栄養学の話⑤です。

前回:栄養素の基礎知識〜炭水化物(糖質)〜

今回は「脂質」についての話です。

油と聞くと、スポーツをしている人には

天敵と思う方もいるかもしれません。

 

しかし実際は、体を構成する重要な栄養素の一つです。

脂質の役割、適切な摂取方法などを紹介していきます。

 

脂質の働き

脂質は体内で酸化を受け、

1g当たり9Kcalのエネルギーを生じます。

糖質やたんぱく質が1g当たり4Kcalである点と比べると、

脂質のエネルギー量は倍以上あります。

そのため、同じ量のエネルギーを得るのに

食物の摂取量を減らせるため、胃への負担を軽減できます。

 

また、脂肪(トリアシルグリセロール)は

貯蔵効果の高いエネルギー源でもあり、

使われなかった分は皮下や腹腔内に蓄えられます。

 

一般に脂質と言えば、肥満や糖尿病、

メタボリックシンドロームなどの要因として

悪い印象があると思います。

しかし実際は、

生命活動に欠かせない重要な役割を担っている栄養素です。

★脂質の役割

・内臓を守るクッション

・細胞壁や細胞核を包む核膜の材料

・体温調節

・脳神経組織を作る材料

ホルモンの材料(副腎皮質ホルモン・性ホルモン)

 

脂質代謝に必要な栄養素

ビタミンB2

脂質だけでなく、糖質やたんぱく質など多くの栄養素の代謝に不可欠なビタミンです。

特に脂質の代謝には重要で、過酸化脂質の分解を促す作用があります。

他にも、抗酸化作用によって細胞の老化を防いだり、皮膚や粘膜を正常に維持する働きもあります。

〜ビタミンB2が豊富な食品〜

 

パントテン酸

様々な食材に含まれている水溶性ビタミンで、

体内で非常に多くの反応の補酵素として働いています。

特に、

ビタミンB2とともに脂質の代謝に深く関わっています。

 

調理の一工夫

消化しやすいようにと合わせて摂る

酢に含まれる酢酸は、

胃壁を刺激して胃液分泌を促し、消化を助けてくれます。

脂質は消化スピードが遅いため、

胃もたれや消化不良を招くことがあります。

そのため、脂質を含む料理には酢を使ったり、

料理の前に酢の物などを食べたりすると

消化が楽になります。

 

脂質と上手に付き合おう

脂質は糖質と同じく、

ランニング時のエネルギー源として

重要なカギを握っています。

早いスピードで走るときは糖質が

主要なエネルギー源になります。

一方、歩行やジョギングなどで

ゆっくり運動するときは、脂質を使う割合が多くなります。

前述のように、

脂質は糖質の倍以上のエネルギー量があるため、

効率の良いエネルギー源であると言えます。

※脂肪1kgのエネルギー源は、

 約7,000Kcalとされています。

 

脂肪は体内で、

脂肪組織に中性脂肪として貯蔵されています。

体重を軽くしようと脂質を控えるランナーがいますが、

これはエネルギー不足を引き起こすため危険な行為です。

 

最低限必要な脂質は確保しましょう。

 

脂質がもたらす胃滞留時間の延長

脂質は胃での消化作用を抑制する作用があり、

胃に滞留する時間が長くなります。

これによって、長時間空腹を感じさせません。

同じエネルギー量を摂取しても空腹感が違うのは、

食品や料理に含まれている脂質の量が影響するためです。

 

脂質の分類

脂質は大きく分けて

「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」に分類されます。

①.飽和脂肪酸

常温で固体酸化しにくいという特徴があり、

主に肉類乳製品などの動物性脂肪に含まれています。

②.不飽和脂肪酸

常温で液体酸化しやすいという特徴があります。

植物油魚油に多く含まれ、

その中でも「一価不飽和脂肪酸」

「多価不飽和脂肪酸」に分類されます。

・一価不飽和脂肪酸

オメガ9系脂肪酸があり、

オレイン酸が主な脂肪酸として挙げられます。

・多価不飽和脂肪酸

必須脂肪酸と呼ばれ、

オメガ6系脂肪酸オメガ3系脂肪酸に分類されます。

体内で合成できないため、

食事からの摂取が必要な脂肪酸であると言えます。

 

ランナーなら知っておきたい油の摂り方

カラダの炎症をコントロールし、

全身の細胞をコントロールするためには、

良質な脂肪酸の摂取が必要不可欠です。

毎日の食事の質をできる限り高めるには、

次のポイントを抑えましょう。

低飽和脂肪酸

飽和脂肪酸の過剰に繋がる油を控える

飽和脂肪酸は、動物性と植物性どちらの食品でも

過剰摂取に繋がる危険性があります。

★特徴:酸化されにくい・常温で固体のものが多い

 主な飽和脂肪酸:ラウリン酸・ミリスチン酸

         パルミチン酸・ステアリン酸

動物性

肉の脂身・ラード(豚脂)

ヘット(牛脂)・バターなど

植物性

ココナッツ油・パーム油など

特に注意が必要なのは植物性食品で、動物性油脂と同等、

あるいはそれ以上の飽和脂肪酸が含まれています。

特に、パーム油は加工食品に利用されており、

知らない間に過剰摂取に繋がる危険性があります。

飽和脂肪酸もカラダの炎症を増大させるため、

これらの油の摂取には注意が必要です。

 

加熱に強い油を選ぼう

オレイン酸=オメガ9(n-9)系脂肪酸

★特徴:常温で固体・一価不飽和脂肪酸

 主なオメガ9(n-9)系の脂肪酸

    オレイン酸・エイコセン酸

オメガ3やオメガ6と異なり、

体内で合成できる脂肪酸です。

他の脂肪酸と異なり、食品からの摂取が必須ではないため、摂りすぎる心配が少ないとされています。

常温では液体で、高温でも変性しにくいため、

オレイン酸の豊富な油は加熱調理に適しています。

 

オメガ9系脂肪酸の役割

血中の善玉コレステロール量はそのままで、

悪玉コレステロール量だけを下げると言われています。

オメガ9系脂肪酸が含まれる油の代表はオリーブオイルで、近年では減量が品種改良された

べに花油・なたね油が流通しています。

油を選ぶときのポイント

・農薬の心配がないもの

・遺伝子組み換えでないもの

・遮光容器

・コールドプレス抽出のもの

・化学溶剤不使用のもの

・できるだけ小容器

 

低オメガ6

★特徴:多価不飽和脂肪酸・必須脂肪酸・常温で液体

 主なオメガ6(n-6)系脂肪酸

    リノール酸・アラキドン酸

現代人の食事では

オメガ6過多・オメガ3過少の傾向が強く、

生体内でのバランスも大きく乱れています。

その要因は、

オメガ6の中でもリノール酸を多く含む植物油です。

例:ゴマ油・コーン油・大豆油・綿実油・サラダ油など

市販されている油の大半が、高リノール酸油に該当します。

オメガ3の摂取量を増やすことは大切ですが、

オメガ6の摂取量が増えていないか

見直すことも大切です。

 

高オメガ3

オメガ3系脂肪酸

★特徴:多価不飽和脂肪酸・必須脂肪酸・常温で液体

 主なオメガ3(n-3)系脂肪酸

    α−リノレン酸・EPA・DHA

 

痛みや炎症を抑える効果があり、

オメガ3系脂肪酸が筋膜に蓄えられると、

柔軟性が増して負荷耐性が強くなります。

 

代表的なオメガ3系脂肪酸はα−リノレン酸で、

体内で生成できない必須脂肪酸の一つです。

α−リノレン酸は体内に入った後、

代謝されてEPADHAとなります。

〜オメガ3系脂肪酸が豊富な食品〜

植物油

えごま油・亜麻仁油(アマニ油)

青魚・・・イワシ・サバなど

 →EPA(エイコサペンタエン酸)

  DHA(ドコサヘキサエン酸)

穀物

クルミ

 

ランニングのパフォーマンスを上げるには、

ミトコンドリアの活発化が大切です。

体内でエネルギーを産生する

ミトコンドリアが活発になることで、

より多くのエネルギーが産生できます。

オメガ3系脂肪酸には、

ミトコンドリアの機能を向上させることが

報告されています。

 

また、オメガ3系脂肪酸には抗酸化作用があるため、

運動パフォーマンスを低下させる

活性酸素の発生を抑制します。

そのため、長時間走るランナーは

積極的に摂りたい脂肪酸です。

 

〜必須脂肪酸(オメガ3とオメガ6)の摂り方〜

オメガ3とオメガ6には拮抗作用があります。

①.細胞膜の硬さ

オメガ3は細胞膜を柔らかくするのに対して、

オメガ6は細胞膜を硬くします。

現代人はオメガ6過多・オメガ3過少の傾向にあるため、

細胞膜が硬く、細胞間での栄養素や老廃物のやり取りが

スムーズにできていない可能性があります。

②.アレルギー反応

オメガ3はアレルギーを抑制し、

オメガ6はアレルギーを促進します。

 

オメガ3とオメガ6のバランス

脂肪酸

オメガ3

オメガ6

理想

(3〜4g/日)

1〜4

現代

10〜50

現代人は圧倒的にオメガ6の摂取量が多いため、

オメガ3を積極的に摂取し、

オメガ6を控えるようにするのが理想です。

ここで注意が必要なのは、

オメガ3は加熱による酸化に弱い点です。

青魚で摂取するなら生食を、

植物油は冷蔵保存して短期間で使い切るのが望ましいです。

 

トランス脂肪酸ゼロ

トランス脂肪酸の高リスク食材を避ける

トランス脂肪酸はオメガ3やオメガ6の働きを阻害し、

細胞を蝕むとされています。

世界では規制が厳しくなっていますが、

日本では食品表示さえ義務づけられていません。

そのため、

日常生活に潜んでいる悪い脂質と言えるでしょう。

 

世界保健機構(WHO)では、1日当たりの摂取量を、

摂取する総カロリーの1%未満にするよう提言し、

いずれは世界からトランス脂肪酸を取り除くことを

目標にしています。

 

トランス脂肪酸が含まれているもの

・マーガリン

・ショートニング

「ファットスプレッド」 「加工油脂」 「植物油脂」

 →コンビニスイーツ・パン・焼き菓子・スナック菓子など

 

購入するときには必ず表示を確認し、

できる限り避けましょう!!

 

トランス脂肪酸の生成

トランス脂肪酸には、

大きく分けて生成される方法が2通りあります。

①.自然生成されるもの

牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、

胃の中の微生物の働きによって、

トランス脂肪酸が作られます。

含まれる食品:牛肉・羊肉・牛乳その他乳製品など

②.油脂の加工・精製によってできるもの

常飲では液体状の植物油や魚油から、

半固体もしくは固体の油脂を製造する

水素添加」の途中で生成されます。

・水素添加によって製造される食品

 →マーガリン・ファットスプレッド・ショートニングなど

・上記を原材料に使用した食品

 →パン・ケーキ・ドーナツ・揚げ物など

 

脂質と一口に言っても、種類が多く何を選べば良いのか

分からない人が多いと思います。

まずは、コンビニなどのお弁当やお惣菜を選ぶ際に、

使用されている材料を確認する習慣をつけてみましょう。

 

できあがった食品を買うときに、

悪い食材を100%避けることは不可能だと思います。

「必ず避ける」のではなく、

「できるだけ摂る量を減らしていく」

この意識を頭の片隅に置いて、

日頃の食事を考えてみるのがオススメの方法です。

第6回:栄養素の基礎知識〜たんぱく質〜

 


 

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