サルピコンの作り方 | スペイン語をめぐる諸々

スペイン語をめぐる諸々

スペイン語が少し分かれば見たり聞いたり読んだりできることを漫然と集めてみます。

 サルピコン(salpicón)は、いわば牛肉のサラダの一種。鶏肉やシーフードのサルピコンもあるらしいが、サルピコンといえば普通は牛肉のサルピコンだろう。

 

 動画で作り方の一例を見てみよう。

 

 

1. Ingredientes (材料)

500gr DE FALDA DE RES (牛ばら肉、500g)
2 JITOMATES (トマト、2個)
1/2 CEBOLLA (玉ネギ、1/2個)
300gr DE QUESO PANELA (フレッシュチーズ、300g)
6 HOHAS DE LECHUGA ITARIANA (ロメインレタス、6枚)
2 CUCHARADAS DE ACEITE DE OLIVA (オリーブオイル、大さじ2)
1 CUCHARADA DE ORÉGANO (オレガノ、大さじ1)
SAL Y PIMIENTA AL GUSTO (好みの量の塩と胡椒)


2. Picar la cebolla en plumas, la lechuga, el jitomate y el queso.
(玉ネギを千切りにし、レタス、トマト、チーズを細かく切る。)

3. En una olla express cocer la carne, agregar la cebolla, y sal al gusto.
(圧力鍋に玉ネギと好みの量の塩を加え、肉を茹でる。)

4. Deshebrar la carne.
(肉をほぐす。)

5. En un recipiente mezclar la carne, el jitomate, la cebolla, la lechuga, el queso y condimentar.
(器に肉、トマト、玉ネギ、レタス、チーズを入れて混ぜ、(オリーブオイル、オレガノ、塩と胡椒で)味付けをする。)

6. Servir y acompañar  el sarpicón con tostadas.
(サルピコンにトスターダを添えて出す。)

 

 ちなみに我が家のサルピコンの場合は、レタスはロメインレタスではなく、普通のレタスをもっと大量に入れる。味つけにはビネガーも入れる。さらに缶詰の酢漬けのハラペーニョを刻んで加える。メキシコ風のサルピコンには、やはり酢漬けのハラペーニョは欠かせないだろう。さっぱりと食べやすく、かつボリュームもあり、夏ばて防止には打ってつけの一品だと思う。

 

 最後に蛇足だが、サルピコンという料理は、セルバンテス『ドン・キホーテ』の冒頭にも出てくる。

 『ドン・キホーテ』(会田由訳、ちくま文庫)、前篇、第一篇、第一章は、「名は思い出したくないが、ラ・マンチャのさる村に、さはど前のことでもない、槍かけに槍、古びた楯、痩せ馬に、早足の猟犬をそなえた、型のごとき一人の郷士が住んでいた。昼は羊肉より牛肉を余分につかった煮込み、たいがいの晩は昼の残り肉に玉ねぎを刻みこんだからしあえ、土曜日には塩豚の卵あえ、金曜日には扁豆、日曜日になると小鳩の一皿ぐらいは添えて、これで収入の四分の三が費えた。」という文章で始まるが、この文章の中の「昼の残り肉に玉ねぎを刻みこんだからしあえ」という文に対応する箇所は、原文では、"salpicón"というたった一語だ。(かなりの意訳だろうが、翻訳というものには、ときにはこんな力業もぜひ必要なのだと、深く頷かざるを得ない)。

 これで17世紀のスペインにも「サルピコン」なる料理があったことが分かる。もちろん当時のラ・マンチャ地方のサルピコンが、現代のメキシコのサルピコンとはかなり異なる料理であったとしても何ら不思議ではないが、会田先生の翻訳に従って解釈すれば、ドン・キホーテが食べていたサルピコンも牛肉を使った料理であったことは想像できる。もちろん羊肉も入っていた可能性は排除できないが。しかしこの郷士よりもさらに貧しい一般庶民は、牛肉だけのサルピコンを食していたのではあるまいかと想像してみることもできる。というのも当時のスペインでは、牛肉よりも羊肉のほうが高価だったのではないかと想像することが可能だと思えるからだ。

 なぜなら上に引用した文章では、ドン・キホーテの郷士という身分の割にはエンゲル係数が高そうな、経済的にあまり余裕のない暮らしぶりが描写されているが、そういうコンテクストの中で、もし牛肉が羊肉よりも高価だったら、「昼は羊肉より牛肉を余分につかった煮込み」とは書かないだろうと思えるからだ。

 こんなことをあれこれ想像してみると、サルピコンという料理にも、さらに親しみが涌いてくるような気がする。