第67回角川短歌賞応募作50首詠  「青春を生きたあなた」【第6章】 | わたる風よりにほふマルボロ

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現代短歌新聞2021年4月号

作品掲載

 

new「源氏で紡ぐ和歌便り」

2021年10月分掲載new

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第67回角川短歌賞応募作 

50首詠
「青春を生きたあなた」

 

梶間和歌

 

 

作品全編:

 【第1章】

 

これまでの解説:

 【第2章】

 【第3章】

 【第4章】

 【第5章】

 

 

 

どう考えても

傷が癒えているとはいえない

高校時代の空手道に関わる

事柄を

過去の(そして現在の)私が

歌に扱った場合、

 

それは、私が日ごろ

「やめろ」と言っている

 

オナニーの道具として

歌を利用する行為

 

になる可能性が高かった。

 

 

私は和歌を愛している。

そんな失礼で、かつみっともない

行為は選べない。

 

であれば、空手道について

歌に扱うことはしない。

扱いたいとも思わないわけですし。

 

 

という前提で私は

長らく歌に取り組んできました。

 

 

 

そうして【第2章】の話に戻ります。

 

 

昨年4月、

角川短歌賞のための

50首詠として

『SLAM DUNK』連作を練り、

それを親しい先輩に見せました。

 

 

先輩に

「歌を厳選したほうがいい」

と言われ、構成を考え直した時、

 

まず浮かんだのが

最終的に選択した構成です。

つまり、

 

三井寿と

現在の作中主体と

過去の作中主体と

の視点を行き来する形。

 

 

その3点目の視点を入れる

と考えた時、

 

経験のないスポーツや

スポーツ以外の

――音楽でも絵画でも

 何でもよいのですが――

そうしたジャンルを

設定に用いるには、

いろいろと無理がありました。

 

 

 

なぜ三井寿で45首

(実際にはそれ以上ですが、

 改変前の連作では45首)

詠めたのかといえば、


井上雄彦先生が

バスケットに取り組む三井寿を

もうありありと、じゅうぶんに

描いてくれていたからです。

 

だから、私がその気になれば

簡単に憑依できる。

成り代わりできるのです。

 

そして、彼には

私がその気になりやすい

私自身との親和性があった。

 

そのうえで歌を磨くことには

努力が要りますが、

彼に成り代わること自体は

私にとり大変ではありません。

 

 

しかしながら、

 

締め切り前のラスト1ヶ月半で、

もうひとつ別の何かに

全身全霊で取り組んだ

成り代わり対象を

三井寿以外に設定するには、

 

私の人生経験や

読書、映画視聴などでの

他者の人生の疑似体験が

足りませんでした。

 

 

 

なので、

 

傷の癒えきっていない

自分自身の体験を使って

オナニーにならない仕上がりに

1ヶ月半で持っていくこと

 

のほうに賭けることにしました。

 

 

つまり、

 

それによって負った傷は

まったく癒えていないながら

その傷や出来事に

心理的距離を置き、

 

傷を表現する道具として

歌を用いるのではなく

 

傷を用いて良い歌を詠む、

傷を道具として歌を詠む、

 

という営みのできる自分であれ、

仮にいまできなくとも

この1ヶ月半でそうなれ、

 

と強いたわけです。

 

 

無茶苦茶だわ。笑

 

 

 

歌人としてだけでなく

和歌、短歌指導もする人間として

のプライドもかかっているので、

ふだん以上に死に物狂いでした。

 

「あんな偉そうな事言いながら

 自分ではやっちまってんじゃん」

などと、誰にも

言わせたくありませんでしたから。

 

 

わかりやすい評価でも

権威による承認でも

稼いだ金額でも

確固たる肩書きでもない、

 

雑音は

作品で黙らせる。

 

それが梶間和歌。

 

 

 

あの1ヶ月半の記憶は

ほとんどありません。

 

 

そうして出来上がったものを

7ヶ月後のいま読み返し、

 

少なくとも

人に見せて恥ずかしくない出来

にまでは磨き上げられたか、

と思います。

 

 

人は、こうして

已むに已まれぬ状況に

追い込まれて初めて

それまでしなかった成長を

するものなのでしょうか。

 

 

 

次回作の意欲はあるものの

予定はありません。

 

そこは、ゆるりと。ご期待ください。

 

 

 

ちなみに、

私が筆名に用いている

梶間という名は

 

亡くなった空手道の師範の

それです。

 

 

そういうことです。

 

 

 

「青春を生きたあなた」

梶間和歌

 

白湯をもて偽薬飲み込み身を起こすけだるきあさも安全靴(アングツ)を履く

男ではないをんなにもなりきれずひとつにくゝるぬばたまの髪

二四〇〇ミリメートル(ニイヨン)のポール三本担ぎ上げ三秒ごとに締めなほす股

重力と遠心力を引き連れて六尺脚立(ロクシャク)を降り又駆け上がる

片脚でバランスを取るいつまでも宙ぶらりんのいきものとして

ゆりかもめヽトロに揺られイヤホンし中田敦彦目を閉ぢてきく

冷静になる瞬間を避けつべし乗り過ごさない永田町駅

おとにきくバスケ漫画の熱演にかへらぬ時を思ひこそやれ

たつたひとりのためにたゝかふひとを知りあゝうちなびく我が恋ごゝろ

     ✽

追ひきれぬ球を抱へたあの人の瞳がじつとオレを見つめる

諦めちやいけないラスト十二秒晴れない雲はオレの手ゞ割る

汗が目に口に、構ふな球を奪へ試合(ゲーム)終了の笛の鳴るまで

何十万何百万と打つてきた腕、膝すべての記憶を信ず

スターには勝利が似合ふ武石中(たけいし)に三井寿(ひさし)はありと知れかし

     ✽

こめかみに馴るゝポールのつめたさよあたしはこゝにゐてもいゝのか

重さより滞空時間割り出せば持ち手を替へて担ぐ六尺脚立(ロクシャク)

メートル(メーター)パラビーム(パラ)飛ばすため人を呼ぶなどすべきかは爪先で立つ

地上より身軽な場所に見はるかしもとより肉体を持つ不自由

     ✽

喜びの瞬間引き受けねばならずそれをうしなふかもしれぬ明日

あの男デカいだけだと息を()くオレの弱さをオレは知らない

スターにはいゝハンデだと膝を撫でチームメイトに微笑みを投ぐ

一番でなくちやいけないオレのため朝な夕なに抜ける病室

この(ゆか)の冷たさを知る奪つたはずのパスが木暮(こぐれ)に渡るおとして

     ✽

鷺足立(さぎだ)ちに左内腿あをみたり右、定位置に手刀(しゆたう)を払ふ

この(かた)相応(ふさ)ふと言はれそれだけを頼みひと日に打つ二十回

わづか一、二秒のために削ぎてゆく想念 あたし以外見ないで

じふねんを二年に縮めうつくしさ若さ将来みな差し出した

いはけなやピルも知らずてスポブラもせで駆け抜けたゝまぼこの果て

ひと息に露は砕けてな捨てそと言ひしその後を覚えてゐない

二度と(ひら)かれぬ箪笥に帯は眠るじふねん分の汗にしをれて

あの人のゐない世界に生ひ初めて葛に裏見の風遥かなり

     ✽

ほんたうに怖かつたのはあの人の心のうちのオレの大きさ

注目を集めることに馴れ果てたオレの知らないこれは世界だ

騒がしいはずの体育館を去り松葉杖つくおとのみぞする

何に耐へられなかつたのか問ひなほす強さを持たぬスーパースター

     ✽

内腿を蹴り上ぐることせずなりて癒えかつ増ゆる傷にあをあざ

ペディキュアを欠ゝさぬ爪も小指だけはつぶれてひさしさはれ世のなか

片膝にからだを支へ腕を伸べ男以上のはたらきをせよ

手探りの逆手(さかて)にロック締め上げつまなじり濡らす夏のたまみづ

男には勝てず勝つ必要もなし脚立のうへに風ぞすゞしき

     ✽

血にまみれ体育館に立ち尽くすかそけき声が心臓を()

「私だ……開けて下さい」そのこゑを忘れた日などほんたうはない

「おや」と言ふあなた、時間が巻き戻る晴れない雲を割つたあの日に

追ひきれぬ球を抱へたあのときとおなじ瞳にオレを見ないで

膝から崩れ落ちた涙があふれてた安西先生バスケがしたい

     ✽

遥かむかし死んだあたしのとぶらひに何十回もこゝだけを読む

あたしにも「安西」がゐてあたしにも「バスケ」があつた 月かたぶきぬ

あたしには戻つてこない青春を生きたあなたにすこしだけ妬く

泣き崩れるには強すぎたあの(ころ)もいまも見えない山の端の月

腹痛はなき四日目のしのゝめのそらに図面を描きつゝ行け

 

 

 

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