第63回短歌研究新人賞応募作30首詠  「君を産まない」【後編】 | わたる風よりにほふマルボロ

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第63回短歌研究新人賞応募作 

30首詠
「君を産まない」

 

梶間和歌

 

 

作品紹介は【前編】

解説の前半は【中編】を。

 

 

 

さて、今回のイミフ発言を

反面教師として確認したいのは

こちら。

 

 

・歌の作中主体と作者が

 同一であるとは限らない。

 作中主体が女性であるから

 といって

 作者が女性である

 と思い込み読んではいけない。

 

・男性は詠んでよくて

 女性は詠むべきでない

 歌題や詠み口など

 あるはずがないし、

 あってはならない。

 

・歌の評に

 倫理を持ち込むべきではない。

 

 

私の読者さんたちには

とりあえずこの3点だけ

押さえておいていただけたら

と思います。

 

 

 

歌の評に倫理を持ち込むことが

仮に許されるのだとしたら、

 

皆さんが心打たれてきた

有名な恋歌のほとんどは

不倫の歌として糾弾されるべし、

ということになりますよ。

 

 

 

 

一夫多妻多妾が

事実上OKになっていただけで、

平安時代にも重婚を禁止する

律令は

(形だけは)ありましたからね。

 

その法を厳密に適用して

自分もあいつも首の締まる

社会の実現

を誰も望まなかっただけで。

 

 

 

同時に、“恋歌”を考えるうえで

こちらも大切な事です。

 

親のお膳立てした

あちらにもこちらにも

メリットのある“結婚”“婚姻”に

“恋”や“純愛”が

生まれにくいのは当然である、

という点が。

 

 

 

紫上が光源氏の正妻格の

存在になることに

当時の読者が沸いた理由は、

 

それが誰にもメリットのない

結婚だったから、です。

 

ほかの、より正妻ポジションに

ふさわしい女性たちは、

物語上のある時点までは

いましたからね。

 

しかし、

正妻ポジションに就いたのは

より有利な女性たちではなく

孤児同然の紫上だった。

 

(これは女三宮がまだ物語に

 登場していない時点の話です。

 恐らく作者の脳にも彼女は

 まだ存在していなかったでしょう)

 

 

メリットがないのに結婚した、

ということは

その動機は純である、

その関係性は純愛である、

純愛としか考えられない、

 

と想定できたということ。

 

現代の少女たちが

ディズニープリンセスに

見るような夢が、

紫上に投影されたのですね。

 

(実際には光源氏のエゴという

 全然純でない動機が

 大いに働いていましたが、

 そこまで読み取る読者ばかりでは

 なかったでしょう、当時も)

 

 

 

当時の(形式上の)法で考えても

不倫に当たらない、

正式な婚姻をした相手

と交わされた恋歌に

心を打つ恋歌の例がない、

 

とはさすがに言いません。

 

言いませんが、

そのうちのそれなりの数は

 

その婚姻関係が

終わりそうだったり

相手が死にそうだったり

正式な婚姻をする前の

略奪婚のころに交わされた

恋歌だったりしますでしょう。

 

 

美福門院加賀の離婚の成立の

あとなのか前なのか

微妙な時期に

俊成が加賀と交わした

熱烈な恋歌は、

 

あれはのちのちふたりが

正式に結婚したから

「正式な婚姻をしたふたりの歌」

と解釈されかねないだけで、

 

あの歌のやり取りをした時点で

そうであった

とは言えないでしょう。

 

 

心を打つ恋歌は、基本的に

法律にも倫理にも

のっとっていない関係性から

こそ生まれ、成り立つものです。

 

 

江戸時代の一部の学者と

今回のそのBAKAは

日本の和歌史全体に

壮大な喧嘩を売っている自覚を

お持ちなのか、どうか。

 

嘆かわしいことです。

 

 

まあ、江戸時代の学者は時代に、

今回の人は無知に縛られて

そういう行動を

取ってしまったわけなので、

 

その人格がどうこうとか

言うつもりはありませんよ。

 

ただただ、

自分を縛るものに対して

自覚的であろうとする努力は

怠りたくないですね、

とは思います。
 

 

 

ともあれ、確か2014年から

一度も欠かさず応募してきた

短歌研究新人賞は、

今回が最後です。

 

この先は角川、歌壇賞、

それに新人賞ではないものの

取っておくと有利な

いくつかの賞に絞って

応募を続けます。

 

引き続き

応援よろしくお願いいたします。

 

 

 

「君を産まない」

梶間和歌

 

下腹に鈍痛、さはれ息()けばけふよりくるしスキニーの腰

紅引きつ月に四日はをんなゝり脚立の()にも地組(ぢぐ)みのときも

血を流すわづらはしさに毛先のみリバースに巻くていねいに巻く

パシフィコもビッグ、メッセも波ちかしその香を強みあくがるゝなり

晴れた日も雨でも暗い(くら)く見ゆ搬入(こう)のおくの海原

靴ひもを結ひなほしつゝメンツから割り出してゆくけふの立ち位置

買ひ替へたラチェットレンチ(ラチェ)のグリップ馴染まずてチーフ(アタマ)がをんなでもうまくやる

もう決して子を宿さないサチさんの腹を見つめることはしないで

くちびるを噛まぬやうにと朝引きし紅あとかたもなき女子トイレ

サチさんのそれと異なる意味を持つこれはあなたのくれた痛みか

「GO」を待つあひだ五尺脚立(ゴシャク)に倚りかゝりラチェを先端(ビット)で回す夕暮れ

偽薬飲む日もラチェットをたづさへて脚立にをどる身の軽らかさ

ほんたうは立つべからざる天板(てんばん)を踏みて男と対等になる

右あなうら、左のふくらはぎをもて体を支ふなにをさゝふる

右手(めて)伸べてロックをはづすたびに思ふビットのナメを(らん)の寿命を

制約のなかの自由だ三十一文字(みそひともじ)ヽステム部材をんなのからだ

吐きゝつた月経血を流し終へ息をゝさめて()く腰袋

巻き上げたストレッチフィルム(ラップ)(やぶ)るつゝがなく終へたるけふの祝福として

子が熱を出して早退するやうなをんなのゐない職場を愛す

まづ産まぬつもりのあたしまづ産めぬサチさんを()くあなた 潮騒

あの人の下腹もまだ痛むのかビッグサイトの波は荒れない

我れのより先に消ゆべき痛みなりでもとこしへにをんなゝるべし

かならずと心惹かるゝ(よる)の海の聞こえぬ波をきくかへりみち

あたしより若くきれいな子にあらばそよ玉ゆらの橘の花

安全靴(アングツ)も脚立も我れの脚ぢやない子宮はあれどをんなではない

六角レンチ(ロッカク)もラチェも使はでけふなにをした、産みたいと思ふ我れなら

さりや我が子宮は海に置いてきたきつとくらげの子を()いてゐる

その子らは母をしらなみよるの底ふかくらがりに()らむしづけさ

寄せかへる波にとられて足はなほ脚立を踏み締めむとしてゐる

ぺつたんこの腹に触れたりくらげの子来む世も我れは君を産まない

 

 

 

いつも応援、

また金銭的なご支援も

本当にありがとうございます。

 

再来月に

引っ越しも控えているので

ご支援が本当に心強いです。

 

それぞれの及ばぬ高き姿を

それぞれの役割とペースで

追ってゆきましょうね。

 

 

いっそう和歌仕事に

集中できるよう、引き続き応援

よろしくお願いいたします。

 

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それでは、またね。

 

 

この記事の

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