SF小説「宇宙惑星物語」 -28ページ目

~再会~

~再会~


ガルバンゾーは通路に出ると、暗いジメジメとした狭い空間を歩き始めた。


「しかし、困ったな。バックスラーの診療所は誰に任せるか・・・」


どれだけの間この王宮に閉じ込められることになるのか想像もつかないが、残してきた診療所が気になる。しかし、こうした時、独り身であることは気楽な部分もあると、ガルバンゾーは自分を慰めていた。


SF小説「宇宙惑星物語」

向こう側から何者かの足音が近づいてくる。こちらまで伸びてくる長細く黒い影の主が、ゆっくりと、奥の収容所から歩いてくるようだ。


ヒタリ・・ヒタリ・・・


音を感じさせない不思議な足音である。


「ア!」


ガルバンゾーは思わず二つの輝くグリーン・アイに声を発した。


「ムードルか・・・なんだ、驚かせるんじゃないぜ。番をしてるのか?」


ガルバンゾーは引きずった片足を地面につけ、もう片方のひざを立てて屈むと、素晴らしい黒い毛並みの犬をゆっくりと撫でた。


「ドクターですね?香りがしますよ。」


「喋る!・・・シバーか?!お前、有名な、あの、シバーだろう!」


ガルバンゾーがその犬の流れ打つような筋肉の波を手でゆっくり辿りながら、かの名犬の全貌をゆっくりと鑑賞した。


「初めて見たぜ。凄いな。前からお前を欲しいと思ってた。」


「欲しい?フフフ」


「俺は、バックスラーで医者をしてるガルバンゾーという者だ。お前のご主人様に苛められて当分ここから抜け出すことはできないみたいだ。」


「ご主人?ロームキン殿の事ですね?私の主人は、ポマノフ大王だったのですが今はこの世におられません。よって、どなたが主になることやら・・」


「目をやられた患者というのはこの奥にいるのか?」


「ええ、痛みによって先程気を失ったようです。」


「どれどれ」


ガルバンゾーが収容所の入口に着くと、鉄格子と電子網の入り乱れた柵の奥に、転がっている若者が見える。タッチパネルに話しかけて電子錠を解除させると、ガルバンゾーはシバーを伴ってゆっくりと部屋に入った。


「若いじゃないか?まだ・・・なんでこんな若者にこんなことするのか?惑星レイの法律に反するだろう?」


ガルバンゾーが俯せている青年の前にかがみこむ。


「彼の場合は、法律適用外なようです」


シバーの言葉を聞きながら、ガルバンゾーが青年の体を仰向けにした時だった!


「こいつは!」


「ご存じなのですか?」


「お前は知っているのか?!」


「はい。ベクトル王朝の第11庶子、ゴルドン=ヒューマだそうです。」


「ああ、間違いない・・酷い目にあわされて・・可哀相なこった。」


ガルバンゾーはポケットからスプレーの瓶を取り出すと、ゴルドンの眼球が以前収まっていた真っ黒の洞穴にそれをシュッとかける。鞄から、注射器を取り出し、ゴルドンの黒く焦げた目の淵に差して、注射の目盛をセットし、その間に蘇生ライトを取り出す。


「間に合うといいがな。」


「どんな処置を?」


「黒焦げになっているから、壊疽の心配は無いだろうが、細胞のダメージが激しい。死んだ細胞が速く排泄される薬と、細胞蘇生の細胞を注入したのさ。勝手に頑張ってくれるはずだが、駄目だと細胞は勝手に死滅する。」


ガルバンゾーはもう一つ太い注射を取り出し、ゴルドンの左腕の血管を探してそれをセットした。


「回復剤や、抗菌剤が入っている。効き目が強いのを選んだからじき、目覚めるだろう。」


シバーはガルバンゾーの処置を沈黙して見守っている。


「シバー。お前は今どんな仕事をしてるんだ?」


「フィールドゲートの、ゲートマンの補佐で、ムードルの指揮をとっています。」


「そうか。俺はてっきり王宮の奥の方で優雅に過ごしていると噂で聞いてたから、そりゃ驚いたな。現役で働きたいとお前が申請したのか?」


「・・・」


シバーの沈黙にガルバンゾーはそれ以上突っ込むことを控えたほうがいいと感じた。


「シバー。この国はもう、駄目だ。王宮クインデタリアンは悪魔に魂を売ったのさ。これからは悪魔の巣窟となるだろう。お前のような聡明な犬はここを出たほうがいい。俺と一緒にバックスラーに来ないか?」


シバーは黙って遠くを見ている。長い長い一生をこの王宮クインデタリアンで過ごしてきた。誰よりも忠実に、王家に尽くして真面目に働いてきたのだ。しかし、今、王家は分裂し、乱れ、腐敗を始めている、そのことはシバーにも薄々感じていた。フィールドゲートに追放された時は、それはそれでいい、と感じていた。終わりゆく王国を無念な気持ちで眺めるのも忍びなかったからだ。


「感じるままに生きたいと思うようになっています。ですから、まだ決められません。」


「そうか、そうだな。それがいい。先の事を考えすぎると、道を誤る。」


ガルバンゾーがそう言いかけた時、ゴルドンが目を開けてゆっくりと起き上がろうとしている。ガルバンゾーが視界に入ったが、まったく焦点が合わない。ぐらりと世界は揺れて気分が悪くなる。


「よくものが見えねえし、頭が痛くて死にそうだ・・吐き気がする。」


ゴルドンは再び床に倒れ、赤い顔でうなされ始めた。


「発熱しているんだろう。薬は打ったし、心配ないぜ。今日は一日、ここに付いていてやろう。」


「せ・・・先生、バックスラーの先生だな?ガ・・ガルバンゾー・・何でここにいる?どういうことだ?まったくわからねえ。」


ゴルドンは漸く働く思考で、必死に起きたことを思い出そうとしている。


「そうだ、俺はさっきあの、薄ぎたねえ黒いマントの男に、目を潰されたんだ。」


「ひどいことをするもんだ・・若い奴に・・」


ガルバンゾーはゴルドンのうわごとを聞きながらもう一本注射を用意している。


「片目は無事なのか?先生」


「ああ、まったく無事だ。」


「そうか・・・片目になっちまったのか・・困ったもんだな。」


「坊主、もし、今後お前が生きていることがあったら、なんとか、お前に失った眼をプレゼントしてやるぜ。」


「義眼をか?」


「まあ、義眼・・といえばそうだが。いい義眼を持っているんだ。俺の趣味で作った義眼だ。フフフ。そうだ。お前に相応しいな。あの眼は主を探してたんだ。そうだ、おまえがいい。ピッタリだ。だから、安心しろ。とにかく殺されずに無事にまたバックスラーに戻ってこい。ナッツとも約束したんだろう?」


「ああ・・あの猫女・・そんなこともあったな。無事にか・・・万に一も無いが、それに賭けるとしよう。」


ガルバンゾーが再びゴルドンの腕にゆっくりと注射をした。


「痛みは無くなるぜ。眠くなるがな。」


「いつもこのライトだな。まぶしいような嫌な光だ。」


「この波長の光が、今まで何万人の人間を救ってきたわけだ。光なくしては治療はあり得ん。」


ガルバンゾーがシバーに飲み物を持ってくるよう指示をする。


「先生は、どうしてここに来た?」


「お前の友達が、メーギルを助けにやってきて、俺だけ取り残されたってわけだ。俺はタイミング悪く、メーギルの治療にはるばるやってきてたからな。そしたら暫くここのお妃様の担当医をするよう、閉じ込められたんだ。」


「そうか!ジル達!やったんだな・・・そうか、よかった!成功したんだな。」


ゴルドンは嬉しさのあまり腕を振り回すので、蘇生ライトが倒れそうになる。


「多分、惑星外に出た様子だ。はっきりとは聞いていないが、うまくいったらしい。しかし、どうやって宇宙に出たのか・・あのタクシーでは無理だったはずだ。」


ゴルドンは、トーマスの事だから必ずメーギルを救出してくれるだろうという確信を初めから持っていた。トーマスには何かそういう不思議な能力があると、会った時から直感で感じていたのだ。やはり、彼は裏切らない。


「しかし、二枚目は台無しだな。まあ、美男子ってのは美人に好かれないそうだから、それくらい崩れていた方が却ってもてるかもしれないぜ。ハハ」


「ところで、先生は何で変わり者って言われてるんだ。」


ガルバンゾーが注射器を仕舞いながら笑う。シバーが飲み物を運んできて、ガルバンゾーに渡す。


「何にも知らないんだな。いいさ、惑星トールドーンの医療ってのがどんなにおかしなことになってて、俺がどんなに変わってるのか。ゆっくりと話してやろう。」


ガルバンゾーは皿の中に飲料を半分出してシバーに与え、残りをゆっくりと飲み干しながら、ゴルドンの横に座り話し始めた。






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