SF小説「宇宙惑星物語」 -29ページ目

~呪われた皇子~

~呪われた皇子~


黄金の塔から無事脱出したガルバンゾーだったが、ロームキンの軍に捕えられ、王宮クインデタリアンに運び込まれていた。外傷は無かったものの数か所に打撲が見られ、少し片足を引きずっての登場となった。


「やあ、さっきはどうもお疲れだったね。お蔭で私もいい運動ができたよ。」


椅子に漸く腰掛けるガルバンゾーを上から見下ろし、ロームキンは皮肉交じりに微笑んだ。


「狙った獲物は取り逃がしたのか?」


「君はそんなこと気にしなくていい。」


ロームキンの少し引き攣った笑顔にガルバンゾーは若者達がうまく逃亡していることを確信した。

SF小説「宇宙惑星物語」

「で?俺を医療裁判にかけるっていうのか?今更?下らないな。」

「ガルバンゾー=ジョゼフ。何千年もの間、代々王宮の直属典医を務めてきた由緒正しい、ジョゼフ一家の末息子。今や、ご当家とは絶縁され、トールドーン星系きっての異端の医者。変わり者。黒の医者とも呼ばれ、君について書かれた情報もいくつかあるね。医学部の成績は、一族の中でも最も優良だったそうだが、君は一族がみな卒業している王立医学院を出ず、ラスポタニテに留学した。奇歴だね。」


「何故だ?変わってるのはお前たちの方だろう。俺の一族は、惑星レイの名門王立医学院を特別免除をもらって無試験で入れる。そんなバカを王宮の典医に代々任命しているのだから、お前たちこそ頭がおかしいんじゃないのか?」


「確かに君たちの一族は優秀とは言い難いね。」


ロームキンは微笑むとゆっくりとガルバンゾーに向かい合って座った。


「その顔から首にかけてある細かい傷は何だ?」


医者の条件反射でガルバンゾーがロームキンに尋ねたがロームキンは黙っている。浅黒い痩せた肌は骨にぴったりとくっつき、艶のない不自然な肌に無数にこびり付く小さな傷にガルバンゾーは違和感を感じたのだ。


「ロームキン!」


突然、開かぬはずのドアが開き、尋問室に飛び込んできたは、あの、第二夫人だった。濃紺の張りのある生地で仕立てられた美しいシルエットのドレスの裾を軽く持ち上げ、慌ててドアを閉める。


「王妃様・・!ここにお越しになってはいけません!」


ロームキンが狼狽し、夫人を外に出そすよう兵士に命じるが、夫人が頑として突っぱねる。その柔らかな物腰と見た目からは想像もできない気の強さには兵士も怯んで、どちらの命令を聞いたものかと目を回している。


「ハハハ。お妃様を生で見たのは初めてだな、成程、通りで、美しく、恐ろしい。」


ガルバンゾーが第二夫人を睨み付けた。


「ロームキン、この医者を生かしておいてはいけないわ。死んだ者も生き返らせてしまうのだそうよ。私の目の前で、判決を下して頂戴!そうしなければ不安で眠れないのよ!」


夫人が震える白い指先をガルバンゾーに向ける。


「物騒なことを言うなよ。俺は死んだものを生き返らせたりはしない。死んで時間のたったものはどうしようもないのさ。あんたが生き返らせたくないのはあんたたちが殺した大王様と、これから殺す予定のメーギルと第三夫人か。」


「ねえ、ロームキン、どうにかして頂戴!」


感情のまま、ロームキンにしがみ付くこの無鉄砲で、分別無しの女を乱暴に振りほどいて引っ叩いてやりたい!ロームキンの胸にメラメラを湧き上がる怒りを必死に抑えた。実際に、我慢できずにこの女にお仕置きをしたことは何度かある。それで、自分が優位であることを確認し、この女にも植えつけてきたつもりだ。しかし、今は兵士やガルバンゾーの手前、みっともない様は見せられはしない。しかし、二人が特別な仲であることは、ここにいる人間でよほど鈍感で幼稚な人間でなければ、わからない者はいないだろう。


「お妃様、お座りください。」


ロームキンは、紺のドレスの貴婦人にやっと椅子を譲ることにした。


「ガルバンゾーを裁判にかけることは構わないのです。」


「じゃあ、そうして頂戴!証拠はいくらでもあるのでしょう?!」


「しかし、ガルバンゾーは我々に必要なのです。」


「何故?!」


ガルバンゾーが首を傾げた。何故ロームキンはそんなことを言うのか?


「下がれ。」


ロームキンは兵士たちを全員部屋の外に追い出した。一体どうしたというのか?何かが始まろうとしている。


「彼とわたしは交渉しなければならないのです。貴女と、私のために。そして、そのお腹の子供のために。」


三人以外、誰も部屋にいないことを確認し、ロームキンが静かに言葉を選んで話し始めた。


「子供?王妃様、子供がいるのかい・・・」


ガルバンゾーが王妃のお腹に目をやった。まだ外目にはわからないが、確かに彼女の少しやせた様なむくんだ様な不健康な顔色は、それを裏付けないわけでもなかった。


「なんてこった。お前たちの子供のために、大王様を殺めたってのか!」


ガルバンゾーの言葉に第二夫人は反応した。


「大王を殺めたのはメーギルと、第三夫人よ!あんなに大王に可愛がられてなんて恩知らずでしょう!許されないわ!そして、次の世継ぎは、お腹の息子ではなく、私の長男です。」


「あの出来損ないか。それに恩知らずって、お前の事だろう?大王の一番の寵愛を受けているにも関わらずこの男と、子供を生した。とんでもない悪女だ。」


ガルバンゾーの言葉に、ロームキンが下を向いて笑ったのに夫人は気づかなかったようだ。


「何と言われようと、我々には使命があるのだよ。王妃様のお腹にいる子供を、君が責任を持って、取り上げ、そして暫くの間、担当医として、ついてもらう。その代り、君を罪に問うことも、ここで殺めることもしないだろう。どうだい?悪い条件ではないはずだ。」


ロームキンがガルバンゾーに冷静に告白した。


「意味が分からんな。俺にお産婆さんをしろっていうのか?この女が高齢だから心配しているなら保育カプセルで成長させれば問題ないだろう?」


ロームキンは暫く俯いて黙っていたが、ガルバンゾーに自分の腕を捲り上げて差し出した。浅黒い、筋肉質の無駄のない腕である。訓練のたまものに違いない。そういえば、さっきから、首筋にかけてある細かい傷の後のようなものがやはりあちこちに見られる。


「何か、先天的異常があるのか?」


ガルバンゾーがロームキンを見上げたがロームキンは首を振る。


「なあに?ロームキン!?何の話なの?」


王妃も何の話か知らないようだ。大変重要な事実を打ち明けようとしていることは、ガルバンゾーにも分かったがまだ呑み込めず、その傷跡をのぞきこむ。傷跡の中には、結着部分が開きかけているものが僅かに見られる。


「まさか・・?!」


ガルバンゾーがその傷を指で開き、もっとよく覗き込むと、その中に蠢く、無数の青い突起物を発見した。


「お前・・」


ロームキンは、ガルバンゾーが悟ったと知ると静かに手を引込めマントの中にそれを隠した。


「誰にしてもらったんだ?!」


「君がまだ活躍していなかった頃、こういうことを進んでする医者が幾人かいたのだよ。その一人だね。彼は医師免許を剥奪され、今はこの世にいない。だから私も色々と苦労も多い。」


「フフ・・ハハハ!ハアッツハハハッハ!」


ガルバンゾーが高笑いを始めると同時に、夫人が青い顔でロームキンの顔を伺う。


「あなた・・・何?何を隠しているの?教えて頂戴!わたしとあなたに秘密は無いはずよ!」


夫人がロームキンのマントを揺らすが、ロームキンはびくともしない。


「これは、滑稽な話だ!成程、そうか、そういうことか・・。いいだろう。お妃様。俺もあんたの腹から出てくる王子様を見たくなった。条件は飲もう。ハハハハ!」


ロームキンは黙って立ち上がった。


「交渉成立だね。但し、それまで君は一歩も王宮から出てはならない。任務が終われば君は自由の身だ。」


「よかろう。後で誓約書を書いてもらうぜ。」


ガルバンゾーは頷いた。


「そうだ。一番通路の奥の収容所に、片目を失った哀れな青年がいると思うから、ついでに診てやってくれ。」


黒いマントの怪人は、夫人の手を優しく取ってやると、自分に引き寄せた。さっきの怒りを押し殺し、彼女を労わるように。彼女はまだ、ジョーカーを握っているのだから。





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