渡辺プロ・ジャニーズ帝国 VS 阿久悠・秋元康:アイドルをめぐる攻防 | 平山朝治のブログ

平山朝治のブログ

ブログの説明を入力します。

    ジャニー喜多川         阿久悠

 

はじめに

ジャニーズは1980年代以降、日本のメジャーな男性アイドルをほぼ独占的に供給しつづけてきたが、アイドルを見出し、デビューさせる過程を独占していたジャニー喜多川による性加害を伴うものだったことがはっきりしてきた。それに対して、1970年代以降、日本の女性アイドルは日本テレビのスター誕生!(紅白に出場した出身女性アイドルは1971年第1回決戦大会チャンピオンの森昌子、1972年第4回チャンピオンの桜田淳子、同年第5回合格の山口百恵、1973年第8回合格の伊藤咲子、1974年第11回チャンピオンの岩崎宏美、1976年第16回合格のピンクレディ、1977年第20回合格の石野真子、1979年第29回チャンピオンの柏原芳恵、1981年第35回合格の小泉今日子、同年第38回合格の中森明菜)、集英社の雑誌とCBS・ソニーのミス・セブンティーン・コンテスト(松田聖子が九州地区大会優勝)、フジテレビの夕やけニャンニャン(おニャン子クラブ)など、大手マスコミが公募するオーディションを行い、デビューまでのプロセスもほぼ公開されていた※。夕焼けニャンニャンを企画した秋元康が2000年代になって手がけた、AKB48や乃木坂46をはじめとする女性アイドルグループも、公募オーディションを行い、選抜総選挙やメンバーごとのシングル発売イベント参加券つきCDの売り上げなど、ファンによる人気投票がグループ内でのセンターや表題曲選抜メンバーなどのメンバーの地位を大きく左右するようなシステムとなっており、スター誕生!以来の公開性と透明性を受け継いできた。

※スター誕生!は男女を差別せずに募集、審査したが、男性アイドルとしてかなり成功したのは1973年第7回合格の城みちる、1975年第14回チャンピオンの新沼謙治と1977年第20回チャンピオンの渋谷鉄平(石野真子も同回合格)くらいだろう。そのなかで紅白に出場したのは新沼賢治のみである。

 

ジャニーの性加害を伴うタレント育成システムは、芸能プロダクションのなかで独占的な地位を占めた渡辺プロが開発してきた、タレントの人権を蹂躙するシステムに由来するものであり、渡辺プロの歴史を紐解かないかぎり、渡辺プロのタレント独占を打破しようと企画されたスター誕生!(「『スター誕生!』が着火した日テレ・ナベプロ戦争と芸能クーデター」『FRIDAY DIGITAL』2022年11月09日、

)の公開性・透明性が女性アイドルでは支配的となったが、男性アイドルはジャニーズが渡邊プロ方式を引き継いで旧態依然たる帝国支配を長年続けてきたという、アイドル史の大きな流れをとらえることはできない。

 

渡辺プロの黒歴史を暴いた竹中労『タレント帝国 : 芸能プロの内幕』現代書房、1968年は、「ナベプロ帝国批判を問題視した渡辺プロが買い占め、稀覯本となったが、そのことで逆に戦後日本芸能史の基礎文献として歴史に残っている」(更科 修一郎)。ジャニーの性加害の背景として、スター誕生!がはじまるころまでの渡辺プロの実態を、同書によって確認しておこう。なお、稀覯本だが、現在では国会図書館デジタルコレクションで公開されている(http://www.doi.org/10.11501/2517588 )。以下、同コレクションのスクリーンショットを引用しつつ、渡辺プロがジャニーによる性加害システムの淵源・揺籃の地であることをみてみたい。

 

1. 60年代の渡辺プロ

まず、同書の最初の章である「芸能プロとは何か」を見よう。

(14-5頁)

 

(16-7頁)

 

(21-2頁)

 

(24頁)

 

(27-8頁)

 

(29頁)

 

(32-3頁)

 

以上によれば、戦前に比べて戦後の芸能界においては芸能プロの人権侵害・犯罪的行為・不法行為(金銭的搾取、義務教育を受けさせない、枕営業をさせるなど)が著しくなったが、そのなかでも、渡辺プロは最も悪質であり、初代ジャニーズに対する性加害もその文脈において位置付けられている。

 

2.ジャニーの性加害を隠蔽・擁護した渡辺プロ

次に、同書の「ジャニーズ解散・始末記」を見てみよう。

(247-9頁)

 

(249-51頁)

 

(252-8頁)

 

以上から次のことが読み取れる。1962年、(初代)ジャニーズの少年4人は渡辺プロ(ナベ・プロ)に身柄を預けられ、仕事は渡辺プロからもらい、所属は名和新芸術学院(名和太郎が学院長)となった。あおい輝彦が性被害を訴えたが名和太郎の妻・真砂みどりは「ふざけたんでしょう」と取り合わなかったところ、6月に名和芸術学院の少年Kがジャニーに接吻されたと訴え、学院で小学生から高校生まで14人も被害に遭っていたことがわかって名和がジャニーの姉のメリーに抗議すると、弟の性的嗜好を認めるに至り、名和はジャニーズに手を引かせることにした。ところが、姉弟や渡辺プロの工作の結果、ジャニーズの父母会で名和は逆にメリーに一切を任せるので手を引くように言われ、メリーはジャニーズを引き連れて渡辺プロに所属した。つまり、渡辺プロは性加害騒動を利用して名和からジャニーズを引き抜いた。

 

渡辺プロは虚偽を連発して虚像のタレント・ジャニーズを売り、名和は猥褻事件でジャニーを告訴したが、被害者の直接の訴えがなければ受理できないとされたため「立替金請求等」として告訴し、ジャニーの性加害は「等」と目立たない形で表現した。ジャニーズ以外の被害少年たちは性被害を証言し、秋本勇蔵は「勇気をふるって真実をいわなければ、と思いました」当時渡辺プロ系の東京音楽学院講師をしていた柴田は「自分も被害者だったなどと証言すれば、歌手としてのイメージが傷つくと思いました。でもやはり、本当のことをいわなければいけないと思いなおして、証言したんです」と述べた。最近ジャニーの性加害を告発した人々と同じようなことばが、60年代なかばにすでに法廷で被害者から語られていた。しかし、ジャニーズのメンバーは、かつて被害を訴えたあおいを含めて、被害を認めなかったため、ジャニーの性加害は"立証"されなかった。

 

渡辺プロはそれまでに蓄積してきた犯罪や不法行為の揉み消し手法を駆使して、ジャニーの性加害を揉み消した。

 

3.スター誕生!の意義

阿久悠は『夢を食った男たち:「スター誕生!」と歌謡曲黄金の70年代』文春文庫、2007年によれば、

 

要するに、外から見て、よく見えるようにしたいんだな。ガラスばりってことかな。(中略)夢の芸能界、憧れの芸能界というものがあるだろうが、反面、得体の知れないもの、油断のできないもの、理解を超えたもの、もっと悪く言うと、危ないもの、おぞましいものと思ってるんじゃないかな。(中略)だから、みんな見えるようにしたい。合格した人を、誰と誰が関心を持ち、誰がスカウトし、どういうトレーニングを受け、今どんな状態にあって、いつ世の中に出て行く予定があるのか、関わった人の顔が全国の人々にわかるようにしたいんだ。(52-3頁)

 

と企画会議で阿久が述べたように、渡辺プロのタレント供給独占とそれに伴うタレントに対する人権侵害の是正のため、公開性と透明性のあるタレント選抜・育成をめざしていた。スター誕生!が森昌子ら女子中高生を次々とトップアイドルとして送り出し、さまざまな芸能プロに所属させたのと並行して、渡辺プロの独占力は低下した。

 

おわりに

しかし、80年代のたのきんトリオ以降、ジャニーズが男性アイドルを独占的に供給するようになり、秘密裏に性加害を行って男性アイドルを世に出すという、渡辺プロ所属時代以来のシステムが男性アイドルにおいては持続可能なものとして確立した。

 

なぜ、女性アイドルと同様に男性アイドルにも公開性と透明性をもつ選抜・育成システムが定着せず、旧態依然たるシステムにすがりつくジャニーが無数の少年に性加害を行うことが可能になったのだろうか?

 

スター誕生!以降のアイドル・システムは、選抜・育成プロセスにファンが積極的に参加・関与することを特色としており、AKBの選抜総選挙も、運営による前田敦子ゴリ推しに批判・反発するファンを取り込むべく、ファンが投票でセンターや選抜メンバーを決める制度として、秋元康の発案で導入された。そのようなファンの積極性と対比すると、ジャニタレにおいては、ジャニーの寵愛を受けることが絶対であり、ファンはそのようなジャニーの専制的権力に甘んじている。男性が女性アイドル、女性が男性アイドルを推すと決まっているわけではないが、多数派は異性のファンであり、男性ファンは運営の権力を相対化しようとするのに対して、女性ファンは運営の決めたことに甘んじようとする傾向が強いということは、ジェンダー・ギャップの甚だしい日本社会においては否定できないだろう。

 

要するに、ジャニーは性加害という実像を巧妙に隠蔽し続けることによって、夢の世界を作り出す理想的な家父長として、女性が多いジャニオタに慕われることになる。そんな女性ファンの支持があってジャニタレも成功するので、女性アイドルの男性ファンとは異なって女性ファンの支持を得るためにも、ジャニタレはジャニーの権力に従順である必要がある。

 

阿久悠が中心となって出来上がったスター誕生!以降の日本における女性アイドルとジャニーズ系男性アイドルのあり方の根本的な違いの主な原因は、以上のようなものではなかろうか?

 

また、男の子が性加害の対象になるという認識がなかったため、マスコミはジャニーの性加害をまともにとりあげようとしなかったという議論があるが、60年代なかばの名和新芸術学院では14人も被害にあっていたことがわかって、ジャニーに手を引かせることにしたことを渡辺プロが利用して逆にメリー・ジャニー姉弟とジャニーズを引き抜き、性加害事件を揉み消した結果、男の子は性被害にあわないという誤った思い込みがマスコミを支配するようになったというのが実情ではなかろうか。

 

なぜなら、日本では武将や高僧が稚児をグルーミング・寵愛して仕えさせるという少年愛文化が長らく存続し、戦後も織田信長と森蘭丸や徳川家康と井伊直政(万千代)の間柄は歴史小説、映画、ドラマなどでよく知られていたのであり、武将でも高僧でもないジャニーがそれを真似ていることが事実でありうることは常識であるし、封建的身分制がなくなり、民主主義や人権の考え方が広まった戦後においては、そのようなことは許されないと誰もがジャニーを批判しえたはずだし、だからこそ渡辺プロやジャニーズはタレント・男性アイドルの独占的供給者という業界内の地位を利用して、性加害を揉み消し、隠蔽すべくマスコミに圧力をかけ続けてきたのだ。

 

カバー画像出所

左:ジャニー喜多川 

 

 

右:阿久悠