SF小説「宇宙惑星物語」 -27ページ目

~トールドーンの死生観~

~トールドーンの死生観~


「まず、トールドーンの医療最前線、から行こう。」


ガルバンゾーは葉巻を取り出すと、ゆっくりと火をつける。


「さっきは落ち着いて吸えなかったからな。さて、現在の医療なんて、単純なものさ。最先端の細胞が、勝手に生物の中で蘇生をしてくれるんだから、このライトを当てておけば医者のすることなんて殆どないに等しい。」


「なんだ、それだけか」


「今お前に打っておいた蘇生用細胞は、『ダノケス細胞』という最新型の細胞だ。最近入手困難になっているものだが、政治家に頼んで俺が買い占めることに成功した。言っておくが、蘇生細胞だからと言っておまえのそのマンホールから目ん玉が生えてくるわけじゃないぜ。限りなく同質の器官の蘇生にしか対応できない。いや、対応できる細胞もあるんだがな、それは流石にまずいってことで完全に禁止されている。」


「入手困難になったり禁止されるのは何故だ?」


薬のせいで虚ろになったゴルドンが、いつになく優しい声で尋ねる。ゴルドンの横に、静かにシバーが横たえる。シバーもここの所ずっと睡眠をとっていなかった。


「蘇生細胞の最大の欠点は『暴れる』っていう現象なんだ。」


「暴れる?異常に増殖するってことか。」


「まあそれもあるな。もう一点は、蘇生細胞は、人間が作り出した歴史の浅い細胞であるため、ほかの細胞と突然、勝手な進化を始めるんだ。それが起きてしまったらどうしようもない。特に健康な人間の体内では起こりやすい為、その人間の遺伝子とは程遠いものを使った蘇生細胞を使わないと危険だったりする。暴れる原因はまだ多く解明されていない。」


「その進化って具体的にはどんなだ?」


「その進化細胞が勝手に意味のない臓器を作り始めたり血管や、腫瘍を作ったりする。最悪のケースはウィルスなどと進化してとんでもない化物の細胞を作り出すこともある。」


「へえ。面白いな。」


「結局もっとも古くから使われている安定した『P2V型』などが用いられるが、蘇生時間が長くて問題だ。俺は危険が大きくても、最新型のものを使いたい。何故なら俺は外科手術もするからだ。」


「外科手術は普通の医者はしないのか?それが変わっていると言われてる理由か?」


「トールドーン星系で、古典治療と蘇生治療を両方行うことは医師としてタブーなのです。」


シバーが横で微笑む。


「なんでだ?不便だな。」


「そうだ。ここからは、現在の医療事情、ってことになるな。シバー。こいつに、ブランケットを持ってきてやってほしい。冷えてはまずい。」


シバーはゆっくり頷くと収容所の外に出ていく。


「あいつも、こうした遺伝子や細胞の医療の犠牲者の一人・・一匹っていうんだな。可哀相に。」


ガルバンゾーが通路を歩くシバーの後ろ姿を眺める。


「古典医療っていうのは、薬を出したり、怪我を消毒したり、悪いものを物理的に取り除いたり、血管を強引に縫合してつないだり・・まあ、いろいろとある、大昔からある、いわゆる、古臭い医療さ。俺はどっちかというと、この方が好きだ。工作してるみたいでな。」


「それも細胞がやってくれないのか?」


「もう一つの蘇生治療である細胞の仕事は、やや時間がかかるということと、リスクが大きいということだな。古典医療と、蘇生治療。両方あって完全な治療となる。ところが・・・!」


ガルバンゾーが、葉巻を床に押し付けて火を消す。


「ところが?」


ゴルドンは興味深くガルバンゾーの話に聞き入っている。夢中になっているときは痛みも辛さも忘れるものだとガルバンゾーは青年の様子を見て安心したようだ。


「どこかの医療学会の偉いバカが、この二つの医療の学問を真っ二つに分けた。専門化が大事だという観点からだそうだ。大学も病院も真っ二つに分かれた。そして、患者たちは一つの病気を治すのにあっちに行ったりこっちに行ったり、右往左往するわけさ。」


ガルバンゾーはシバーからブランケットを受け取ると、ゴルドンの下半身にかけてやった。


「人間って馬鹿だからな。二つの派は喧嘩を始め、政治と繋がり、完全に分断した。そして挙句の果てにはどちらが正しい医療なのか?なんてことを真面目に論議してやがる。そんなことをしゃべくっている間に一人の命でも助けてやればいいものを、ああいう種類の連中はどこの分野にもいるんだ。若者達は、迷い、どちらの道に進むべきか?迷う。当然、収入のいい、蘇生治療に進むだろう。落ちこぼれは、古典医療に進む。これがまずいんだ!外科治療ほど、優秀な人材が欲しい!しかし、法律で完全に禁止されている。二つの免許を同時に持つことを!」


「下らねえことになってるんだな。それにしたって先生はじゃあ、医療法に反した行為を堂々としてるってわけか。」


「まあな、それがやんわりと許される場所がバックスラーさ。あの、治外法権の緩い規制の場所が心地良いわけだ。でもな?いくらバックスラーにいたって、こんなことは普通許されない。何故まかり通っているかわかるか?」


「その馬鹿な偉い奴を治しているからだ。」


「その通りだ。お前はやっぱり賢くていい。優秀な弁護士を味方に付けることも大事だ。そうじゃなきゃ、こんな時代、生き延びれないぜ。」


シバーが静かに笑って聞いている。


「あと、一つ気になっていることがあるんだが・・・先生の話だと、俺達はいつ死ぬんだ?まあ、俺はきっといつか誰かに殺られて終わりだろうから余計な心配だと思うが、これじゃあ人口がどんどん増えて困るよな?」


「衛星ラスはどうだったんだ?お前もそれくらい知っているはずだろう?」


「俺は、・・・イッポーテ島に母親と島流しにされてたから。島では島の昔からの治療で、年老いれば皆自然に死んでいったから。そんな細胞がどうのとか、聞いたことがねえ。」


ガルバンゾーはハッとした。誰の庶子か、皆目見当がつかなかったがこれでゴルドンの身元ははっきりしたのだ。


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「母親はメルーザだな。」


ゴルドンは押し黙る。


「凄い美人だったぜ。あれだけの女はそういない。」


「もうその話はいいんだ。よしてくれ。・・・ああ、ただ、一つ聞きたい。先生は・・・そういう王家の家系に詳しそうだよな?」


「まあな、野次馬根性で、そういう話は大好きだ。家系図だって書けるぜ。」


「俺に、妹がいるか知らないか?」


「何だって?」


「ルートチェッカーというのをしたとき、妹がいると、言われたんだが全く記憶にない。」


「ルートチェッカーがいうなら間違いないだろう。調べておいてやってもいいぜ。」


「ああ、頼む。」


暫し、沈黙となる。シバーが気を利かせ、ゴルドンに水を与える。ゴルドンは時折、睡魔に襲われている様子で、普段話さないことも、ついつい饒舌に話してしまっている様子だ。


「話を元に戻そう。死生観についてだが、惑星の基準によるんだ。この惑星レイでは、90歳以上は自由死を認められている。」


「自由死?!」


「ああ、罰当たりな名前だな。しかし、誰も死ななくなったこの星系で、これはやむを得ないことだろう。」


 トールドーン星系では、ある年齢を越すと自由死というのが認められていて、安楽死を求めることも許されているのだ。


「しかし、永遠に生きたいっていうやつも多いだろう?」


「基本的に若返りは完全に禁止されている。定期的な細胞診断でそれは誤魔化せないからな。蘇生治療が活発化して人間が死ななくなって来た頃、200歳生きた、とか、300歳だ!とかそんな人もいたさ。今でもたまにはいるぜ。だが、生きていくって、なんだと思う?」

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「・・・」


ゴルドンは黙っている。


「今じゃそんな長生きしたがる人間も稀だな。大体、100を過ぎたころ患った病気を機に、自然死とか、古典治療にのみ預けるとかして自然の成り行きに身をゆだねる、というのが常識になってる。まあ、基本的に自由だ。家族愛に恵まれた老人は、200や300でもどうぞというわけだが、人それぞれだ。その人間の積み重ねかな?俺は気楽な独り身だから90ピッタリで最高の安楽死を選ぶ予定だ。」


「ガルバンゾー先生、眠ったようです。」


シバーが乱れたブランケットをゴルドンに静かにかけなおしてやる。ガルバンゾーはゆっくりと立ち上がり、ゴルドンの意外にあどけない寝顔を黙って見つめた。


「可哀相な奴だ。なんとか助けてやりたいんだが・・・なあ、シバー。」


ガルバンゾーはシバーの艶やかな黒い毛並みを撫でると、二人で静かに収容所を出ていった。





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