「天才」
わたくし、基本的に、本は図書館で借りています。これは、我が家の立替のときに信じられないほどたくさんの本をブックオフに売り渡し、だというのにほんの数千円にしかならなかった、という苦い経験からきているのですが・・というか、それでもうちの本棚はすでにいろいろ溢れていて、もうまったく予断を許さない状態だからなのですが・・いや、本はさ、図書館で一度読んで、どうしても二度目以降に読みたい本だけ買う、というスタイルが一番効率的なことに気づいたのですわー。だがしかし!ごく少数の、わたくしにとって特別なシリーズの続巻が出た場合は、問答無用で新刊を買うことにしています。1)酒見賢一さんの「泣き虫弱虫諸葛孔明」。2)京極夏彦さんの「妖怪」シリーズ。3)今市子さんの「百鬼夜行抄」。4)古野まほろくんの「天帝」シリーズ。そして今回、出版社とすったもんだの末、既刊本が全て廃盤となっていた古野まほろくんの「天帝」シリーズ第五冊目が、もうあらんばかりのいわく因縁つきで出版されました。その名も、天帝のあまかける墓姫。天帝のあまかける墓姫/古野まほろ¥1,995Amazon.co.jpひえええええええええええ、天才だああああああああああああああ。わたくし、自慢ではないですが大変に読書のスピードが速く、そして集中力がものすごいため、一度本を読み始めたらなりふり構わず、最後まで読みきってしまうのが常なのですが。これに関しては、あまりの濃さに、ゼイゼイ言っています。そして、読み始めて三日もたつのに、まだ半分までしかすすんでいません。すっごく面白いんだけど!!!何が面白いって、この人、いったい誰のために書いているんだろう、という感じなのよー。ちょっと一文、引用してみます。<<ヒトとヒトとは本来易典(エデン)で解りあっていたことを思い出すと――僕は世界史の教科書を採りだし、デカルトのあの台詞に大きく"Je peux, donc je suis"と上書きしたほどだ。>>と来たもんですよ。そしてこれに関しての注釈、説明、脚注の類は一切なし。いえこのくらいわかるのが常識だ、というご意見はあろうコトとは思いますけれども、世の中で行われている「クイズ」のレベルなどを考えると、これがわかるヒトが、このまるでライトノベルのような装丁の、さして有名ではない作家の推理小説を手に取るということは意外と稀なのではないでしょうか・・お分かりの方には失礼して、わたくしの理解した範囲で解説させていただけば、これは、(前半は、エデンの園でわかりあっていたアダムとイブのことだということでいいとして、)まずデカルトの「あの台詞」っていうところで「われ思う、ゆえにわれ在り」を思い出すのが最低ライン。そして、これが一般には「コギト・エルゴ・スム」というラテン語で表記されていることを知っているのが次のライン。そしてさらに、実は、デカルトはフランス語でこれを書いていたので、原文では"Je pense, donc je suis"であったことに思い至れば合格ライン。つまり彼は、Je pense の部分を Je peux に書き換えた、といっているわけで、これは日本語に直せば、「思う」の部分を「出来る」に書き換えた、ということ。まあ、これをデカルトが意図した哲学的命題に置き換えると、またいろいろとめんどくさいことになりそうなのでそこは省きますが、上記、わからなくてもまったく小説の内容には関係ありません。が、これと同じレベル、あるいはもっと大変なレベルの雑学、外国語の知識、宗教、神話、文学、物理紅茶、料理、そして同レベルよりもっとずっとマニアックなガンダムとエヴァンゲリオンの知識が、もう次から次から溢れんばかりに出てくるの!!読んでて本当に疲れる、と同時に、この衒学とその蕩尽は、わたくしのような文弱の徒にはたまらないのですわ・・答えのない雑学問題を次々と出されている気分。そしてクイズというクイズに答えてしまうのが、衒学マニアなわたくしたち。基本的にわたくしは、エンプティ・リファレンスは嫌いなんです。思わせぶりな引用、という意味の。エヴァンゲリオンはそういう意味で、わたくしは好きじゃない。思わせぶりなだけで、ちゃんとした意味がないから。まあ最近の新しいエヴァはフォローしていないので良くわかりませんが、少なくとも昔見たときにはそう思いました。でも古野まほろの引用は、思わせぶりじゃない。意味があることには徹底的に意味があるし、意味がないことには徹底的にない。いやあ「天才」ってこういうひとか、と思います。わたくしも文章を書かせていただいたりする関係上、いろいろと人の文章から学ばせていただいたりするのですが、この人は天才過ぎる。そして潔すぎる。いったい何者なんだ、古野まほろ!!!何しろまだ半分までしか読んでいないので、最終的な評価は先送りしますが、もうこの時点で満点です。今後どんな展開であっても、この本を出版できたということ、そしてこんな読んでも読んでも終わらない本をたった1900円で提供してくれたことに拍手喝采!