SF小説「宇宙惑星物語」 -14ページ目

~演説~

~演説~


「ロームキンにはもっと働いてもらう予定だったというのに・・・!あの女・・・!」



立体ビジョンの前で地団太を踏むアメジストグロッサをコルネリウスが宥める。



「後釜は他にもいるでしょう。第三夫人のお腹の子供など・・楽しみではありませんか。」


「遺体の回収に兵士を集めるのよ!」


「しかし、この状況では兵士が思うように動いてはくれません。」


コルネリウスが冷ややかに微笑んでいるようにさえ見える。アメジストはそれを察したのか、ビジョンを睨み付けて押し黙った。


一方、TDSAの会議場の舞台で、ジーゼルマッフルはコンビエンスをポケットから取り出すと耳に装着し、額に沿って小さなアンテナのようなものを伸ばした。そこから静かに降りる半透明の白い電子スクリーンに彼女が集中する。



「映ったわ・・」



ジーゼルマッフルにしか見えない画像がくっきりとその正面に現れる。


コンビエンスの第2の機能、投影である。周波数を聴覚器官に共鳴させて画像を捕える補助機能であるが、この画像を獲得するには、先天的な能力も必要と言われている。ジーゼルマッフルはこの技能については特別に長けていた。



「この画像が、世界に流れているのね。」



ジーゼルマッフルがゆっくりと立ち上がり、ロームキンの真っ黒に焦げた顔面を確認しながら、レーザ銃を背中に収める。彼女は会議場の隅から隅を隈なく眺め、何かを探し始める。



「閣下、何を探しておいでですか?」



シバーがロームキンの亡骸の周囲をぐるぐるとまわりながら尋ねる。



「この画像を捕えている移動カメラがどこにあるかよ。」



「今はどの画像が流れているのですか?」



「私達が映っている。常に焦点は、この会議場の動く対象物に絞られているようで、今は私がしっかと写っている。あなたと。でも、空中を動く者の気配はないから、壁に固定されているようね。」



シバーが一緒に壁を動き回り秘密のカメラを探して歩く。



「これですね。固定されてはいませんよ。」



シバーが壁から何かを剥ぎ取り地面にそれを落としたかと思うと、足でそれを転がして見せる。



「虫・・・?!」



カメムシのような小さな生き物だがよく見ると有機物ではない質感である。四角い胴体からムカデのように無数の足が生えている。背中には小さなレンズのようなものがついており、不規則にそれが左右に動いている。



「ご覧ください、あちこちに、ほら。」



ジーゼルがじっくりとその壁を見ると、数えきれないほどのその小さなムカデが ゆっくりと壁から天井を這いずりまわっている。



「この小さな生き物のようなものがカメラなのか、あるいは特殊なレーダーを発信しているのかわかりませんが、

画像についてはこの小型ロボットが関わっていると思って間違いはありません。」



シバーが再び長い尻尾で壁をピシリ!と叩くと無数のムカデが、ザザっと不気味な音を立てて地面に落ちる。



ジーゼルマッフルはその虫の群れの流れを見つめていたが、何か思い立ったように会議場を見渡すと、ゆっくりと中央へ足を向けた。そこにはロームキンの亡骸と、マーク=ギンガメルスガンデ大統領の溶けた肉体が、虚しく広がっているだけである。


ジーゼルはその液体をゆっくりと掻き集め、一滴も残さぬようポケットから出した採収瓶に優しく流し込むと、静かに立ち上がった。



「惑星ラスポタニテの民よ!」




「今、この映像を見ているものがあれば、聞いてほしい!」


ジーゼルマッフルは、一人、静まり返った会議場の舞台に立ち上がる。


「国民の見ているこの映像は真実であり、今このトールドーンで起きている現実である!」


ジーゼルマッフルがきりりと姿勢を正して拳を振り上げる。女性とは思えぬ威風堂々、全てのものが彼女の美しさと、内面から溢れ出る自信と威厳に、胸を打たれるだろう。

数多くの戦場経験がある彼女は、口ばかりが男女平等と叫ぶ女たちを威圧する迫力と、実力と、経験を持っていた。国際宇宙警備隊に在籍していた頃も、現場の仕事を率先して行い、多くの危機に直面した。彼女の鍛え上げられた肉体が、その実績を示している。


SF小説「宇宙惑星物語」

「あの女!何を始める気か・・・!コルネリウス!映像を止めなさい!」


「間に合いますでしょうか?」


「早く!急ぐのよ!」


惑星バックスラーで優雅に最高級のワインを嗜みながら、ピーンハリの一人舞台を楽しむはずだったアメジストグロッサに、すでに余裕の色は無い。足元にはグラスの破片が散らばり、掃除ロボットがこまごまと足元を潜り抜けるたび、アメジストグロッサがそれをつま先で跳ね除けるが、ロボットはそれにもめげずに再びその清掃活動に動き回る。


「このトールドーン星系は、現在、正体不明の異星人達に占拠されつつある。」


そんな馬鹿な・・・


全世界の民が、映像に喰らいついている。全ての周波数を制御され、どのチャンネルを選んでもこの映像が送られてくるとは、尋常ではない。


世界は動揺していた。


「最初に、占拠されたのが、衛星ラスであり、ベクトル王朝は完全に崩壊した。旅行者の安否は現在確認中である。」


ジーゼルマッフルは、ポケットからさっきの小瓶を取り出した。


「TDSAのフィールドゲートは破壊され、このTDSAの安否も危うい。ジル=ギンガメルスガンデ大統領も、こうやって、亡き者とされた。」


小瓶を大きく空に掲げ、ジーゼルはそれに光を翳してみる。


「惑星レイは、民会が政治的圧力を受け、国王が亡き者とされ、内政は混沌の中にあり、すでに異星人の力が及んでいる。ここで、トールドーンの民が行うことはまず、一つしかない。」


ジーゼルマッフルは、穏やかな表情だ。辺りをぐるりと見渡し、映像を見るものは優しくジーゼルに微笑みかけられているように感じた。


「異星人と、戦うか、屈するか。そのどちらかしかない。」


トールドーンの民に、鳥肌が立った。


信じられない現実が今、起きようとしている。老いも若きも、すべての民が言葉を失い、ただ、ジーゼルマッフルの、次の言葉を待つだけだ。


「異星人は驚異的な科学力を持って我々に挑んでくる。敗北は、必至の情勢かもしれない。」


シバーが美しい漆黒の毛並みを、ジーゼルの足元に寄せる。彼女を静かに支えるように、彼は周囲の警戒を怠らない。


「トールドーン星系は、ポマノフ一世の執政から、新世紀、4000年を迎え、新たな節目を迎えているのだ。」


「静かにその、大きな力に、身を委ね、流れに任せていこうと思う者は、黙って惑星レイに赴くがよい。そして。」


ジーゼルはますます、その小瓶を空高く掲げる。小瓶の中の液体が証明に照らされ、キラキラと輝きを増し、人々はジーゼルの涙から溢れる大粒の涙に気づかない。


「その歴史を胸に抱き、誇りを失わず、大きな敵に立ち向かう勇気のあるものは、この小瓶の中にいた偉人の意思を受け継ぎ、惑星ラスポタニテに、赴くがいい!」


ウワアーーーー


拍手喝采と共に、惑星バックスラーのビジョンの前にいた民が立ち上がって、叫ぶ!


ジーゼル=マッフル!ジーゼルマッフル!

ギンガメルスガンデ大統領、万歳!


彼女はあくまでも、客観的な視点を失わない。そこがほかの女性と異なるところなのだ。


トールドーン星系全世界のビジョンの前で静かに沈黙する民と

立ち上がって涙を流す民が、二つに分かれた。

それは、どこの国民であるかということに限らなかった。


ジーゼル!ジーゼル!


観衆の拍手の中、青白い顔で震えているのは、アメジストグロッサだ。握り拳を固く握りしめ、その美しい白い指からは、汗がぽたぽたと流れ落ちている。


ジーゼルが演説を終えて壇上を降りると同時に、世界に配信される画像が落ちた。


「素晴らしい演説でした。」


シバーがジーゼルを振り向いた途端、何者かがジーゼルの背後を捕え、彼女をしっかと拘束している!


「うっ!」


腕で首を締め上げられ、ジーゼルが思わず小瓶を床に落とす!


「言いたいことはそれだけか?!」


青い細かな鱗で覆われたトカゲの様な皮膚に、真っ赤な鮮血を思わせる眼球が大きく動く顔と首が、ヒューマノイドであるはずの胴体に繋がっている。その恐ろしい生き物が、ジーゼルマッフルのしなやかな首に腕を巻き付け、蛇のような舌で、ジーゼルの耳をチロチロと舐め上げているのだ!


一体何が起こったのか!


シバーが正体不明の生き物にグルルルル・・・と唸り、エメラルド色の眼球を光らせる!





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