られた宇宙船のみこれを搭載しており、セルフィードの船GW-322がちょうどそれだったのに、トーマスが気づいたのである。


ブワーーーーン!ブワーーン!


セルフィードの船から出される計り知れない特殊音波は、波の唸りとなって、三機の敵の宇宙船を包み込んだ!森の木々もその波に揺られて大きく仰け反り、しなっている。


「よし!成功したぞ!身動きできないようだ!相手からの通信が完全に途絶えたみたいだ!」


「やったあ!」


船内は大歓声で溢れ、セルフィードだけが取り残されて青い顔で周囲を見回している。


「みんな、このまま大気圏突入するぞ!」


ジルがトーマスの肩を叩いて元の席に戻りしっかりとベルトを腰に回す。


「セルフィード!お前のライブラリの湖にあるあの、カッコいい別荘、メーギル達の隠れ家にしたらいいよな?!」


ジルがセルフィードの肩を組んで無理やり引き寄せる。後ろの席で、夫人とスーザが微笑みながら、窓の外に写る星空を眺める。


運命。それは自分で切り開くもの。どんな障害にも立ち向かっていけるのは、愛と友情があるからこそ。スーザは美しい星々に、感謝し、夫人と共に、祈った。これからの無事の逃避行を、そして、メーギルの未来を。


宇宙船は若者達の希望と不安を載せ、唸り声を上げて、星空に一瞬にして消えていった。



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