おばあちゃんに全血輸血を施したのですから、それは重度の鉄欠乏性貧血だった、と想像できます。恐らく、ヘモグロビン値が4g/dl以下に低下していたのだろう、と想像します。
貧血が脳機能に支障を来す訳をお話します。
赤血球細胞は、生命維持に欠かせない役割を担っている。その役割とは、全身に酸素を配って生命を維持する、と云うのが仕事です。
赤血球細胞の中には、ヘモグロビンがびっしり詰まっていて、その中に呼吸で取り入れた酸素を肺で積み込んで、全身の細胞に酸素を配っています。配られた酸素は、使われて二酸化炭素に変換され、再び、それをヘモグロビンに積み込んで静脈から肺に戻る。人の体は、その作業を日夜、休まずに続けています。
この作業が人を生かせているのです。
しかし、貧血が酷くなると積み込める酸素が少なくなるのはご理解頂けると思いますが、そうなってしまうと、体の中は大騒ぎになります。( 苦しい! 酸素が欲しい~ ) この声は全身の細胞たちの訴えです。
おばあちゃんの体重が50kgだとすると、脳の重量は凡そ1kg。体重の2%程度しかない脳ですが、全身で使われる酸素消費の25%もの量を使わないと正常な活動ができません。全身で使われる酸素量比率の10倍以上になる。これは膨大な量です。
おばあちゃんは重度の貧血がありました。貧血って、ヘモグロビンの低下や赤血球細胞数の減少があるわけですから、脳に届く酸素量も大変少なくなってしまう。
その上、肝臓の機能低下でアルブミン産生が減り、血管内の水分量も減っていたと思われます。と言うのは、血管内の水は血管から外へ出て浮腫みとなり、健常人と比べれば脳血流も悪くなっていたはずです。
これでは脳の働きが低下しても不思議ではありません。
それだけではなく、食事からもタンパク質はあまり食べられておらず、脳内エネルギーの不足も続いたのだろうと思います。と云うのは、タンパク組成材としてのアミノ酸がエネルギー産生と大きく関わっているために、その減少から、脳内のエネルギー量も足りなくなってしまいます。
おばあちゃんは、タンパク不足、アルブミン生産不良、鉄欠乏性貧血、等々、いろいろな素因が重なって、認知症状が急激に進んだのでしょう。
ところが、おばあちゃんの貧血回避のために全血輸血されて、今まで足りなかった栄養がいっぱい摂り込まれたので、一時、認知症が回復したのです。
貧血を軽視してはいけません。だからと言って、重度の鉄欠乏性貧血患者が全て認知症になるかと云うと、そういうものでもありません。この辺りが、人間の機能的疾患の不思議さですね。
次回、重度の鉄欠乏性貧血の改善例をご紹介しながら、貧血について説明したいと思います。