~沈黙の統治者~
~沈黙の統治者~
「ピーンハリ、TDSAに向かってもらうわ。」
アメジストグロッサの目の前のビジョンに、留守の間衛星ラスの都市開発事業の為、一睡も出来ないピーンハリ=ルーゼンの、血色のない顔が映る。
「代表として赴くに相応しいのはやはりアメジスト様でしょう?」
ピーンハリは、アメジストの要求に少し納得がいかないようだ。
「私では目立つのよ。人々の記憶に残りたくない。」
「了解致しました。」
ビジョンを消すと、ピーンハリは項垂れた。確かに留守を守り、衛星ラスの開発事業や、政治改革、帝国カピタからの移民請負いなど、重要な任務を一切任されて光栄なことではあるが、更にTDSAへ代表として赴けとは一体アメジストはどんなつもりなのだろうか、と、ビジョンを背にして頭を掻いた。
「ピーンハリ様、やはり危惧しておりましたように、惑星テスの資源開発は、予算の枠組みを大きく超えるものかと。アメジスト様に今、進言していただけないものでしょうか?」
金勘定に長けているピーンハリのもっとも大事にしている配下、リンドルフが珍しく泣き言を言う。都市開発になくてはならない、帝国仕様のの資源、トビニウムは目の前の大きな無人星、惑星テスに、唸るほど眠っていることは事前の調査で明白なことだった。しかし、限られたトールドーンの時代遅れの資材でもっての開発事業には限界があり、時間と金の枠組みを大きくはみ出してしまった。流石のリンドルフも、アメジストに提示された予算の中では何一つ進まないことを確信したようだ。
「アメジスト様に提言申し上げるのは一向に構わないが、お答えは決まっている。予算は出ないのだ。ティベリウス閣下をはじめとする元老院のの反対を押し切って、政務省に当初の倍の予算に引き上げていただいたのだ。」
「では、計画にありました、重要建造物の大半を、小惑星型に空中に設置する量を減らしては如何でしょうか?」
「仕方ないな。でもここは地震大国だ。マントルの老化を促進させるのも少し気が引ける方法だしな。」
「それも考慮に入れなければならないことでしょう。あまり贅沢は言っておられません。金ができればあとでどうにでも再生は可能なのです。」
ピーンハリは、この事業を手掛け、自分がなんと優柔不断の男なのかを知らされていた。アメジストにはそこが自分の至らない部分だと指摘されてきたが、今回ほどそれを痛感したことは無い。すべては、取れないのだ。あきらめるこそが、決断なのだと。この、リンドルフという配下がいなければ、毎日眠れず、睡眠導入剤片手に気がおかしくなってしまったことであろう。
「開発計画を縮小するのがお厭なら、もう、ここで金を作るしかありませんね?」
自分の可愛い上司は、アメジストに立派な都市開発事業の経過を、堂々と報告したいのであろうと、心を読んだ、賢いリンドルフの第二の提案だった。
「カピタの金がここで何の価値があろう?」
「いえ、迅速に貿易を進め、トールドーン星系中の惑星から金をどんどん衛星テスに流してもらうほか無いでしょう。」
リンドルフは確固とした自信を持って、ピーンハリに歩み出た。
「兼ね合いが難しいところだ。余りにも早くトールドーン星系に技術力が流れるのも悩ましい。」
「ご心配なさいますな。それはまだまだ遥か先の事でしょう。まずは、あまり科学技術力に影響の出ない分野から地道に貿易を促進しましょう。お任せください。」
リンドルフの頭の中には既に良い計画図が描かれているようで、ピーンハリは仕方なくゆっくりと相槌を打ち、窓から衛星テスの変わりゆく姿を眺めた。
一方、宇宙船で優雅な旅を続けているコルネリウスとアメジストグロッサは、惑星レイを出立して、次は暗黒惑星群に足を向けてみることとした。ビジョンに写るのは混乱する惑星レイの内乱の様子や、フィールドゲート封鎖の速報、衛星ラスの非常事態で、騒然とする星系内の混沌が良く掴み取れた。ボイールの窓から離れていく大きな惑星レイの姿を見送りながら、目標はまだ星系内の人類にも知られていない未知の世界であり、好奇心旺盛のアメジストグロッサの胸は益々高まるばかりだ。
「我々が沈黙の統治者となるための、立派な隠れ蓑を見出された、というわけですね。今になって漸くアメジスト様の御心が推し量れたように思います」
コルネリウスが、山のように積み上げられたクッキーの山から一枚それをとって匂いを嗅いでいる。
「惑星レイの焼き菓子は甘いわ。甘すぎる。惑星ラスポタニテのビクトリアは最高だった。やはりクッキー一枚にもその国の内情が現れるわね。そうよ。あなたの言うとおり、ロームキンという役者を見つけたのよ。彼は最高だわ。」
「世界の悪を負って立つ男ですね。」
「まさにその通り。世紀の大悪党。彼こそが相応しい。外見も、中身も。申し分ない。気に入ったのよ。」
コルネリウスはアメジストの描くシナリオに、なかなか満足している風だった。
「欲望とは、落とし穴でもありますな。」
「良いことを言うじゃない、コルネリウス。欲望がなければ、頂上も見えないけれどね。ロームキンがどんな演技をして、世界を酔わせるのか?我々は静観しながら、果たすべき義務を着々と進めましょう。」
アメジストは、惑星レイで手に入れた最高のダージリンを入れて、コルネリウスに差し出した。
次の舞台はTDSA。そこで、これからの方向は決まる。
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