~拷問~
~拷問~
王宮クインデタリアンに戻ったロームキンは惑星レイ、及び、惑星ウィット、リード、その他小惑星、人工惑星、ライブラリ、惑星バックスラーに向けて、大王の暗殺事件と、容疑者メーギル=ポマノフ皇子の逃亡、その指名手配、惑星圏内に特別緊急非常時体制を敷くことと共に、トールドーン星系全体が、大変危険な状態にある声明を、発表した。
惑星レイは混乱状態に陥り、特に、民会側はこの事件の真相究明に乗り出し、ロームキン率いる王族派との対立をますます激化させていった。そのため、王宮クインデタリアンは完全封鎖され、蟻一匹通さぬよう、厳重に警備が敷かれる一方で、王宮の周囲にはこの異常な対応を示す王族派に対し反旗を翻す民会のメンバー達がとり囲み、惑星レイは、騒然とした、混沌の中にあった。
「ロームキン様、フィールドゲートで捕えた青年をこちらに連れてまいりました。やはり、ルーツチェッカーによる身元調査は間違いなく、ベクトル=ヒューマの第十一番目の庶子、ゴルドン=ヒューマと断定されます。」
ロームキンのもっとも愛する腹心は、第二夫人の弟、デッキ=ミラー侯爵である。姉の力により爵位まで得て、ここまで出世できたことは否定できないが、実際彼は秀才で、とても有能な人物であったことは疑いの余地は無い。姉に似て大変美形である。
「フリーポートは?」
「ライズ=ヒューマッカローの子息ということになっています。」
「ライズの?!」
「はい。間違いございません。」
ロームキンは、手に取る金色のフリーポートをクインデタリアンに差し込む朝日に翳しながら、少し考え込んだ。
「以前、第7フィールドゲートで大きな事故があったがそれに関わっていたのがヒューマッカロー一族ののフリーポートを所持していたという情報が入っている。」
「例の異星人が探し求めているのが、ベクトル王朝の生き残りであるなら、まさしく彼が衛星ラスからただ一人逃亡した人物かと。」
「成程、筋書きが出来上がるな。どこかで、隠れていたのだろう。そうか!ヒューマッカローの配偶者は確か、ベクトルの愛妾の妹だ!そこで、。・・・そうか。あのホールズが、TDSAで一必死になって青年の身柄の安全を要求していたのは・・そうか、ホールズがかくまっていたわけだ。ホールズは、あの戦争の時から、ベクトルとは交流が深いと聞いていた。すべて繋がる。」
「どうなさいますか?」
「とにかく会ってみたい。」
「ではこちらへ」
王宮クインデタリアンの地下には、厳しい取り調べを受ける人間の部屋が用意されている。高級捕虜の収容目的以外戦争以降使われたことは全くなかったが、その大きな広間には椅子とトイレと机が殺風景に並べられ、幾つかのベッドが並んでいる。隣の部屋には個室がいくつか設けられているが、明かりの差し込まない完全に密閉された部屋で、何千年もの間それは全く使われてはいない。どの部屋も今時の収容所と比べたらとんでもない時代錯誤な部屋と言えるが、実際、王宮の地下に人を囲わなければいけない事情など、ここ数十年全くなかったのだ。
ゴルドンはその大きい捕虜収容室にただ一人放り込まれ、いくつかの監視モニターでチェックされ続けていた。
固いベッドにはシーツ一枚敷かれていないが、比較的明るい部屋で、快適とは言えないが数か月は苦も無く暮らせそうである。時代遅れの鉄格子には、大きな錠前が取り付けられていているがそれは使用されていない。鉄格子の前にびっしりと網の目に敷かれている電子網が、現在その代りの役目を果たしているのだ。触れれば、あっという間にレアステーキになるだろう。
「さあ、出てこい。取り調べだぞ」
看守がゴルドンを呼ぶと大人しくゴルドンはそれに従った。長い通路を歩いているとき、ゴルドンは再び奇妙なデジャビュに襲われた。このような場所に何度も来たことがある。毎日、一回、誰かを探しに?誰かに会いに?胸を突き刺すような苦い記憶で、何かがそれを打ち消そうとする。監獄で待っていたのは誰か?ゴルドンは軽い眩暈を覚えながら、一番階段に近い、新しい部屋に連れて行かれた。後で作りなおした部屋であろう、近代的なシンプルな作りでタッチパネルで扉は開く。
「ようこそ、クインデタリアンへ、王子。」
部屋の中で待ち構えていたのは、黒いマントを華麗に振りかざし、深々と挨拶する、例の男だった。
「ああ、見たことのある奴だ、バックスラーで講演会してたという、男だな?」
ゴルドンが電子手錠を付けられたまま、ロームキンの椅子に向かい合って座らされた。
「バックスラー?」
ロームキンは沈黙してからハッと目を開けた。
「君もあの時、バックスラーに、惑星ウィットのヨゼフ家の息子と遊びに来ていたのかね?」
「そうだ。おめえはメーギルをやろうとしたみたいだが、残念だったな。」
「君は、たった一人で衛星ラスから逃亡し、フィールドゲートで大暴れして脱出し、人工惑星ゲルへ逃げ込んでホールズに匿ってもらい、そしてまたこの星に乗り込んできて、仲間とメーギルを救出しに来たってわけだね?」
「さあ?何の事だか。」
ゴルドンが地面にペット唾を吐いた。
「君を見ていると・・・とても皇子の所作とは思えないね。下品で、野蛮で。どういう育ちをしてきたのか?」
ロームキンが心から不思議そうに、見たことのない若者の周りをぐるぐるとまわる。一見ちょっと逞しい、普通の青年だ。ただ、そこから溢れ出る何かに、いつも恐怖を拭い切れない理由がわからず、余計にゴルドンを観察せずにはおれない。
「まあ、細かいことはいい。君も、いろいろと若いのに苦労してきたんだろう。それは僕にもとてもよくわかるよ。」
ロームキンは再び椅子に腰かけた。
「だから不思議と君をそんなに憎くは思えない。生まれながらに不幸にして、いつまでも、その闇から抜けることはできない。生まれた時からぬくぬくと安住の住処に甘んじ、欲望を持て余す人種とは程遠いからだ。」
「そんな話は興味がねえ。」
ゴルドンが少し笑った。
「易によると、君をここで、トールドーン星系が失うのはまずい、と出ている。」
「易?ああ、占いか。島にもいた。でも、お前と違って、もっと当たりそうだったぜ。」
「易は、占いではないよ。占いという言葉でひっくるめてもいいが、易学は可能性ではない。必然性だ。」
「だから?俺を助けてくれるのか?」
「いや、君は、あのカピタという帝国の主に捧げようと思う。交換条件として、役立ってもらわねばならない。ただ、もう、君のことなど、あちらは興味がないのかもしれない。でも、易では君がとても役立つと、出ている。」
「そうか、じゃあ是非そうしてくれ。」
「・・・君は、本当に、思った以上に賢いね?」
「何の話だ。」
「君の望み通り、TDSAに連れて行ってやろう。それ以降は、運命のみぞ、知るだ。では、ごきげんよう。出立の日は後日知らせよう。」
ロームキンが静かに立ち上がり、出口に向かって歩き出した。しかし、突然くるりと方向を変えると、ゴルドンの方に向かって突き進んだ!
ビシン!
ロームキンが、ゴルドンから奪い上げたホイップで思い切り背中を打ちのめした!
「グア!」
あまりの激しさに椅子ごとひっくり返った!
「痛いだろうが、君はこういう仕打ちを今まで多くの人間にしてきただろう?君は、痛みというのをもっと知った方がいい。」
ロームキンは、兵士から電子フェンシングを抜くとその先に伸び上るしなやかな電子の青い流れを確かめてから、ゴルドンの眼球目指して貫いた!
「グアーアアアアアアアアア!」
電子フェンシングを直接眼球に押し込まれたゴルドンの悲鳴が部屋中に広がった。ジュジュジュっと人肉の焼けるような恐ろしい異臭と、燻る煙と共に、ロームキンが微笑む。兵士達は酷い光景に小さな悲鳴を上げ、後ずさりする。
「君には手加減してもらわないといけない。ハンディキャップを付けさせてもらうよ。」
ゴルドンの右目が完全に焼け焦げたのを確認すると、漸くゆっくりフェンシングを抜き取り、ロームキンは電子フェンシングを兵士に投げ返した。
部屋は恐怖で静まり返っている。しかし、その部屋の隅から静かに現れた一匹の黒い生き物が静かに呻くゴルドンに近寄りその体を拾い上げて、器用に背中に乗せる。
「シバー。久しぶりじゃないか?なぜここにいる?」
ロームキンが座って見事な黒い毛並みの、美しい生き物に話しかける。相変わらず吸い込まれるようなそのグリーンの瞳に、ロームキンは見とれていた。しかし、この何もかも見透かしているような賢い目が、気に入らないのだ。
「今回の経緯をすべて目撃しておりましたので」
「君は、この件が済んだら速やかにフィールドゲートに戻ってもらうよ。」
ロームキンは静かに微笑んでシバーの艶やかな毛並みを撫でるとゴルドンを連れて、部屋を出るよう合図を送った。
「さあ、次はガルバンゾーだな。ガルバンゾーを呼べ!」
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