SF小説「宇宙惑星物語」 -12ページ目

~アメジストの決断~

~アメジストの決断~

「コルネリウス!」


青白い美貌で震えるアメジストグロッサが、コルネリウスを睨み付ける。


「直ちに、『傘(クレードルパスラ)』で、TDSAに向かうわよ!」


「何ですと・・・?!」


SF小説「宇宙惑星物語」

コルネリウスが、気は確かかと、アメジストグロッサに詰め寄る。バックスラーの屋外オペラ座には立体ビジョンを囲んで、信じられぬほどの人だかりができている。スクリーンには真っ暗な画面が映し出されているばかりだが、人々は次に一体何が映し出されるのか、瞬きもしない様子だ。


「アメジスト様、惑星レイの圏内を瞬間高速移動など、自殺行為でございます、おわかりでしょう?」


「何故よ?!TDSAのフィールドゲートは破壊、TDSAの存在さえも危ういというのに、何を恐れる必要があるの?」


「しかし、ライブラリが・・・」


ライブラリは、トールドーン星系の、情報の宝庫である。文化の結集といっても過言ではない。流石のアメジストも一瞬言葉を飲み込んだように見えた。が、


「さあ!急いで乗り込むのよ!ピーンハリを救い出さねば!」


筋書きが違ったのは自分のせいだと、アメジストグロッサは責任を感じているのであろう。もともと自分が赴くべき場所に多忙なピーンハリを仕向けたのは、自分の存在のカモフラージュにしたかったからだ、という事実は否めない。ただ、彼に多くの経験をさせることで一回りも、二回りも成長してほしかったのも事実である。コルネリウスは、アメジストグロッサの心境をすぐ理解したが、クレードルパスラを使うことはどう考えても危険であることは否定できなかった。


「さ、コルネリウス、乗り込みましょう!」


コルネリウスが説得する暇もないまま、上空には数機のボイールとクレードルパスラが待機している。人々が、何事かと、上空を仰いでいるがアメジストグロッサは構わず、帝国製のホバーに跨る。


「さあ!コルネリウス!一刻を争うのよ!」


ブワーン!


屋外オペラ座に突風をまき散らしながらアメジストグロッサのホバーと優雅なスカートがオーロラのように空を舞いあがる。彼女は凄いスピードでクレードルパスらに吸い込まれていく!


「このままでは、総帥は正しい判断を見失ってしまわれる・・・」


コルネリウスは逆上するアメジストに戸惑いながらも、ホバーに乗り込んだ。



ガッツン!


一方、TDSAの制御塔の入口では、もう一団が激しい戦いを繰り広げていた。


といっても、ホールズがたった一人で10人の兵士とピーンハリ相手に格闘を続けていた。目も眩むほどの速さで最後の兵士を足で蹴り上げて、その勢いで兵士は背中から、TDSAの底まで真っ逆さまに落ちていく!


ウワアアアアアア・・・・


「フウ!さて、大将殿がやっと残ったみたいだね。」


ホールズは、ちいさくなっていく兵士の姿を見下ろしながら、汚れた衣服をパンパンと優雅に払うと、ピーンハリルーゼンに、ほほ笑んだ。


強い!只者ではない!


まったく疲れている気配もなく、護衛の10人をあっという間にやっつけてしまった。外観、年齢からは想像もできないしなやかな動きと、身のかわし、無駄のない俊敏な動きがまるで、優雅に踊っているようにさえ見える!ピーンハリ=ルーゼンは、帝国では見たこともないこの超人の様な男に驚愕し、尻込みしていることを気づかれないようにするのに、必死だった。


「フフフ…また新しい武器が出てくるのかい?」


「・・・」


ピーンハリは返事をしない。


「さっき、マークを殺したのは、冷凍レーザガンだね。成程、理論では可能であるが、この星系ではまだ実用化はされていない。マイクロウェーブ(電子レンジ)は便利だが、冷凍レーザーも実用化すると、食卓が華やぐね。」


「余裕だな・・・こんな時に冗談か。」


額から滲み出る冷たい汗が、ピーンハリの瞳に入る。


「さて、ちょっとお手並み拝見。」


ホールズがとっさに電子フェンシングをピーンハリの喉元に近づけようとしたので、ピーンハリがそれを慌てて鍔で受け止めるが、ホールズがニコリと笑って、電流を流す!


ビリビリ!

「うわ!」


思わずフェンシングを落とし、それを拾おうとすると、ホールズが飛び掛かってきて、マントの先をフェンシングの先で地面に押し付ける。ピーンハリがマントを引っ張ろうとするが、逆にホールズがそれを引っ張り返すので無様にひっくり返ってしまう!ホールズがピーンハリの体に跨り、今度こそ間違いなく、ピーンハリの喉元に剣先を突きつける。


「君と少しお話がしたかったのだよ。だからこの静かな場所に君を連れてきた。」


「何だと?!」


ピーンハリがホールズを睨み付ける。透き通った何もかも見通しそうなその鷹の様な大きな瞳に思わず目を背ける。


「君の探し物は、何処にあるか、知ってるよ。」


「何?何の話だ・・・」


「大切な、玉だろう?歴史を知る、対の玉。全てを知っている、事の始まり。フフフ」


「歴史を知る?」


ピーンハリの表情に、ホールズは確信をした。


「なるほど、君は、何も知らされていない。だが、君の上司は知っている?あるいは、ちょっとだけ、知っている?」


ホールズが掴み取ったマントをバッとピーンハリの顔に被せたので、ピーンハリは慌ててそれを取り除く。すると、ホールズの顔が正面にあって、驚いて後退りする。


「さて、では、君の上司が知りたいことを、君にひとつ教えた、もう一つ、重要な情報だ。」


「おのれ…甘く見おって・・・帝国の力を侮ると、後悔することになるぞ!」


「道具は・・・手段に過ぎないよ。大事なのは、使い手だ。君なら棒切れでも倒せる。」


ホールズが、いきなり足でピーンハリの顎をガツン!と蹴っ飛ばす!


ガ!


歯の折れる感触を感じながら、ピーンハリは血しぶきと共に後ろに倒れる。


「私はね、こう見えてそんな紳士でもない。さあ、答えてもらおう。玉はひとつ、君たちの手元にあるね?」


「わたしはそのような情報を知らされていない!」


事実だった。ピーンハリは玉のことなど思い当たる節もないのだ。ただ、漠然と、アメジストから聞き及んでいるに過ぎない。アメジストでさえ、そうなのだから。


「君達が困っていることは、このトールドーン星系の皆既軌道や、複雑な引力の相互関係だね?どんな優秀な科学者も、それには大変頭を悩ませている、何故ならそれはとても変則的だからだ。」


ピーンハリにこの話は漸く理解できた。そうだ、アメジストグロッサが唯一頭を悩ませているのがこの星系の複雑な軌道と引力関係である。これがどんなコンピューターに計算させても何故か明瞭にならないため、瞬間移動や、宇宙内での遠距離の攻撃が妨げられ、時間差での侵略に歯止めをかけているのである。


SF小説「宇宙惑星物語」

「僕と、もう一人だけ、それを計算し、明らかにすることができる。」


「何故そんなことを私に教える?何の意図があって?」


「わたしか、その科学者を捕獲すれば、君たちの仕事は捗るだろう。しかし、僕はそうそう簡単に捕まらない。だとすれば、もう一人の老人が狙いやすい。」


「成程、お前がカギを握っているというわけか」


ピーンハリが笑う。


「そうとも。言っておくが、君たちごときが、100年かかってもそれは計算できないだろう。あることに気づかなければ。まあ、僕かその老人を拷問にかけて白状させるしか、方法はないね。」


「誰だ?その老人とは?」


「さあ、君の帰る場所に、帰りたまえ。但し、彼が無事に返してくれればの話だが・・・・」


「何?」


ピーンハリが後ろを振り向くと、その通路の奥に、あの、島の青年と黒い大きな犬が現れた。


「よう、久しぶりだな、白い顔のお兄さんよ。」





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