「アイロンがけされた女」の都市伝説 | スペイン語をめぐる諸々

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スペイン語が少し分かれば見たり聞いたり読んだりできることを漫然と集めてみます。

 メキシコシティで広まった都市伝説に、「アイロンがけされた女」(La Planchada)というものがある。そのタイトルだけを見ると、ちょっと日本の「口裂け女」を連想させる。だが、「口裂け女」のような陰惨な話ではない。

 

 「アイロンがけされた女」の本名は、エウレリアという。エウレリアさんは19世紀の人で、病院で看護婦として働いていたと言われる。彼女は背が高く、金髪碧眼で、非常に身だしなみが整っていたという。彼女の制服はいつもきちんと洗濯されていて真っ白で、しっかり糊づけされアイロンをかけられていて、皺一つなく完璧だった。アイロンがけされていたのは、実は彼女自身ではなく、彼女の制服だったわけだ。しかし「アイロンがけされた女」という通称は、彼女自身の人柄を表す比喩的な表現でもある。エウラリアさんは非常に品行方正で、看護師としての働きぶりもとても真面目で勤勉だったという。

 

 ところがエウラリアさんは、彼女が働く病院に来た新任の医師と恋に落ちてしまった。彼女は真面目な人だったので誠実に真剣に愛したのだが、相手の医師は不実な人物で、彼女には隠したまま他の看護婦と結婚してしまった。その事実を知ったエウレリアさんは、ショックのあまり鬱病になってしまったらしい。仕事を怠るようになり、それが原因で患者さんが何人か亡くなってしまった。そして彼女も失意のうちに死んでしまう。

 

 しかし患者を死なせてしまったことを悔やむエウレリアさんの魂は、死んでも成仏(?)できず、幽霊となってこの世をさ迷い続け、今も深夜の病院を徘徊し、看護が必要な患者さんを見つけると看護に当たるという。

 

 また、エウラリアさんの幽霊は、仕事を怠る看護師たちの監視、監督もしていると信じられている。たとえば、夜勤の看護師がつい居眠りをしていると、誰かにコツンと頭を叩かれる。はっと気づいて目をさますが、周囲には誰もいない。そういう場合、その看護師は、「アイロンがけされた女」が自分を起こしに来たのだと思うという。

 

 「アイロンがけされた女」の伝説の発祥地とされる病院を取材した、ニュースの動画を見てみよう。

 

 

 まず、アナウンサーの前置き。

 

- Las leyendas forman parte de nuestra cultura. Y "La Planchada" es una de las concidas por las personas que trabajan en los hospitales.
(―伝説は、私たちの文化の一部をなしています。そして「ラ・プランチャーダ(アイロンがけされた女)」は、病院で働く人々により知られている伝説の一つです。)
 

 次に看護師、ヴィルヒニアさんへのインタビュー。

 

"Nosotros tuvimos oportunidades de conocer esta historia a través de los pacientes."
(「この物語を、私たちは患者さんたちを通して知る機会を得ました」)

 

 「ラ・プランチャーダ」の伝説について、アナウンサーの解説。

 

- Esta leyenda data del siglo 19, y se cuenta que una enfermera llamada Eulalia se enamoró de un médico pasante. Pero que éste al abandonarla causó que descuiara a sus pacientes.
(―この伝説は、19世紀にまで遡ります。それによれば、エウラリアという看護婦が、インターンの医師に恋をしたそうです。しかしその医師は、彼女を捨て、彼女が患者たちに対して不注意になる原因を作りました。)

 

 もう一人の看護師、シルビアさんへのインタビュー。

 

"Ella se dió cuenta que este médico ya se había casado con otra persona. Supuestamente, como ella había descuidado su trabajo, los pacientes pues, si tenían dolor no les ponía sus medicamentos etc... Entonces después ya de muerta ella viene aplicarles medicamentos para el dolor, o pacientes que están solos ella se les aparece. 
(「彼女は、この医師が他の女性と結婚していたことに気づきました。それでたぶん彼女は、仕事にも患者さんにも気を配らなくなっていたので、患者さんが苦しんでいても薬を与えなかったりと、そんなことがいろいろとありました…… それで、もう死んでしまった後で、彼女は患者さんたちに鎮痛剤を投与しに来たり、彼らが一人きりでいるときに姿を現したりします」)

 

 アナウンサーの解説。

 

- El nombre de la Planchada se debe al uniforme muy almidonado que se utilizaba en esa época. Actualmente algunos trabajadores o pacientes han tenido alguna experencia con la Planchada.
(―「ラ・プランチャーダ」という名前は、その時代に使用されていた、非常に糊付けされた制服に由来します。現在、病院で働く人々や患者のうちには、ラ・プランチャーダについて何らかの体験をしたという人たちがいます。)

 

 再びヴィルヒニアさんへのインタビュー。

 

"Cuando llegabamos temprano a las 7 de la mañana ellos estaban un poquito inquietos en nuestras relaciones enfermería y paciente. Les investigábamos, les interrogabamos qué pasó con ellos, o porqué estaban inquietos. Y ellos decían, es que anoche vino una señorita muy bien presentada, alta, a veces presentaba con alguna lamparita."
(「私たちが朝早く、7時に来たとき、患者さんたちは少し落ち着きがなく、私たち看護師と患者さんたちの関係に緊張がありました。何が起こったのか、なぜ彼らに落ちつきがないのか、私たちは調べ、彼らに質問しました。すると患者さんたちは答えました。昨夜、背の高い、とても身だしなみの良いセニョリータがやって来たのだと。ときには何か小さなランプを持って姿を現したのだと」)
 

 アナウンサーの解説。

 

- De acuerdo con los relatos solo se presenta ante los pacientes que se encuentran delicados y que necesitan ayuda.
(―いくつかの報告によると、ラ・プランチャーダは、症状が重くなり助けを必要としている患者の前にだけ、姿を現します。)

 

 ヴィルヒニアさんの証言。

 

"Ella se aparece en momentos oportunos, en momentos en que el paciente necesita la asistencia de enfermería, pero siempre para ayudarlos, para ayudarlos y para escucharlos."
(「彼女は、ふさわしい場合にだけ、患者さんが看護師の看護を必要としている場合にだけ、姿を現します。でも、いつも彼らを助けるために現われます。彼らを助けるため、彼らの話を聞くために」

 

 アナウンサーの解説。

 

- Aunque esta leyenda tiene su orígen en el Hospital Juárez de la Ciudad de México, son muchas las personas que afirman que la Planchada se aparece en diversos centro de salud.
(―この伝説は、メキシコシティのフアレス病院に起源を持ちますが、しかし多くの人々が、ラ・プランチャーダはさまざまな医療施設に現われるということを認めています。)

 

 ヴィルヒニアさんの証言。

 

"Incluso hay compañeras enfermeras no solo esta institución hospitalaria sino en otras del sector salud dónde la han visto, y ellas le verfican. Anoche vino la Planchada. Porque yo la ví."
(「この病院の看護婦の同僚だけでなく、他の医療機関の看護婦たちも、やはり彼女を目撃しています。そして言うのです。昨夜、ラ・プランチャーダが来ましたと。なぜなら私は彼女を見ましたと」)

 

 アナウンサーによる締めくくり。

 

- Cuando las enfermeras no ponen atención necesaria a sus pacientes se dice que la Planchada las despierta con un pequeño golpe en la cabeza para que atiendan a sus enfermos con diligencia y amabilidad.
(―看護婦たちが患者に必要な配慮を払っていないときには、ラ・プランチャーダが、頭を軽く叩いて看護婦たちを目覚めさせると言われています。彼女らが勤勉さと親切さを持って、患者の世話をするようにと。)

 

 この都市伝説は怪談というよりも、むしろ古来より無数に語り続けられている、救済者伝説の一例だろうと思う。